「地域に必要とされ続ける会社」へ、新規事業を量産

山口県周南市で、廃棄物処理を中心とした環境事業を展開する中特ホールディングス。取締役未来創造室室長の吉本龍太郎氏(事業構想修士)は、グループの持続的な発展に向け、教育ビジネスや廃棄物アートコンテストなどの新規事業を次々と開発している。

吉本 龍太郎 中特ホールディングス取締役未来創造室室長、中国特殊代表取締役、
事業構想大学院大学福岡校1期生(2019年度修了)

山口県周南市の臨海部には化学や鉄鋼、セメントなどの基礎素材型産業が集積し「周南コンビナート」を形成している。中特グループはこの地で約60年にわたり廃棄物処理を中心とした環境事業を展開してきた。

「中特ホールディングスを中核会社に6社から組織される中特グループは、一般廃棄物収集運搬、産業廃棄物処理、リサイクル、下水道メンテナンス、プラント解体などの事業を行っています。グループ社員は約120人、2021年度の売上高は約16億円で、過去10年で1.5倍に成長しています」と、中特ホールディングス取締役未来創造室室長として経営企画・新規事業開発を担当する吉本龍太郎氏は話す。

中特グループは、一般廃棄物収集運搬、産業廃棄物処理、リサイクル、下水道メンテナンス、プラント解体などの事業を展開する

ゼロイチの力を身につける

吉本氏は大学卒業後、外資系保険会社勤務を経て、関東のリサイクル会社で3年間修行し、2018年に帰郷。叔母の橋本ふくみ氏が代表取締役を務める中特ホールディングスに入社した。

「中特グループは私の祖父が創業しましたが、子どもの頃は、会社を承継したいという気持ちはあまりありませんでした。廃棄物処理やリサイクルという家業をからかわれたこともありましたし、それが原因で作業着で働くことへの抵抗も当時は持っていました。しかし今では、私たちの仕事は社会や地域に不可欠な産業だと誇りに思いますし、SDGsやサステナビリティという潮流の中で成長分野であると考えています」

吉本氏は帰郷と同時の2018年4月に事業構想大学院大学福岡校に入学。「もともと営業活動は得意で、1を10に育てることは自信がありました。ただ、経営者としてはゼロイチの能力が必要だと考えていたころ、社長から事業構想大学院大学の存在を知らされたのです」

新幹線を使い、片道2時間をかけて週3~4日のペースで通学することは楽ではなかったが、「かなり充実していました」と振り返る。「私にとって初めての事業家コミュニティが事業構想大学院大学で、意識が高い人が集まり、新事業について語り合える環境は本当に勉強になりました。今も多くの同期が繋がり、現在進行系で色んなチャレンジをしていることに勇気づけられています」

ゼミは坂本剛特任教授(QBキャピタル代表パートナー)と井手隆司教授(スカイマークエアラインズ元会長)に所属、ビジネスモデルや事業への姿勢について鋭い指摘を受けたという。「ゼミ以外では、当時カンボジアで色々な事業を手掛けていた白砂光規特任教授(九州レップ代表取締役)に影響を受け、現在当社も海外事業にチャレンジしています」

幅広い領域で新規事業を開発
「必要とされ続ける会社」に

修了後、吉本氏は中特グループで次々と新規事業の開発を進めている。「中特グループの企業理念は『生活環境革命で人々を幸せにする』です。地域や市民から必要とされる会社であり続けるために、既存の事業基盤を活用しながら、新しいマーケットに既存サービスを展開し、既存マーケット向けに新サービスを開発しています」

順調に成長している新規事業が、2018年にスタートした遺品整理サービスだ。屋外に出された物を引き取るという従来の廃棄物収集運搬から発展し、屋内にある不用品の片づけを行う。山口県は高齢化率が全国3位(2020年国勢調査)と高いこともあり、サービスのニーズは大きく、3年目で黒字化を達成した。

遺品整理サービスは3年で黒字化

2022年4月からはプログラミングスクール事業に参入。英語でプログラミングを教える仕組みで、すでに30人の生徒がおり、今後の拡大が期待される事業だ。「教育分野ではもともとCSRの一環で環境学習を推進しており、小学校への出前授業や、海岸漂着物で作るクラフトアートワークショップなどを行っていました。地域にない機会を子どもたちに提供することも、企業が地域に必要とされ続けるためには不可欠であると考えています」

吉本氏は2020年以降、起業実践イベント「Startup Weekend周南」を毎年開催している。Startup Weekendは3日間でアイデア創出からプロトタイピング、ビジネスモデル構築などの新規事業の一連の流れを実践するもので、全世界で7000回以上開かれており、この周南市版を運営している。

「周南市は工業という強固な地場産業が存在し、県内の他エリアよりも経済縮小のペースは緩やかです。だからこそ、今のうちに新しい産業を創出する必要がありますが、スタートアップの風土はありません。起業文化の醸成に向けてStartup Weekendを行っていますが、将来的には風土定着の拠点としてコワーキングスペース等の整備も検討しています」

このほか、下水道維持管理や浄化槽管理の海外展開も検討。現在は東南アジアをターゲットにマーケット調査を行っている。

廃棄物に新しい命を吹き込む
アップサイクルアートコンテスト

廃棄物をできる限り有効活用し、社会に還元することは中特グループの重要なミッションのひとつ。すでに廃棄物のセメント材料へのリサイクルなどの事業を行っているが、2021年から新たな試みとして「COIL Upcycle Art Contest」を開始した。

「COIL Upcycle Art Contest」の模様

本来廃棄されるはずだった物が持つ特徴や魅力を活用したアート作品を公募、表彰するコンテストで、2回目となる2022年は、全国の経歴多様なクリエイター達から約130点の作品応募があったという。12月に開催された最終審査会では7点の入賞作品からグランプリ等を決定した。

「全国的にこのような廃棄物を活用したアートコンテストは珍しく、応募作品のレベルも非常に高かったです。今まで『廃棄物』と無縁だったクリエイターに対して廃棄物を素材にアート作品を生み出す機会を創出することができましたし、想像以上の反響を得て、環境問題への関心の高まりを感じられました。廃棄物アートはまだ市場が形成されていませんが、今後も継続的に情報発信やクリエイターとのネットワーク形成に取り組み、将来的には廃棄物アート流通の仕組みづくりにも取り組みたいと思っています」

大学院での研究や経験を活かし、次々とアイデアを形にしている吉本氏。「かつて、廃棄物・リサイクル業界で働く人は、子どもに仕事を隠すこともありました。私たちが目指すのは、『あの会社で働けるのってすごい』『この業界で働けるのが羨ましい』と言われること。そのためにも、マーケットニーズや社会課題を捉えた新規事業を創出していきます」と語った。