人口減少を克服する 長期ビジョン「わきたつ東北」実現へ邁進

東北6県及び新潟県において活動する(一社)東北経済連合会(略称:東経連)。東日本大震災からの真の復興へ向けた取組みを進めるとともに、2020年には「ポストコロナ・5つの提言」も公表した。最大の地域課題である人口減少に歯止めをかけるべく、多様な暮らし方と働き方を実現する先進地域を目指す。

東経連は、「東北は一つ」の基本理念のもと、1966年に発足。青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島の東北6県と新潟県に本社や活動拠点を持つ企業・団体を会員として活動を続けてきた。2023年1月18日、東経連会長の増子次郎氏が事業構想大学院大学 仙台で大学院生を対象としたセミナーを行った。

事業構想大学院大学 仙台の会場とオンラインで多くの院生が集まり、活発な議論がなされた

東北・新潟の地域開発と経済振興

2022年12月に設立57年を迎え、会員は東北・新潟の企業を中心に現在約820社。発足以来、日本の産業経済等に関する諸問題を調査研究し、東北・新潟経済界の総意をとりまとめてその実現を図り、東北・新潟の総合的な地域開発と経済振興を通じて、日本経済の発展に寄与するべく取り組んできた。

増子 次郎(東北経済連合会 会長)

2011年3月の東日本大震災時には、震災発生の翌4月に大震災復興対策特別委員会を設置し、5月に「大震災復興に向けた提言」を発表。また、2011年に東経連ビジネスセンターを設立し、東北・新潟の企業を対象に新規事業を支援。100名を超える各分野の専門家によるマーケティングやセールスなどの課題解決に向けたサポートも行っている。

2017年1月、第8代会長の海輪誠氏の時代に、人口減少、特に若年層の大都市圏への流出を東北・新潟地域の最大の課題と捉え、その解決へ向けた東経連新ビジョン2030「わきたつ東北」を発表した。新ビジョンの実現のため、2018年5月には、東北・新潟の産官学金のトップが一堂に会して地域課題を議論する「わきたつ東北戦略会議」も発足。さらに、2019年末からのコロナ禍による東京一極集中是正への流れを受け、2020年10月には「ポストコロナ・5つの提言」をまとめている。

2022年6月に第9代会長に就任した増子次郎氏は「震災からの自律的復興とポストコロナへの道筋をつけてこられた海輪前会長の流れを、私が引き継ぐこととなりました」と話す。

「わきたつ東北」3つの柱

東経連設立50周年の節目に策定した長期ビジョン「わきたつ東北」は、(1)地域社会の持続性と魅力を高める、(2)稼ぐ力を高める、(3)交流を加速する、を事業推進の3つの柱に据えている。

(1)地域社会の持続性と魅力を高める、では地域の関係者が同じ方向を向き、一体となって取組みを進めるとともに、産学官金のトップが歩調を合わせて課題解決に取り組む。そのための東北・新潟の広域連携プラットフォームが「わきたつ東北戦略会議」だ。仙台市での第1回から、2022年11月の盛岡市までで10回の会議を開催した。

会議の内容について、増子氏は「若者の還流・定着や地域産品の輸出、AI・IoTの導入促進など、東北・新潟共通の地域課題をテーマに議論を重ねています」という。

(2)稼ぐ力を高める、においては、最先端の研究開発プロジェクトを誘致し、それに伴って新産業を創出することを狙いとする。具体的には、次世代放射光施設の建設、国際リニアコライダー(ILC)の誘致、福島イノベーションコースト構想の推進支援、大学発ベンチャー・スタートアップ支援などを進めてきた。

特に、次世代放射光施設「ナノテラス」は、巨大な研究施設を設置する官民共同プロジェクトとなる。東北大学の青葉山新キャンパス内に建設中で、2023年度中に稼働を開始する。

「24年度に供用を開始し、中央の大企業も含め、さまざまな方が利用し、研究を進めることになります。『ナノテラス』を核とし、企業や学術の研究施設が集積する『リサーチコンプレックス』の形成を目指していきます」。

3本目の柱である(3)交流を加速する、では観光を強化し、基幹産業化していく。具体的には、外航クルーズ船の誘致に2016年から取り組んでおり、コロナ禍でクルーズ船の寄港数は落ち込んだものの、2023年には回復の兆しを見せている。

デュアルライフ東北
地方分散のトップランナーに

2019年末からの新型コロナウイルス感染症の流行は、社会に大きなダメージと変化を与え、東経連の会員企業も影響を受けた。それを受け、2020年10月には「ポストコロナ・5つの提言」を公表した。

その中心的な概念となるのが「デュアルライフ東北」。コロナ禍で進んだテレワークの定着、大都市圏から地方への人の流れをチャンスと捉え、まずは関係人口の増加を目指していく。

「東北・新潟に仕事や暮らしで関わりを持つ関係人口の増加を目指していきます。『ポストコロナ・5つの提言』は、これを実践することで、東北・新潟を多様な暮らし方、働き方が可能な地方分散のトップランナーにしていく、という構想になっています」。

東経連では、首都圏の在住者に対しデュアルライフのロールモデル(兼業・副業やリモート移住等)を発信する「WEB事業」と、企業経営者向けの兼業・副業の促進に向けた「啓蒙事業」の2つの側面で事業を展開している。

この他、増子氏は東北・新潟で進行中の様々な科学技術プロジェクトが、人材を惹きつけ新産業を生み出す土壌になると期待している。太平洋側では「ナノテラス」をはじめ、ILCの誘致、福島県イノベーションコースト構想などが進む。一方で日本海側では、洋上風力発電をはじめとした再エネの利活用に向けた投資が見込まれている。さらに、デジタル化やDXを支える半導体関連工場についても、複数の工場建設計画が公表されている。

「今後は、最先端の科学技術を核に多くの企業・研究機関の集積を図りたい。それとともに、地域企業やスタートアップによる地域発イノベーションを創出し、地域活性化に繋げたいと考えています」。

東北・新潟地域の最大の課題は人口減少だ。少子高齢化はコロナ禍で一層顕在化しており、地域自らの変革が求められている。感染症の流行が収まらない中で起きた、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻、その影響を受けて不安定化する世界情勢と、先の予測は難しい。しかし困難な状況でも、東北・新潟が一体となり、産業振興と雇用の創出に取組み、「わきたつ東北」の実現を目指していく東経連の方針を増子氏は示した。

 

増子 次郎(ますこ・じろう)
東北経済連合会 会長