省エネ・再エネの促進と水素社会の実現へ 「ゼロエミッション東京」

2050年までに世界のCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現するため、「2030年カーボンハーフ」を目指す東京都。その実現に向けたビジョンや具体的な施策などについて、二人のキーパーソンが解説する。

カーボンハーフへの道筋を具体化
実効性のある施策を推進

気候危機が一層深刻化する中、世界は2050年までにCO2排出実質ゼロという共通のゴールに向けて歩みを進めている。2050年ゼロエミッションの実現に向けては、2030年までの行動が極めて重要になる。東京都は行動の加速を後押しするマイルストーンとして、 2030年までに都内温室効果ガス排出量を50%削減(2000年比)する「カーボンハーフ」を目指すことと、再生可能エネルギーによる電力利用割合を50%程度まで高めることを表明。この実現に向けて、2019年12月に策定・公表した「ゼロエミッション東京戦略」を2021年3月にアップデートし、行動を加速させている。

カーボンハーフへ向けた東京都の取り組み:規制等も含めた施策の抜本的強化

出典:東京都「2030年カーボンハーフに向けた取組の加速」

東京都は2021年5月、東京都環境審議会にて東京都環境基本計画の改定に着手するとともに、条例による制度の強化・拡充の検討を進めている。気候変動分野の施策のあり方については、他分野に先駆け同年12月まで集中的に審議を行い、業務・産業、家庭、運輸等の部門別CO2排出量やエネルギー消費量削減の新たな目標水準と、施策の基本フレームを提示し、議論を深めてきた。

これまでの審議会での議論も踏まえ、東京都は2022年2月、「 2030年カーボンハーフに向けた取組の加速-Fast forward to “Carbon Half”-」を策定・公表した。この中で、カーボンハーフに向けた道筋を具体化する取り組みとして以下の3点を整理している。1点目は、各部門が目指すべき削減目標を明らかにし、各部門の削減対策を促進する「行動の加速を促す新たな部門別目標(案)」。2点目は、条例制度の新設・強化や支援策の拡充等により脱炭素化を推進する「規制等も含めた、施策の抜本的強化」。3点目は、社会を牽引するため、都自らの取り組みを加速する「都自らの率先行動を大胆に加速」としている。

カーボンハーフに向けたエネルギーの利用施策には、省エネと再エネ(再生可能エネルギー)の二つの軸がある。

「まずは使用するエネルギー量を最大限減らし、それでもなお使わざるを得ないエネルギーについては、太陽光・風力・地熱・水力・バイオマス等の再生可能エネルギーを使うことで、CO2の排出を減らすことを目指します」と東京都環境局地球環境エネルギー部計画担当課長の山内真氏は話す。

山内 真 東京都 環境局 地球環境エネルギー部
計画担当課長

新築住宅等への
太陽光発電設備設置義務化へ

省エネの取り組みで特に強化すべきは、都内CO2排出量のうち全体の7割を占める建物対策だ。建物は数十年にわたって使用されるため、今後の新築建築物が2050年の東京を形作る。なかでも、住宅の省エネ対策は環境面だけでなく、防災や健康確保の観点からも重要だと言える。

たとえば、太陽光発電設備を設置すると、災害時に系統電力が停電してしまった場合も自立的に電気を使うことができるうえ、電気代削減や売電収入が得られるメリットがあります。さらに、住宅の断熱性能を上げることは、省エネになると同時に健康確保や暮らしやすさにもつながります。こうした多様な観点で、新しくできる建物の活用を考えることも肝要です」(山内氏)

政府は2030年に新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備の設置を目標に掲げているが、都内の設置状況は設置に適した建物のうち4.24%に留まる。そのため、東京都は住宅等の新築建築物について、太陽光発電設備の設置を義務づける条例制定を目指している。「設置を義務づける対象者はハウスメーカーや不動産デベロッパー等のうち都内への共有規模が大きい事業者にすることを検討しています。義務の量は、設置実態や都内の地域特性等を踏まえて設定していきます」(山内氏)

「業務・産業部門」においては、再エネの利用拡大に向けた支援策を大幅に拡充する。補助事業は大きく2つ。1つは、事業者が都内で自家消費型の再エネ設備を導入する、いわば地産地消による再エネ導入を行う場合に支援するもの。もう1つは、事業者が自社施設へ再エネ電力を供給するため、都外に設置する再エネ設備の導入支援を拡充し、再エネ電源の創出・電力調達を後押しするものだ。

内CO2排出量のうち、「運輸部門」全体の8割を占めるのが自動車だ。「自動車の利用を抑制するとともに、自動車の脱炭素化を図ることで、運輸部門のゼロエミッション化も併せて進めていきます」(山内氏)

水素エネルギーの社会実装化へ

2050年の脱炭素実現に向けては、水素の活用がカギを握る。水素は大規模・長期間のエネルギー貯蔵が可能で、時間や季節で変動する再エネ電力の調整力や非電力分野の脱炭素化の手段としても有効だが、なかでも東京都はCO2を排出しない再エネ由来の「CO2フリー水素」(グリーン水素)の利用を最終目標に掲げ、さまざまな分野での社会実装化を目指している。

「水素を身近に感じていただくために、まずは燃料電池に水素を使用する燃料電池自動車(FCV)の導入を進めていきます。水素モビリティとしてFCバスの導入を強力に後押しするとともに、水素ステーションの整備を加速していきます。また、商業分野への社会実装として、FCトラックやFCフォークリフトの導入支援や、FCごみ収集車の運用普及を促進していきます」と東京都環境局地球環境エネルギー部次世代エネルギー推進課長の神山一氏は話す。

神山 一 東京都 環境局 地球環境エネルギー部
次世代エネルギー推進課 課長

現在、都内の路線バスでは85台までFCバスの導入が進んでいるが、これをさらに拡大していく考えだ。

「走行中の排出は水だけで、電気自動車(EV)と比べて航続距離が長く、充填時間が短いため、車両が大きいFCバスこそ水素の特性が活かせるものと考えています。一方、導入の課題としては、ディーゼル車の燃料よりもコスト高になる点が挙げられます。これまでもFCバスを導入するバス事業者に対し、導入経費の補助を実施してきましたが、さらに上乗せの補助を設けることを検討しています」(神山氏)

世界の大都市の責務として、「ゼロエミッション東京」の実現に向けた歩みを加速する東京都。キーパーソンの二人は、「東京都の取り組みを起点に、全国に広げていきたい」と決意を語った。