利用者目線のDXで地域を魅力化 青森市×NTT東日本

2020年の緊急事態宣言下、全国でもいち早くインタラクティブなICT授業を取り入れた青森市は、ヘルスケア分野などでも先進的なDXの取り組みを進めている。市が注力するDXの狙いや成果について、市長のインタビューと公開トークセッションをレポートする。

ICTを4分野で活用

青森市は青森県のほぼ中央に位置する人口約30万人の流通・文化の拠点都市だ。豊かな自然に恵まれ、本州と北海道を結ぶ交通と物流の要衝として発展した。リンゴやカシス、ホタテなど名産品も多く、特にリンゴとカシスは日本有数の生産量を誇る。また例年多くの観光客が訪れる「青森ねぶた祭」は日本を代表する祭りの一つだ。

NTT東日本青森支店の1階には、ねぶたの紹介やねぶた制作教室などのイベント開催を通じて、地域文化の継承・発展や観光活性化など地域に貢献できる空間として2020年にオープンした「HAnet Station(ハネット ステーション)」がある。今回のトークセッションは、ここに小野寺晃彦市長を迎え、NTT東日本青森支店長を交えたオンライン形式で行われた。

NTT東日本青森支店1階に2020年9月に開設された「HAnet Station」では、ねぶたの紹介やねぶた制作教室等の各種イベント等を開催し、地域文化の継承・発展や観光活性化等に貢献

セッションは、ヘルスケア、教育、防災、庁内業務の4分野における市のDXの取り組みについて尋ねるインタビューを中心に展開された。

青森市南部の浪岡地区では、2021年5月、市立浪岡病院の建て替えに合わせてヘルステックを核とする健康まちづくりプロジェクトがスタートする。

「青森県は、全国一寿命が短い県とされています。そこで、高齢化率の高い浪岡地区をモデルに、ICT・IoTを活用して在宅医療や病気の予防を充実させ、健康寿命を延ばすことをめざします。具体的には、センターと回線を結ぶ専用モビリティによる出張型の健康チェックサービスと、IoTによる見守りサービスが軸になります」と小野寺市長。

小野寺 晃彦 青森市 市長

2020年4月の緊急事態宣言に伴う一斉休校のなかで、青森市は全国で最も早く同時双方向型の遠隔授業に乗り出した自治体の一つだ。市長によれば、ハード面の迅速な整備もさることながらソフト面こそが市の取り組みの特徴だという。

「先生方が、限られた条件の中でとにかく子どもたちとインタラクティブな授業をやりたいと取り組んでくれました。Googleフォームを使うことで先生方の手間も省力化されましたし、それ以上に、教室では手を挙げられなかった子の声もクラスでシェアできる、不登校の子も参加しやすくなり、リアルでの授業再開後の登校にもつながるといった効果がありました。アンケートでは8割以上の子どもたちが『これまでの授業より楽しい』と答えています」

一方、防災・減災の分野では世界有数の積雪量に対応する除雪が課題だという。ICTを活用して市民の声に即応する除雪対応の仕組みづくりを始めた。

市庁内業務のDXでは、2020年5月から各部の代表者が順番にテレワーク、リモートワークを続けてきたが、12月には予算を追加して、リモートで勤務できる職員の環境を拡充した。「育児休暇、介護休暇をとる職員にとって、これまでは休むか無理して出るかの二択しかありませんでしたが、オンラインの活用で三つ目の選択肢が生まれたという意味で注目しています」

ICT活用分野の拡がり

続いてNTT東日本青森支店の越智徹二支店長から、DX事例2件についてプレゼンテーションが行われた。

越智 徹二 NTT東日本 青森支店長

NTT東日本が保有する電柱は567万本、ケーブル長は126万Kmと地球の約31.5周分相当にも上る(2019年3月末時点)。それらの膨大な設備の点検に、同社の東北エリアでは車載カメラを備えたメンテナンスカーを利用している。路面の撮影データをAIで解析して保守エリアを自動特定し、業務を効率化する仕組みで、道路の劣化診断などにも応用でき、青森市の課題である除雪対応のDXにも貢献できる可能性があるという。

青森市でも重要な一次産業向けの例としては、現在、漁港で魚種をAIで自動判別してベルトコンベアに載せるシステムの開発を進めている。高齢化や担い手不足の問題解決につながるのみならず、AIで脂の乗りなどの品質も判別できるため、将来的にオンライン魚市場のような新しい仕組みの基盤にもなりうる。越智支店長は「ICTには、作業効率化のためのデータ活用と、そこで得られたデータを別用途に転用して新たな市場を開拓していくという2つのステップがあり、データがシームレスにつながることで大きな価値が生まれます」と語った。

DXで重要なのは利用者目線

最後に、小野寺市長と越智支店長によって、今回の4分野のテーマについてディスカッションが行われた。市長の考え方は、データやICTの運用における徹底した利用者目線と、ソフト面の意義を重視する点で一貫している。

たとえばヘルスケアのプロジェクトでは、「ICTのハード面でいかにすばらしいものを用意しても、利用者の参加意識が高まらなければ意味がない」という。「参加するハードルをいかに下げるか、どれだけ利用者に近づいていくかが重要になります。その意味で、健康データを集めたら、たとえば自分の健康状態が一目でわかるヘルススコアのようなものをお返しする仕組みなど、結果の提供の仕方を工夫しながらプロジェクトを進めていく考えです」

越智支店長は「市民の参加意識を高めることは大変重要」と同意した上で、「特にヘルスケアは個人のバイタルデータを集めるため、情報セキュリティを高めることが市民の不安解消と参加促進につながります。弊社もセキュアなネットワークを自治体や市民に提供できるよう尽力していきたい」と語る。

農業のスマート化、ICT化にしても、作業効率化や収量の増加、品質の向上といった効果のみならず、農業そのものの魅力の向上をもたらす点に大きな意義があるという。「農業がスマート化することで、土から食料を作るやりがいと、まだまだデジタル化できる可能性を実感した若い世代がどんどん参入しています。農業に魅力を感じて地方に移住する『移農』に関心のある方は今、どんどん増えています」と市長。NTT東日本は青森県内での農産品を対象とした実証実験への参画などを進めており、「青森といえば一次産業。ICTを活用した農産品の生産効率化を通じて、地域の活性化に貢献していきたい」と越智支店長は意気込む。

庁内業務のDXについて越智支店長は「個別業務のDXだけではなく、業務フロー全体の見直しと業務削減が重要です。たとえば窓口業務はDX化しにくいと言われますが、窓口に来て頂かなくてもいい新しい業務フローを考え、そこに自動化を組み合わせる、という視点です。私たち自身も社内業務のDXを進めており、その成果を元に自治体の皆さまに提案していきたいと思います」と話す。

小野寺市長は「ICT先進企業として、これからも力を貸して頂きたい」とNTT東日本にエールを送った。

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