大学設置基準と専門職大学院 「実務家教員」は別の水準で議論

実務家教員の第4段階

前回は実務家教員の定義をひも解くために、実務家教員の配置が法令上必須となった専門職大学院制度を検討した。そのなかで、制度の中心を占めていた法科大学院と養成する人材である法曹が制度設計に関係していたことを明らかにした。

実務家教員には、いくつかの段階があると筆者は考えている。プレの段階では、明治期の「お雇い外国人」。第一の段階は、実務家教員を任用できるように法令が整備された段階。第二の段階は、前回言及した専門職大学院の制度化の段階。そして第三の段階は、専門職大学の制度化である。

「お雇い外国人」と第一の段階とは、時代的にも内容的にもかなりの断絶がある。しかし、「お雇い外国人」はこれまでなかった社会で使われている知を教育に取り込むという点では、実務家教員と根を同じにしている。

さて、第一の段階は、実務家教員の可能性段階である。第二の段階は実務家教員の制度化、第三の段階は実務家教員の普及段階といえる。今回は実務家教員の可能性段階に注目して、実務家教員の定義について考えてみたい。

昭和60年大学設置基準改正

昭和60(1985)年に、大学設置基準(大学を設置するための最低要件が記された文部科学省令)が改正された。大学教授の資格を定めた条文に、いわゆる学術研究歴以外に「専攻分野について、特に優れた知識および経験を有すると認められる者」というのがくわえられた(大学設置基準第十四条第六号)。当時の大学設置基準の改正を知らせる通知でも、「大学における教育研究の一層の発展を図るためには、大学や研究所のみならず広く社会に人材を求め、その優れた知識及び経験を大学において活用することが必要であることにかんがみ、各界にあって、優れた知識及び経験を有し、教育研究上の能力があると認められる者について、大学の教授等の資格を認めることとしたものであること。」(文部事務次官通知「大学設置基準の一部を改正する省令の施行について」(昭和60年2月5日);引用者下線)と指摘されている。ただし留意点についても言及されており、「知識及び経験については、大学の教授会等学内の機関において個々に審査し判定する」ことになっており、大学教授という職位の資格水準を引き下げたものではない、としている。

昭和60年の大学設置基準改正時には、実務家教員への門戸は開かれていたが、「個々に審査し判定」することになっており、具体的な基準が示されているわけではなかった。

これに関しては、実は国会でも答弁がなされている。参議院議員櫻井充氏が「…第六号のみが、『専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者』と要件が漠然としている。その理由はなぜか。また、具体的にはどのような者が要件に該当するのか。」という質問をしている。

それにたいして、「…大学設置基準第十四条第六号において、『専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有すると認められる者』と規定しているのは、大学や研究所のみならず、広く社会に人材を求め、その優れた知識及び経験を大学において活用することが必要であることにかんがみ、各界にあって優れた知識及び経験を有し教育研究上の能力があると認められる者について、学位、研究上の業績または教育の経歴の有無にかかわらず、大学の教授の資格を認めるという趣旨によるものである。」(参議院議員櫻井充君提出大学の在り方に関する質問に対する答弁書)と、ほとんど大学設置基準改正時の通知を用いて回答しているにとどまっている。具体的な人物についても「例えば、企業等において、多年にわたり実務に従事する中で培った豊富な知識や経験が、大学における教育研究の向上に資すると認められる等が、この要件に該当するものである。」と回答するにとどまっている。

この質問と答弁については、2006年に行われており専門職大学院の制度は既に成立している。すなわち、大学設置基準上の「実務家教員」と専門職大学院の「実務家教員」とでは別々の水準として議論されていたようである。