脱炭素に挑む自治体を広く支援 地域脱炭素ロードマップと政府施策

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた地域・自治体の役割は大きい。政府は2030年までに脱炭素先行地域100か所の創出を目指し、意欲的な自治体に対する人材・技術・情報・資金の支援を進めていく。

2021年8月、世界の科学者が集まる国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、最新の科学的知見の総括として、「人間の影響が大気海洋陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」と示し、人間の活動が温暖化の原因であることが初めて断定された。

日本においても、近年各地で豪雨や台風による風水害が激甚化しており、気温・海面水温の上昇が総降水量の増加に寄与したことが指摘されるなど、気候変動により将来強い台風の割合が増加するとの予測がある。

日本では2020年10月に当時の菅義偉総理の所信表明で2050年のカーボンニュートラルと脱炭素社会の実現が宣言され、中長期の戦略的取り組みと目標が設定されました。これを受けて2021年5月に成立した地球温暖化対策推進法の一部改正では、2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念として法律に位置付け、地域の脱炭素化に貢献する事業を促進するための計画・認定制度の創設や、脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進が盛り込まれました」と、環境省環境計画課課長補佐の三田裕信氏は語る。

100の脱炭素先行地域を創出

2021年6月に国・地方脱炭素実現会議が決定した「地域脱炭素ロードマップ」では、今後5年間を集中期間としてあらゆる分野で関係省庁が脱炭素に関する政策を総動員し、2030年度までに100か所の「脱炭素先行地域」を創出することが示された。

図1 「脱炭素先行地域」とは

出典:環境省

「脱炭素先行地域」第一弾の募集には全国から79件(102自治体)からの応募があり、選定された地域には200億円の予算から原則3分の2の交付率で自治体の再エネ設備、基盤インフラ設備、省CO2等設備などの導入支援が行われる予定だ。第二弾以降は年に2回の頻度で2025年まで公募を実施する予定だ。

またロードマップでは、脱炭素先行地域を含め全国で取り組むことが望ましい脱炭素の基盤となる8つの重点対策を挙げた。具体的には、①屋根置きなど自家消費型の太陽光発電、②地域共生・地域裨益型再エネの立地、③公共施設など業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導、④住宅・建築物の省エネ性能等の向上、⑤ゼロカーボン・ドライブ(再エネ電気×EV/PHEV/FCV)、⑥資源循環の高度化を通じた循環経済への移行、⑦コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり、⑧食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立だ。

図2 脱炭素の基盤となる8つの重点対策

出典:環境省

「地域裨益型というのは、再エネ事業が収益や雇用などの形で地域に貢献することです。地域における投資で収益が出て、地域の中で所得として回していくことが、地域脱炭素の意義の一つです。また、日本は限られた国土を活用し、面積当たりの太陽光発電を世界一まで拡大してきましたが、コストや適地確保、環境共生などでの課題は山積しており、国を挙げてこの課題を乗り越え、地域の豊富な再エネポテンシャルを有効活用していくことが大事です。例えば、兵庫県では営農を継続しながら太陽光発電を行う場合の導入に無利子貸付で支援しており、同じく兵庫県の淡路市ではため池での太陽光発電設備の設置についてのチェックリストを整備し、スムーズな利用を促しています」

新たな交付金制度を創設
人材・技術・情報・資金を支援

こうした脱炭素地域づくりを国はどう支援していくのか。まずカーボンニュートラルに取り組む自治体を総合的に支援する交付金を創設。年度間や事業間の調整が可能となり、単年度施策に陥りがちな事業を計画的に柔軟に実施することが可能となっている。

国はカーボンニュートラルに取り組む自治体向けの交付金を創設するなど、支援体制を拡充している(画像はイメージ) 

中心となる取り組みは2つで、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金と地域共生型再エネ導入加速化支援パッケージがある。地域脱炭素移行・再エネ推進交付金は、脱炭素先行地域作りに取り組む地方自治体に脱炭素先行地域への選定を要件にして、原則3分の2の交付率で、再生可能エネルギーや断熱材などの省エネ、蓄電池、エネルギーマネジメントシステムなどの蓄エネ設備を支援する。重点対策を組み合わせて複数の取り組みを行う自治体にも本交付金で支援を行う。

地域共生型再エネ導入加速化支援パッケージは、脱炭素に関する知見や人材が不足している、または域内の合意形成がこれからの地域が活用できる支援事業で、地域脱炭素計画や再エネ目標の策定、地域関係主体の合意形成、また設備導入として防災にも資する自立・分散型エネルギーシステム導入などにおける計画等策定で活用できる補助金となっている。

また、補助金や自治体単独の事業に対する地方財政措置も用意されており、再生可能エネルギー設備や省エネ設備への投資に対して地域活性化事業債、過疎対策事業債などがこれまで通り活用可能だ。令和4年度からは新たに公共施設等適正管理推進事業のうち、脱炭素化事業に関する地方財政措置を用意し、太陽光発電やZEBの実現、省エネ改修などで活用可能となる。

「地域への再エネ導入主体となる自治体には知見や専門人材が必要かと思いますが、その方面でも様々な省庁の事業が活用可能です。例えば環境省では地域再エネ事業持続のための中核人材育成を行っており、内閣府では地方創生人材支援制度でグリーン分野の民間専門人材派遣が新設される予定で、さらに総務省では企業版ふるさと納税の人材派遣型で脱炭素推進事業に対して民間の人材を自治体に派遣できるようになっています。地域脱炭素化を進めるなかでは様々なフェーズがあると思いますので、関心がありましたら、まずはお近くの環境省地方環境事務所にお問い合わせください」と三田氏は締めくくった。