ふるさと納税からワーケーションまで 自治体と楽天が生む関係人口

ふるさと納税で山梨県内トップの富士吉田市。返礼品だけではなく、寄附者とのつながりを重視している。自走する関係人口づくりを目指し、ふるさと納税から観光、ワーケーションまで広がる同市の取組みを、楽天グループが、データ活用やデジタル面のノウハウで支える。

左から、富士吉田市 ふるさと納税推進室 室長の萩原 美奈枝氏、同課長補佐の和光 茂氏、観光課 課長補佐の勝俣 美香氏

2008年の制度開始とともにふるさと納税をスタート。2017年にふるさと納税推進室を設置し、取組みを強化してきた富士吉田市。14年に300万円だった納税額は、16年には、7億を超え県内トップに。2020年度は、2020年12月末時点で前年度比6割増の53億円を突破している。

好調の裏には、楽天のデジタルマーケティングの知見が活きている。富士吉田市ふるさと納税推進室室長(取材当時、以下同)の萩原美奈枝氏は「本市が『楽天ふるさと納税』を導入してから何年か経ちますが、楽天の山田さんが富士吉田を担当してくださった所から、大きく動き始めています」と話す。

2020年度、新たな取り組みとして開始したのが、「楽天ふるさと納税クラウドファンディング」。ふるさと納税の目的は、寄附を集めてまちを潤すことではない。その財源をどう使って地域を活性化させるかが重要だ。

「返礼品から選んで寄附するのではなく、使い道への共感から寄附をしていただきたい。納税額が伸びるなか、ふるさと納税が単なるお得な制度ではないことを、いかに伝えるかが課題でした。その想いと、『楽天ふるさと納税クラウドファンディング』がマッチしたことが、取組みを始めたきっかけです」(萩原氏)。

これまで、同市で1000年以上の歴史を持つ機織りや観光をテーマにしたクラウドファンディングを4件手掛け、全て目標を達成。4件ともに目標額を大きく上回り、寄附額は合計5.6億円にのぼっている。

「楽天ふるさと納税」は全体的に好調だが、中でも富士吉田市の伸び率は、「楽天ふるさと納税」を活用する自治体の平均的な伸び4倍を超えるという。楽天の山田氏は「寄附希望者にいかに富士吉田市の魅力を知ってもらうか、『楽天市場』の知見や統計データに基づきお話しし、テクニカルな部分も含め、アドバイスしました」と話す。

山田 穂高 楽天グループ 地域創生事業 ふるさと納税事業部 営業グループ ヴァイスマネージャー

「山田さんとの出会いで、改善を重ねることで、効果が目に見えるカタチで出てきたのがモチベーションにつながり、好循環を生み出したのだと思います」と、ふるさと納税推進課課長補佐の和光茂氏はいう。

楽天IDを活用して観光、
ワーケーションへ

1つのIDで多岐にわたるサービスを活用できることが、楽天の強みだ。プライベートも含め、富士吉田市に細目に足を運んできた山田氏。同市の魅力や課題を把握した上で、「ふるさと納税の寄附者に対し、他のアプローチがあるのではないか」と話を展開した。

地方自治体にとって、関係人口を増やしていくことは重要な課題だが、関係人口をデジタルで管理できている自治体はほとんどないのが現状。しかし、1億以上の楽天IDの情報を活用すれば、何のサービスをどれくらい利用しているかで、関係人口を具体的な数値として視覚化することができる。

富士吉田市 関係人口/交流人口のリフトアップ図

出典:楽天グループ

 

「実際に、ふるさと納税寄附者が寄附先に旅行するという統計データも出ており、『寄附者にアプローチすることで、旅行者ニーズにもつながるのではないか』といった話をさせていただきました」(山田氏)。

そうして、市内への観光PRを目的とした「楽天トラベル」内の特設ページ「ちょっとディープな富士吉田」との連携が進められた。サイト内では、同市で楽しめる体験コンテンツを含めたモデルコースや、地元民が集まる飲み屋街「西裏エリア」など、ちょっとディープな観光情報を発信。連泊するワーケーションに最適なリーズナブルでお洒落なゲストハウスも紹介している。

同本市観光課課長補佐の勝俣美香氏は「本市は元々ゲストハウスの比率も高いのですが、コロナ禍でのGo Toキャンペーンでも、ゲストハウスはあまり恩恵を受けることができませんでした。山田さんのアドバイスを受け、ゲストハウスを中心としたワーケーションができないかと、観光サイドの目線から、ワーケーションに取り組もうと考えました」と話す。

そこで、「楽天ふるさと納税」を通じて獲得した富士吉田市のメルマガ登録者3万人に、ワーケーションを目的とした「楽天トラベル」のクーポンを告知したところ、予約開始1日で売り切れる結果となった。

「もともと、ふるさと納税と観光は連携するべきだと考えていました。『楽天ふるさと納税』と『楽天トラベル』を連携させることで、関係人口を増やしていく取組に着手できたのは、大きかったと思います」(萩原氏)。

寄附者とのつながりを
関係人口に発展させる

PR力の高いふるさと納税を、観光やワーケーションへ展開する。観光をふるさと納税の返礼品に取り入れるという連携もあれば、ふるさと納税から地域活性化へ向けた観光のアイデアも出てくる。

「今回、単なる連携ではなく、同市内でアイデアや取り組みの循環を生み出すことができたのは、EC、ふるさと納税、トラベルといった、楽天の様々な事業が、我々自治体が掲げる将来像や戦略とうまくマッチし、相乗効果を生み出したのだと思います」(萩原氏)。

全国の自治体が、ますますふるさと納税に力を入れる昨今。萩原氏は「民間に頼り切ってしまう自治体も多いですが、富士吉田の魅力や良い地域産品をどう伝えるかは、あくまで行政が決めていくべき」と強く話す。「民間のプロに任せれば寄附額は伸びるでしょう。もちろん財源を増やしていくことは大事ですが、富士吉田市にとっては、民間に依存するのではなく、自走していくことが重要です。制度そのものの意味を伝えながら、寄附者と共に、地域を活性化していきたいと考えています」と萩原氏はいう。

和光氏も「ふるさと納税は本来、関係人口や交流人口の増加に繋げていくべきもの。寄附者に、その後、いかに富士吉田と関係を持ち続けていただけるかに注力していきたい」と話す。

そのまちが誰と繋がっているのかが、今後は大きな意味を持つようになる。「地域が主体的にデータを活用し、地域を盛り上げることが大事です。その地域を、伴走者としてサポートしていくのが楽天のこれからの使命かと思います」と山田氏は今後の展望を語った。

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