徳島市長が見たV-RESAS 統計を活用し市政を伝える

コロナ危機下の地域経済を分析するためリリースされたV-RESAS。感染が収まらない中、地元産業の維持・活性化との両立を図らなければならない徳島市長の内藤氏は、市の施策の立案・検証や、ステイクホルダーとの共有に、V-RESASで可視化したデータの活用を目指す。

政府が提供する地域経済分析システム(RESAS:リーサス)は、さまざまな地域データを可視化するウェブベースのサービス。そのサービスから、新型コロナウイルス感染症が流行する中で、正確・迅速に地域単位のデータを把握するために2020年に新しくリリースされたのがV-RESASだ。

内藤 佐和子(徳島市長)

バラエティに富んだデータを、いかに地方自治に活かしていくか。RESASなど統計データの活用に積極的に取り組んでいる徳島市長の内藤佐和子氏に聞いた。

人口移動データで見る
外出自粛に協力した徳島県民

V-RESASでは、2019年同週と比較した滞在人口のデータを取得できる。徳島県の滞在人口のデータ(図1)を取得すると、2020年は年間を通して県外から徳島県への移動人口が少なかったことが分かる。徳島県と歴史的・経済的に結びつきが強い大阪府のデータと比較しても、減少が顕著に表れている。

図1 徳島県の滞在人口の2019年との比較

出典:V-RESAS

 

「県民が、意識を高く持って自粛生活を送っていたことが分かります。他方、ここまで人流が抑制されると、外食・小売をはじめ多くの事業者が影響を受けます」と内藤氏は指摘する。

徳島市では、緊急事態宣言下で宅配を始めたり、テイクアウトメニューの開発に着手したりした飲食店や、テレワーク向けなどの新しい宿泊サービスを開始した宿泊施設を支援するために、2020年4月に「コロナ危機突破プロジェクト」の認定を開始。市内の複数事業者への経済波及効果が見込まれる事業を対象に、補助金の給付も始めた。さらに、県内在住者の宿泊助成キャンペーンにより、利用者が減った宿泊施設向けの支援も始めている。

2021年度を迎えるにあたり、徳島県・徳島市にとって検討課題になっているのが、毎年8月12日~15日にかけて開催していた「阿波おどり」。県内の観光関連事業者は年間売上の半分をこの時期に稼ぎ出すというほど県経済に与えるインパクトの大きいイベントだ。2020年8月の開催を見送ったため、V-RESASの人流の推移を見ると、県外から県内への人の移動の8月半ばの落ち込みは2019年比で約6割減少となった。

「感染症が収束しない中で、2021年の阿波おどりをどうするか、方針をきちんと考えなければなりません。去年の8月の明らかな落ち込みのデータを提示することで、根拠に基づく説明ができるのは大きなメリットです」。

県内からの人出の回復事例
他のまちとの比較で学ぶ

V-RESASでは、各地の主要駅の滞在人口の推移をコロナ前の2019年と比較することもできる。今回、徳島駅と香川県の高松駅を比較したところ、高松駅は緊急事態宣言後、県内からの人出が次第に回復し、2021年1月第1週には116%プラスになった。一方の徳島駅では、2020年夏以降も県内からの人出は2019年を下回っている。

この落ち込みの理由の1つが、2020年8月に閉店した、駅前のそごう徳島店だ。閉店はコロナ危機前に決定されていたもので、感染症の影響ではない。しかし、外出自粛で人が減っていたところに、大規模商業施設がなくなったことで、街の賑わいの面での影響は大きかった。

「これを回復させるための議論は避けては通れません。市では現在、中心市街地活性化基本計画を策定するための準備を進めています。その際に、他都市の事例を参考にすることができるのではないかと感じています。今回の高松駅の場合にも、県内からの人出を回復させた要因があるはずです」。

内藤氏は、他のまちのV-RESASのデータと並べて見ることで、自身のまちとの明確な差や、改善の余地が分かると指摘する。高松駅の場合、商店街リニューアルの成功事例として有名な高松丸亀町商店街が近隣にある。このような事例を、徳島市でも参考にしたいと考えている。また、「複数年にわたる変化の追跡や、消費動向など他データとの組み合わせが可能になれば、さらに中心市街地の活性化に役立つアイデアが得られるかもしれません」と、V-RESASへの期待を語った。

チケット売上で
イベントの人出を分析

V-RESASは、コロナ危機下で政府や自治体が実施した、Go Toキャンペーンなどの支援策の効果を検証するデータも見られるようになっている。その1つが、チケット事業会社ぴあからの情報提供でデータを公開している「イベントチケット販売数」だ。人々を集めて実施するイベントは、緊急事態宣言の発令後に多くが中止され、宣言解除後も回復は伸び悩んだ。そんな中、徳島県におけるイベントチケットの販売数は2020年11月に大きな伸びが確認された(図2)。

図2 イベントチケット販売数の四国4県の比較

出典:V-RESAS

 

実は同月に、感染症対策の在り方を検討する「阿波おどりネクストモデル」が開催されている。観覧は無料だが、実証のため発行したデジタルチケットの数が統計に反映されたとみられる。夏の風物詩である阿波おどりとしては季節外れの開催にもかかわらず、「阿波おどりネクストモデル」には県外から多くのファンが集まり、主催者側は感染症対策のノウハウを蓄積できた。

「阿波おどりの重要性は、徳島市民の皆が分かっています。このようなデータを可視化することで、2021年の開催に向けた市民への説明、合意形成を進めやすくなります」。

この他、地元のプロサッカーチームである徳島ヴォルティスがJ2で初優勝したことも、11月~12月のクライマックスの時期のチケット売上伸長につながったようだ。さらに、プロ野球独立リーグに所属する地元チーム、徳島インディゴソックスはリーグ連覇した。これら地元チームの頑張りを受けて、徳島市は、2021年からふるさと納税の使途の1つにプロスポーツ支援を追加した。「その根拠を補足するデータとして使えます」と内藤氏は話した。

内藤氏は、V-RESASの意義として、データを簡単に可視化して提示できる点を挙げる。「やはり、説明するときの説得力が違う。市民はもちろん、市の職員や議会、報道機関に対する説明で、根拠を分かりやすく示すことが求められています。今後は、V-RESASを使って根拠を分かりやすく情報発信し、もっとまちや社会をよくしていくことができるはずです」。

 

内藤佐和子(ないとう・さわこ)
徳島市長

お問い合わせ

内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局
ビッグデータチーム

V-RESAS: https://v-resas.go.jp/
E-mial :j.resas.j9j@cas.go.jp

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