「両利きの経営」を医療・ヘルスケア領域に応用すると?

医学・行政・ビジネスの3つの観点から医療・ヘルスケア業界における新戦略を考察する本連載。昨今注目されている"両利きの経営"から、改めてイノベーションとは何かを考える。医療・ヘルスケア領域に応用してみると、"知の深化・知の探索"は2つの見方ができそうだ。

"イノベーション"の本来の意味

「医療・ヘルスケア業界にはイノベーションが必要だ」と言われていますが、私たちはその意味をわかってイノベーションという言葉を使えているでしょうか? 今回は改めてイノベーションの意味について考え、医療・ヘルスケア領域でイノベーションを起こすためにはどう考えたらよいか、考えてみたいと思います。

まず、「イノベーション」の意味ですが、よくある和訳だと「技術革新」とされることが多いようです(1956年の『経済白書』で「技術革新」と訳されブームとなりました)。しかしイノベーションは「技術(テクノロジー)」に限ったことなのでしょうか?筆者は最初、イノベーションを何となく「新しいこと」ととらえていました。"革新"の方の「新しく変革されること」のイメージと思っていたのです。

イノベーションの理解を深めるためにその源流をたどっていくと、イノベーションの父と言われる経済学者・シュンペーターに行きつきます。1912年にシュンペーターは著書『経済発展の理論』において、企業による「新結合の遂行」と「信用創造」を挙げ、ここで挙げられた「新結合」が、1939年の著書『景気循環論』において「イノベーション」と呼ばれるようになりました。

ここで挙げられるイノベーションの特徴は、すでにあるもの同士の組み合わせであること、「発明」とは区別されること、そして次の5つの内容が含まれます。

それは①新しい生産物の創出(未だ知られていない生産物、新しい品質の生産物)、②新しい生産方法の導入(未知・未実施だった生産方法、商品の新たな意味づけも含む)、③新しい市場の開拓(従来参加していなかった市場への開拓。この市場が既存のものかどうかは問わない)、④新しい資源の獲得(新しい供給源)、⑤新しい組織の実現(独占の形成や破壊など)で、「技術」の革新で起こる新しい製品・サービスの開発は①のみに該当するものであり、本来の意味のイノベーションのほんの一部であることがわかります。

"新結合"はクリエーションの要素

また、個人的には「新結合」という和訳も少しわかりにくく感じています。イノベーションを実際の事業開発(商品・サービス開発)として因数分解してみると、「イノベーション=創造(クリエーション)×社会実装(オペレーション)」になると筆者は考えています。「新結合」という表現は、この「創造(クリエーション)」のところで重要な考えであって、イノベーションの全体像を表現していないのではないでしょうか。

この「創造」の部分で「新結合」とされる既存のアイデアと既存のアイデアの掛け合わせが必要となりますが、その既存のアイデアを見出すために重要なのが、昨今、『両利きの経営』で取り上げられている「Exploration(知の探索)」×「Exploitation(知の深化)」なのではないかと考えています。

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