企業に求められるコミュニケーションを 構想できる人材を養成

広報プロフェッショナルを養成する社会構想大学院大学 コミュニケーション研究科。専門職大学院で広報・コミュニケーションの担当者が、学び直すことで、どのような効果がもたらされるのか。4つの視点から整理する。

あらためて「リカレント教育」とは

コミュニケーション戦略を専門とする国内唯一の専門職大学院「社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科」の社会人学生は、日々「コミュニケーションの本質」に肉薄するために学んでいる。

この連載では前号まで4回にわたって、組織のコミュニケーション担当者が大学院での「リカレント教育」(社会人の学び直し)に取り組む効果や意義、必要性について、実際の学生や修了生の声をもとに解説してきた。今号では改めてその内容を振り返り、「VUCAの時代」、あるいは「不確実な社会」においてコミュニケーションの学びがどのような効果をもたらすのか、改めて考えるきっかけを提供したい。

そもそも昨今「リカレント教育」が注目を集める理由は、産業界全体で「高度に複雑化した社会では知識のライフサイクルが短期化しており、組織や社会が直面する問題を解決するためには、継続的な『学び直し』により知識や思考枠組みをアップデートし続けることが効果的である」という共通認識ができつつあるためだ。

加えて組織内で情報を扱い、コミュニケーションを担う仕事に着目してみると、「Society 5.0」と呼ばれる社会では、各組織内において「情報のターミナル」として機能する役割が求められている。

このようにコミュニケーション部門にも、学び直しと機能のアップデートが求められているわけだが、この領域の専門性習得は、OJTによって高められてきたのが国内の実情だ。2017年に本研究科が設置された理由は、社会人がそうした領域を体系的に学ぶための教育機関が不足していることに我々が危機感を抱いたことにある。

専門職大学院「4つの効果」

本研究科は、これまでの教育研究実践から、広報・コミュニケーション担当者が専門職大学院で学び直すことに「4つの効果」があると考えている。

図 専門職大学院での学び直しによる「4つの効果」

第1に、直接的・間接的な「実務への波及効果」だ。前者はたとえば、授業や研究を通じて身につけた知識やディベートの技法、情報整理術などが業務改善に繫がることを指し、後者は自らが大学院で学ぶことにより周囲へ刺激を与えたり、業務と学びの両立にあたって周囲の協力を仰ぐなかで業務の属人性が解消されたりといった副次的な効果を指す。学び直しの「費用対効果」がいまいち、イメージできず一歩を踏み出せずにいる方は、このような観点から自身や周囲の変化を想像してみるとよいかもしれない。

第2に、多様な属性の学生・教員との継続的な対話により、「日々の業務のなかで凝り固まった価値観を解きほぐしつつ、ネガティブ・ケイパビリティが涵養される」という効果が挙げられる。社会人学生が自らの「コミュニケーション観」をすり合わせることは、「自身の組織が特殊である」という神話を脱却するきっかけになるし、「他者から学ぶ姿勢」そのものを身につけることにも繫がる。

また、答えのないテーマについて日々ディスカッションを行うことは、「不確実な状況に耐える能力」、すなわち現代のコミュニケーション担当者に必要不可欠なネガティブ・ケイパビリティを高める唯一の方法である。こうした人間関係を「会社の外に持つ」ことは、人の価値観の多様性や世の中の複雑さについて改めて実感するための契機となるだろう。

第3に、専門職大学院での2年間の学びは社会人にとって「止まり木」としての役割を果たす。日々の仕事がルーティン化し、不可避的に視野が狭くなるなかで、理論的視座や他者との対話を通じて俯瞰的に実務をとらえ直す機会は、自分自身のキャリアについて考えるかけがえのない時間になる。「学び直し」とは、単に最新のスキルを身につけるだけでなく、立ち止まって自身の生き方を見直し、社会人が止まり木の上で広い視野を手に入れるための営みなのだ。また、「社会人大学院は『意識の高い人』が集まる場所ではなく、ごくふつうの社会人が、ごくふつうに学び直しに取り組んでいる」という事実もぜひ知ってもらいたいところだ。

第4に、専門職大学院では最先端かつ産業界からの評価を受けたカリキュラムを通じて、「いま必要なことと今後必要になることの両者を学ぶことができる」ことも大きな効果といえる。専任教員(大学の運営に携わる教員)の3割以上に「実務家教員」を配置することが義務づけられる専門職大学院では、その領域で高度な実務能力を有し、教育指導力も兼ね備えるアンテナの高い教員が、最先端の内容、数年後に世の中に広まるであろうテーマを先んじて教えているというわけだ。

また専門職大学院の趣旨は「理論と実践の融合」であるといわれる。学術理論と実務経験を融合し、新たな理論を生成することができるのもこうした教育機関ならではといえる。さらに、専門職大学院のカリキュラムは各領域の実務家や有識者で構成される「教育課程連携協議会」をはじめとする外部からの検証・助言等を定期的に受け、継続的にその改善を図ることが義務づけられている。

このように、各専門職大学院が提供しているカリキュラムが「自分たちの考えだけで勝手に作ったものではなく、適切性が客観的に担保されている」というのは、大きなメリットではないだろうか。

2023年度のカリキュラム

最後に、我々が2023年度にどのような挑戦をするかを示し、結びとする。本研究科では広報と経営を表裏一体の存在と捉え、「理念を基軸とした広報・コミュニケーション」を学ぶことを旨としている。本年度は、そのために必要な理論的視座を養い、知識を身につけるための「経営学基礎理論」の授業を新設した。また、研究の経験がない学生に知識生産の理論と技術を提供する「実践研究法Ⅰ・Ⅱ」も新たに設ける。こうした科目を整備することで、学生による「理論と実践の融合」をさらに促進できると考えている。

この領域を扱う国内唯一の専門職大学院である本研究科に、本年度もぜひ期待して欲しい。

 

橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科 専任講師

 

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