インフラ領域のDX AI・ビッグデータで水道管の劣化を予測

全国的な課題であるインフラの老朽化。特に上下水道は住民の命に直結するものであるだけにメンテナンス・更新が重要だが、更新以外の調査コストなども自治体の負担となっている。Fractaでは、AIや環境のビッグデータを活用し、低コストなインフラ劣化予測サービスを提供している。

加藤 崇(Fracta CEO)〔左〕 樋口宣人(Fracta 日本法人 代表)〔中〕 森山大器(Whole Earth Foundation Co-founder&CEO)〔右〕

「シリコンバレー発」の日本企業

2015年に米国・シリコンバレーで設立されたFracta。創業者の加藤氏は人々の暮らしに密接にかかわり、ひとたび不具合が起こると生活に大きな影響を与えるインフラ老朽化という課題に対し、テクノロジーによる解決ができれば大きな社会益を生むという思いから起業に至ったという。

通常であれば日本で事業を始めるところだが、加藤氏は米国で会社を設立する。“Make Japan Visible in the US”、すなわち『アメリカに日本の旗を立てる』ことをビジョンに、「日本ではなく、先にアメリカで売る」と宣言し、事業をスタートさせたのだ。

AIで水道管の劣化を予測、更新を最適化

近年、先進国ではインフラの劣化が課題となっている。日本でも、特に地方都市では急激な劣化が進み、中でも進行が早いのが水道インフラ。人口減少に伴い財源は不足し、水道事業の現場では技術者不足や熟練者の高齢化などの課題も浮き彫りになっている。Fractaは『AIによる地下管路のインフラ診断』というアプローチでこの課題に取り組む。

水道管の劣化にかかわる環境要因リスクを可視化したヒートマップ。人口などの基本情報や地形情報など百数十種のデータと、自治体が保有する水道管路や漏水事故等に関するデータを組み合わせ、分析する。AIは過去のさまざまな水道管事故について、その状況を学習しており、高精度の分析が可能だ

「この診断ツールでは、1~5年以内における水道管の劣化確率を予測します。行政が持つ水道管路図や漏水事故などのデータを、地理的データや人口統計データ等の環境ビッグデータと組み合わせ、分析します」とFractaの樋口氏は説明する。

従来のメンテナンスでは、材料や土壌に焦点をあてた分析方法がとられてきた。この方法では対象自治体の管路全体の分析診断を取りまとめるのに年単位の時間を要する。対して同社のサービスでは、AIを駆使することで最短2カ月程度で診断が完了する。

「人口などの基本情報や、土壌・河川など地形に関するデータ、交通網のデータなど、合わせて百数十種類のデータをAIを用いて分析します。水道管1本1本の漏水事故確率を算出することで、街全体の水道管の劣化状態を俯瞰することができます。AIは『いつどこでどんな状況下において事故が起きる/起きない』というパターンを徹底的に学習しているため、高精度な解析が可能です」(樋口氏)

予測結果はヒートマップとして可視化され、更新投資や漏水調査などの意思決定時に有益な情報になる。これは事故の防止だけでなく、メンテナンスの優先順位を決め「あえて補修しないことを選択する」判断の助けにもなるという。

「意思決定は、街の状況や財政、そのほか諸々考慮すべき事項をあわせて、ある程度のリスクも許容しつつ行うことが重要です。ところが、判断材料となるデータが揃っていなかったり、データがあっても活用しきれなかったりするのが自治体の現状。そこを我々のサービスがサポートしています」(樋口氏)

同社のサービスは現在、米英日3カ国で展開。先行してサービス提供を開始した米国では、半数以上の州で合わせて85水道事業者に採用されている。日本でも政令指定都市から小規模な自治体まで、22以上の事業体で導入実績があるという。

市民とともにインフラ課題に向き合う

診断技術には、GIS(地理情報システム)をはじめとしたデータを用いており、地下管路以外のインフラ、たとえばトンネルや橋梁などにも適用が可能だという。

Fractaとともにインフラ課題の解決に取り組むWhole Earth Foundation(WEF、シンガポール)の森山氏は「診断サービスの対象インフラは拡大していく予定です。今まで可視化されていなかったものの、身近なインフラ課題はまだまだあります。身の回りの脅威が可視化されることで適切なアクションにつなげられればと考えています」と話す。

今後FractaとWEFは、技術的な解決のみならず「実行上の解決」も目指していくという。技術的な解決は診断サービスが担うが、実行上の解決とは、自治体や市民一人ひとりの意識に訴えかけるものだ。

「この診断サービスは、自治体というパブリックセクターが対象です。導入を進めるにあたり、必ずしも合理性だけで判断されるものではないと考えています。『一人ひとりの市民の力によって、地域全体をメンテナンスしよう』という市民意識を醸成することで『住民の声にしっかり応えなくては』と、自治体側の意識も変わるのではないでしょうか。単に『コスト削減につながりますよ』と訴求するより、意思決定につながりやすい場合もあるのではないかと考えています」(森山氏)

そこで新たに開始したのが『市民からの情報提供』の仕組み。

森山氏が代表を務めるWEFはブロックチェーン技術を用いた低コスト・高効率のインフラ管理手法を開発しており、Fractaとの事業提携により、一般市民を巻き込む形で実行上の解決を図る。

「ゲーミフィケーションなどを取り入れ、技術が受け入れられる土台づくり、そして市民参加を目指し、地域住民が自分ごととして街のインフラを考えられる環境を目指しています」(森山氏)

すでにWEFは、日本鋳鉄管と『市民参加型マンホール情報収集ゲーム』を用いた実証実験を行っている。

「市民がスマホでマンホールの写真を撮影し、陣取り合戦ゲームとして楽しみながら、より精度の高い情報を集めていく取り組みです。街をよりよくするための情報収集プロセスに、楽しみながら市民が加わる。こうすることで市民の当事者意識も高まるのではないかと考えています」(森山氏)

 

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