新潟県加茂市とNTT東日本が防災分野で連携 住民参加型の先進的防災モデルをつくる

新潟県加茂市とNTT東日本は現在、防災に関する取り組みを連携して進めている。事業構想大学院大学では「自治体DX会議 加茂市×NTT東日本」として、加茂市長の藤田明美氏とNTT東日本新潟支店長の德山隆太郎氏に、現在の取り組みの状況や今後の構想について聞いた。

左より、東日本電信電話株式会社 新潟支店支店長 德山 隆太郎氏、加茂市市長 藤田 明美氏、
事業構想研究所 教授 河村 昌美氏

災害時の自助・共助について
市民の意識を高めることが課題

新潟県の中央に位置する加茂市は、豊かな自然や歴史的景観に恵まれ、古くから「北越の小京都」と呼ばれている。市内の7割は山林で、加茂川が市街地を二分する形で流れている。加茂川は信濃川に合流しており、ちょうど信濃川が蛇行する部分に加茂市が位置しているため、市長の藤田明美氏は「自然災害では特に水害リスクが大きいと意識し、防災・減災対策に取り組んでいます」と言う。

加茂市では、防災に関して主に2つの課題が存在してきた。第1に、市の地域防災計画は1995年以降、長年にわたって大幅な改定がなされておらず、2021年3月に約25年ぶりに計画を改定した。第2に、人的被害が出るような大きな自然災害が50年以上発生しておらず、災害や防災に関する市民の記憶や意識が薄れていることがあった。

「市内の自主防災組織率は10.9%と全国的に見ても低く、組織率を上げることも大切です。また、自助・共助・公助という観点では、これまでどちらかというと公助に頼る部分が大きかったと思います。市民が災害時には自分は何をすれば良いのかと考え、互いに助け合う意識を持つことも重要です」(藤田氏)

デザイン思考を取り入れた
防災ワークショップを開催

これらの課題がある中、加茂市は2022年4月、災害が発生した際に通信障害を早期に復旧させ、市民生活の早期安定を図ることを主な目的としてNTT東日本新潟支店と「災害時における相互協力に関する基本協定」を締結した。さらに同年8月に、地域住民やNTT東日本の社員、市職員が参加する、防災に関するワークショップを行った。ワークショップの手法には、ユーザーが抱える真の課題と最適な解決方法を探索する「デザイン思考」を取り入れた。

加茂市でのワークショップの様子

 

図 デザイン思考とそのプロセス

「デザイン思考」は、製品やサービスのユーザーが抱える真の問題と最適な解決方法を探索し創出する思考方法であり、DX推進において顧客に新しい価値提供をするために有効な手法である(出典:情報処理推進機構 「DX白書2021」)。スタンフォード大学のd.schoolで作成された上記のようなプロセスを、何度も繰り返しながら進めていく。

NTT東日本新潟支店長の德山隆太郎氏は、「NTT東日本は地域密着の会社で、社員は地域住民でもあります。私たちは今後も長く地域とつながっていくことを考え、人材育成の子会社を作り、そこを中心にデザイン思考を取り入れたワークショップや計画づくりのお手伝いをしています」と語る。加茂市では今後、住民参加型の防災モデルを作り、将来はそれを「加茂モデル」として国内外に拡げていけるよう、ブランディングもしていきたいという。

「今回のワークショップでは、災害弱者とされる高齢者や障害を持つ人々の立場に立ち、『必要なものは何か』『課題は何か』と皆で考えていったところ、市役所の中で考えているだけでは、まず出てこないようなアイデアがたくさん出ました。多様な意見が集まれば、これまでにない新しいものも生み出していけると思います」(藤田氏)

市では今後、防災拠点となる場所や避難所を整備していきつつ、市民が災害時に取るべき行動や、自助・共助はどのようにすればいいかという点に関してサポートしていきたいという。

一方、災害の予測に関する研究や発災後の情報収集・情報提供は、NTT東日本の通信技術が活かせる分野だ。このため、德山氏は「私たちは人と技術の両方で、防災に関するいろいろなお手伝いができると思います」と言う。

地域ブランディングに向けた
公民連携にも期待

加茂市の人口は1956 年の約4万人をピークに減少が続き、2005 年以降は特に減少率が大きくなった。現在の人口は約2万5000人だが、団塊世代が平均寿命を迎える2027年前後から、減少率はさらに大きくなるとみられている。このため、人口減少や少子高齢化対策は、市にとっては最大の課題だ。また、そこから生まれる他の課題も多く、例えば、産業界にはなかなか後継者が見つからないという課題がある。

「今後はDXを進めることで、新しい技術を通じて課題を克服できる部分もあると思っています。防災とも関連する課題では、人が少なくなると地域のコミュニティや人のつながりが弱くなってしまうということがあります。それらをカバーするためにも民間の方々にご協力いただき、公民連携で取り組んでいくことが重要だと感じています」(藤田氏)

また、今後の地域活性化に向けたブランディングという点でも、公民連携への市の期待は大きい。

「自然が豊かで由緒ある寺院や神社も多い加茂市は、『北越の小京都』と言われています。商店街のエリアもあれば中山間地域もあり、訪れてほしいエリアはたくさんありますが、現在は外から来てくださる方が多いというわけではありません。今後は市の魅力発信においても、NTT東日本の方々と連携できれば嬉しいです」(藤田氏)

こうした公民連携について、德山氏は「地域課題の解決に向けて、NTT東日本がいろいろな企業様との関係値を活かして、コーディネートしていく。このコーディネートを、いろんな色をどんどん補充していくことに例えて、プリンタービジネスと呼んでいます。広報についても、産官学連携に『報』を加え、通信の力を使って広報活動を行えば、もっと世界にもつながっていけるはずです」と、指摘する。今後も、さらなる連携を拡げていくことで貢献していきたいという。

これらの点に関し、今回ファシリテーターを務めた事業構想研究所教授の河村昌美氏は「互いの足りない部分を補完し合い、新たな価値を創っていくのは大事なこと」と指摘。さらに「自治体などの行政機関と企業が連携し、地域住民の想いを活かして三角形でリンクするような形で進めていけば、いい解決策が見つかるのではないでしょうか」と述べた。

藤田氏は「加茂市は小さな自治体だが、だからこそ迅速に取り組めることも多い」とし、まずは防災分野で住民参加型の世界に先駆けたモデルを作り、発信することをめざしたいと展望を語った。

 

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