大阪商工会議所 共創と革新で拓く「大阪の底力」
大阪・関西万博は閉幕したが、関西エリアは「ポスト万博」に沸いている。大阪商工会議所はこの熱量やレガシーを未来へと繋ぐための新たな羅針盤として、2026年度からの中期計画を策定し、持続的な地域経済の発展を目指す。鳥井信吾会頭に、次世代へ夢を繋ぐ挑戦的なビジョンと戦略を訊いた。

鳥井 信吾(大阪商工会議所 会頭)
現場で見出した日本の原動力 経営者のバイタリティ
大阪商工会議所(大商)の会員は、大半が中小企業だ。2022年3月の会頭就任後、鳥井氏は約30社に自ら足を運び、現場の会員の声を直接聞いた。実感したのは、数字上の景況感を超えた、経営者たちの圧倒的なバイタリティだ。彼らに共通する「イノベーションを先導する力」「人材育成への熱意と知見」「夢に向かって進む心意気」の3点こそが、日本経済の底力だという。
「経営者自身がイノベーションのアイデア発想者として、自ら先頭に立って発明や発見に挑んでいます。特に2代目、3代目の若手経営者たちが放つ情熱に強い感銘を受けました。従業員一人ひとりに深く向き合う人材育成は、組織が小さい中小企業ならではの強みでしょう。そして、夢のあるストーリーとして具体的な目的や目標を自然に語る姿に、日本経済の原動力があるといえます」。
また、東大阪を中心とした製造業にも強みをもつ大阪だが、日本の上場企業の海外売上比率は40%にまで上り、これは日本の技術力とマネジメント力がグローバル市場でも通用している証左だと分析。
「精巧な技術でニッチな市場のシェアをとる中小企業が、先端技術で大規模な事業を展開する大企業とともに、日本のサプライチェーンを支えている。経営者がその自覚とプライドをもって、夢をもち、人材の力を引き出していく。そのような大きな動きにイノベーションの可能性があると思っています」。
感性や表現の変革
無形のレガシー
2025年に開催された大阪・関西万博は、およそ3兆円もの経済波及効果をもたらした。しかし、鳥井氏がより重視するのは、数字に表れない「感性の変革」だ。リアルタイムで隣にいるかのような没入体験ができるNTTの3D空間伝送実験技術「IOWN」や、IBMフェロー浅川智恵子氏が開発した、視覚障害者でもウインドーショッピングをするように街を歩ける「AIスーツケース」など、最先端の科学技術が人々、特に子どもや若い世代に与えたインパクトは、はかり知れないと感じている。
「158カ国・地域もの人々が参加し、世界を身近に感じられたことの意味は大きいと思います。来場者はいわゆる一般的な観光旅行と比べると、より能動的に楽しんでいたと思います。先端技術やユニバーサルなデザインに加えて、出展者の表現しようという意欲があふれていたからだと思います。出展者と来場者とのリアルな交流を通じて、今まで見たこともないものに触れたいと思う気持ちと、新しい体験を提供したいという想いが交錯する唯一無二の場がありました。報道などを通して知るのと、この場をリアルに体験するのとは大きく違ったと思います」。
地元館の「大阪ヘルスケアパビリオン」では、iPS細胞からつくられた心筋シートや、内視鏡への応用が期待される超極細金属製チューブなど、ニッチで高度な技術が集結。当連載でも紹介した大商が公益財団法人大阪産業局と共同で企画した「リボーンチャレンジ」では、432社もの中小企業やスタートアップが週替わりで自社の技術を披露した。

万博「大阪ヘルスケアパビリオン」内「リボーンチャレンジ」では、中小企業やスタートアップが週替わりで自社の技術を展示した
「自分たちは小さな町工場だが、この技術でここまで来られたのだと、来場者に胸を張って語る経営者の姿が印象的でした。精緻な技術だけでなく、『町工場』としてのスタンスを、誇りをもって伝える心意気を大変頼もしく思いました」。
ワクワクする機運にのって
中小企業の「底力」を引き上げる
物価高、円安、人手不足など、足元には多くの課題が山積しているが、大阪・関西万博を経たことで、ワクワクするような雰囲気や新しいステージに立ったときの期待感のようなものが充ちている。この機運を活かし、大阪のいたるところに埋もれている「ニッチな底力」をストーリーとして語る会員たちの情熱をつなぐことが、大商の役目だと捉えている。
レガシーを活かしてポスト万博の成長を支えるのは、やはり「人」であろう。大商は、大手企業のような潤沢な研修予算を持たない中小企業に対し、横の連携や学びの機会を提供するなど、多角的な支援を推進してきた。ビジネススクール「大商稲穂塾」はその象徴だ。経営者が学び直しをしたり、若手経営者同士が互いに切磋琢磨したりすることで、組織変革リーダーを育む場となっている。
また、日本アセアンビジネス促進プラットフォームも構築。海外、特にアセアン諸国の経営者との交流を深めている。宗教、民族、歴史の異なる国々の経営者とのセッションを通して、共通の目標や、手法や考え方の違いを共有することは、参加者にとって大きな刺激になっている。多様な価値観のなかで競争力を磨いていくためにどうすればよいかを考えたり、同じ目標に向かって共創する道を模索したりする、よい動きが生まれている。
「大企業では社内で体系的な研修プログラムを組み、互いに切磋琢磨もできますが、中小企業ではそのような機会が限られます。ですから大商が、しっかり支援します。企業規模に関係なく、日本の底力を発揮するための人材育成は可能だと考えています」。
新中期計画の中核は
共創のプラットフォーム
大商は現在、2026年度を始動年度とする次期中期計画を策定中だ。その中核に据えられるのが、「共創プラットフォーム」という概念。大阪・関西万博によるさまざまな成果を一過性のもので終わらせず、持続可能な社会実装へと繋げるための仕組みでもある。
「現代のビジネスは、1人の力では完結できないという考えが起点にあります。目的や目標を立てたら、他者の意見を自由に取り入れ、新たな価値を生み出すネットワークをつくるという考え方と行動を浸透させていきます。そのための中立的かつ永続的な仕組みを構築したいと思っています」。
大商が持つ多様な専門家ネットワークを動員し、技術と市場を精密にマッチングさせる機能を強化。神戸や京都の商工会議所とも連携し、関西広域でのビジネスへと展開していく。
例えば、新たに開発した医療器具を医療現場のニーズに照らして検証し、法的な認定を得るプロセスにおいて、大商が間にはいり、医療や法規制の側の専門家とマッチングする。「シーズ」に対して、潜在的な「ニーズ」をつかみとり、社会実装に至るスピードを高めるための仕組みだ。
「連携の必要性は多くの事業者が認識していると思いますが、『プラットフォームがある』ことを明確に知らせ、プロジェクトの進め方を可視化することで、連携やチャレンジの動きを後押しすることになるはずです」。
スピーディな社会実装を支援する一方で、鳥井氏は次世代の経営者や起業家たちには、「焦らずに待つ」ことも大切にしてもらいたいという。
「経営においてスピードは力です。しかしその一方で、待つべき時は20年でも30年でも待つ。待つことは、諦めないことです。機が熟すまで耐え忍ぶ気概が必要です」と力強く語った。
- 鳥井 信吾(とりい・しんご)
- 大阪商工会議所 会頭