宮城県知事インタビュー 震災復興を遂げ、「富県躍進」へ

「富県共創」を掲げた改革により、ものづくり企業の誘致や観光振興など、様々な分野で成果を出してきた宮城県。震災の復興事業が一段落した今、定めた新ビジョンは「富県躍進」。日本の研究開発の国際競争力を強化する「次世代放射光施設」の建設など、東北経済を牽引する新たな取組について、村井知事に訊いた。

宮城県知事 村井 嘉浩氏
取材は、新型コロナウイルス感染症対策のため書面インタビューにより実施(2021年2月1日)

企業誘致や観光振興が結実し
県内総生産が1兆円増加

――第1期「宮城の将来ビジョン(2007~2020)」の成果と残された課題をどのようにお考えですか。

「宮城の将来ビジョン」では、県政運営の理念に「富県共創!活力とやすらぎの邦づくり」を掲げ、これまで、東日本大震災の発生や世界的な経済危機といった予期せぬ事態に対応しながら、総力を挙げて様々な事業に取り組んできました。

主な成果としては、ものづくり産業の企業誘致や雇用の創出、観光振興など様々な取組が実を結び、目標に掲げた「県内総生産10兆円への挑戦」については、県内総生産(名目)が約1兆円増加し、約9.5兆円となりました。一人当たり県民所得も約30万円増加しています。また、医学部新設による医師確保や、震災の教訓を生かした災害に強いまちづくりなども進展しました。このように、全体としては概ね順調に進めることができたと考えております。

2016年に、37年ぶりに医学部が新設された東北医科薬科大学。東北の医師不足解消が期待される

一方で、少子化対策や出産・子育て環境の整備については、多様化する社会ニーズに柔軟に対応していく必要があり、教育分野においても、これまでの取組をより一層充実させていく必要があると考えています。また、今後は人口減少が急速に進み、宮城県でも今後25年間で人口が約50万人減少すると推計されております。縮小する社会の中で、どのようにして宮城県を持続的に発展させていくかが、大きな課題であると考えています。

――第1期の課題を踏まえ、第2期で取り組む重点ポイントは何でしょうか。

4月からスタートする「新・宮城の将来ビジョン」は、現行の「宮城の将来ビジョン」、東日本大震災からの復興を目指した「宮城県震災復興計画」、人口減少などへの対応を目的とした「宮城県地方創生総合戦略」が同時期に終期を迎えることから、これら3つの計画を1つに統合したものです。

東日本大震災からの復興については、被災者の心のケアやコミュニティの再生など、残された課題の解決に、引き続き最優先で取り組まなければなりません。また、次の10年は人口減少対策が大きな課題となりますが、特に、県外への転出が多い若者の定住促進や、子ども・子育て分野に力をいれていくことが重要であると考えています。

特に、子ども・子育て分野については、「新・宮城の将来ビジョン」の新しい柱として位置づけました。併せて、将来、税収が大きく減少していくことを考え、民間の力を最大限に生かしながら、人口減少に対応できる小さな行政体をつくっていくことも重要と考えています。

「次世代放射光施設」を核に
新産業の創出を目指す

――産業誘致政策については、県内総生産が1兆円の増加となるなどの成果があがっていますが、さらなる強化に向けてどのような方向性をお考えですか。

本県では強固な経済基盤を確立し、県経済の持続的な成長や発展を目指す「富県宮城」の実現に向け、ものづくり産業の集積を中心に地域産業の振興に取り組んできました。このことにより県内総生産額の増加や新規雇用の創出などの高い経済波及効果が生まれ、富県宮城の実現に向けた歩みが着実に進んでいます。

今後の方向性については、新型コロナウイルス感染症により大きな打撃を受けた地域産業の回復を最優先に取り組みつつ、引き続き自動車関連産業や高度電子機械産業を中心とした企業誘致に取り組むほか、新たな産業の創出も視野に入れた機動的な誘致活動を進めていきます。特に、東北大学青葉山キャンパスで2023年に稼働する予定となっている「次世代放射光施設」を中核として、企業の研究開発部門等の誘致を進め、リサーチコンプレックス(大学、研究機関、企業等の研究インフラ、組織の集積)の形成を図り、産学官連携による新技術・新産業の創出を目指していきたいと考えています。

日本の研究開発の国際競争力強化に大きく貢献する「次世代放射光施設」(完成イメージ)。物質の成分や構造を詳細に分析・解析できる最先端研究施で、基礎研究から産業応用・実用化まで行う
画像提供:一般財団法人光科学イノベーションセンター

「次世代放射光施設」は仙台駅から地下鉄で9分の東北大学青葉山新キャンパス内に建設中。首都圏・関西圏から2時間以内という高いアクセス性を持つ立地で、リサーチコンプレックスの形成を目指す
画像提供:一般財団法人光科学イノベーションセンター

――「宮城県地方創生総合戦略」では、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」とされていますが、進捗はどうでしょうか。

先ほども申し上げましたが、「宮城県地方創生総合戦略」は「新・宮城の将来ビジョン」に統合されます。「新・宮城の将来ビジョン」では4つの政策推進の基本方針を掲げていますが、新たな柱として「社会全体で支える宮城の子ども・子育て」を設けました。これまで以上に子ども・子育てを社会全体で切れ目なく応援する環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。

図 2021年度からの宮城県政運営の理念と基本姿勢

2020 年度で終期を迎える「宮城県震災復興計画」の取組を受け継ぐ「被災地の復興完了に向けたきめ細かなサポート」と、「宮城の将来ビジョン」の理念を引き継ぎつつ、子育て支援などを新たに柱立てした「政策推進の基本方向」の4本柱を合わせた【1 + 4】の柱で構成

出典:宮城県

 

宮城県の2019年の合計特殊出生率は、過去最低の1.23を記録し、全国でも東京都に次いで低い結果となりました。このことには私自身、強い危機感を持っています。少子化の要因として、全国的には未婚化や晩婚化の影響が大きいと考えられます。

今後、積極的に取り組んでいきたい施策の一つが結婚支援です。県庁内の若手職員を対象に、結婚・出産・子育てに関するアンケートを実施したところ、「若者が結婚しない理由として考えるもの」という質問に、半数以上が「適当な相手にめぐり会わないから」と回答しました。これまでも「みやぎ青年婚活サポートセンター」を設置して結婚支援に取り組んできましたが、これに加えて、他県でも導入が進み、国も導入を後押ししている「AIを活用したマッチングシステム」を活用することを検討し、婚活の利便性や効率性を高めたいと考えています。行政が婚活に関わることになるので、安全性をしっかりと担保し、利用する方には安心感をもっていただきながら、出会いの機会を拡大し、結婚支援の充実に一層力を入れたいと考えています。

子育て現場の生の声を聞き、
施策の充実に繋げる

――子育て環境の整備や待機児童解消については、どのような施策を今後行っていきますか。

職員アンケートでは、「子育てに対する女性の負担が大きい。母親が1人で孤独に子育てをしていかなければならない社会のイメージがある」「子育てを周囲で支える仕組みを構築するべき」といった意見もありました。

子ども・子育て支援は、結婚から始まり、妊娠、出産、子育てと、長期的に捉えなければならないとともに、それを支える社会の仕組みが必要となります。妊娠・出産に対する不安の解消や、「弧育て」の解消、男性の育児参加、産後ケアの充実など、若い世代が希望する年齢で、安心して結婚・出産することができるような支援や環境整備が必要であると考えています。

保育所の待機児童数はなかなかゼロには至りませんが、2018年は613人、2019年は583人、2020年は340人(いずれも4月1日現在)と、減少幅は大きくなっています。今後も市町村と連携して必要な施設整備を進めていきます。私は、子どもはまさに「宝」だと思っています。新型コロナの影響でなかなか難しい面はありますが、私自身も機会を見つけて、実際に子育てをしている皆さんや、子育て支援団体の方々に話を聞いたり、保育所などを訪問したいと考えています。子ども・子育て現場の「生の声」を聞き、必要とされている支援を肌で感じ取り、施策の充実に繋げていきます。

――「新・みやぎの将来ビジョン」には、20~29歳の転出超過、特に女性は男性よりも著しいとありますが、どのような対策をお考えですか。

20代から40代にかけての転出超過を改善するためには、地域の将来を担う若者や子育て世代が安定した収入を得ることを第一に考え、富県宮城を支える県内産業の持続的な成長促進を通じ、質の高い雇用を生み出すことが必要であると考えています。質の高い雇用とは相応の収入、安定的な雇用形態、やりがいのある仕事といった要素を兼ね備えた雇用であり、働く人に安心して稼いでもらうことに繋がります。本県としては、20代を中心とした将来のある層が県内に定着し、安定した経済基盤を構築できるよう、製造業に限らず、情報関連産業等の企業誘致をはじめとした雇用の場の創出に努めていくとともに、非正規労働者の正社員化の促進やワーク・ライフ・バランスの推進など、安心して働ける環境づくりにもしっかり取り組んでいきます。

産学官金連携で、東北を
地方分散のトップランナーに

――知事の政治家としての原点でもある「将来、東北が日本の中心になり、宮城県が東北経済の牽引役になる」という想いについて、その実現への構想をお聞かせください。

現在、日本は、人口減少と高齢化の問題に直面していますが、東日本大震災の被災地では、津波被害により、全国よりも先んじて急激に人口減少が進んでおります。震災を機に、地域がもともと抱えていた課題の深刻さが増すなど、東北地方は非常に厳しい状況にありますが、このような逆境をばねにし、日本全体の再生にも繋がるようなモデルケースを発信していく必要があると考えています。

例えば、先ほどもご紹介しましたが、現在、東北の産業競争力強化と日本の科学技術の発展を担う「次世代放射光施設」の建設が進んでおります。この施設の設置により、新たな事業の創出や県内企業の技術革新、さらには研究機関などの集積による理系人材の定着促進などの波及効果が期待され、東北地域の経済発展に大きく貢献するものと考えております。東北全体に様々な波及効果がもたらされるよう、リサーチコンプレックスの形成に向けて取り組み、関係団体と連携して東北経済を牽引していきたいです。

新型コロナウイルス感染症の影響で、「東京一極集中」という課題が浮き彫りとなりました。「東京一極集中」の是正のためには、地域間競争ではなく、産学官金が連携することで、東北全体が一体となってデジタル化などを推進することで、東北が「地方分散のトップランナー」となれるよう取り組んでまいります。本県においても、2020年9月に都道府県として初めて「みやぎデジタルファースト宣言」を行いましたので、地域経済の発展と社会課題の解決の両立を目指し、地域のデジタル化およびDX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進する必要があると考えています。

また、今回のコロナ禍は国と地方の関係性についても、大きな転機となる可能性を投げかけたと思っています。ウイルスの感染状況は地域、圏域によって異なっていました。国は感染症対策を全国一律で進めましたが、その労力を「国外からの流入を完全に防ぐ」ことに集中させ、感染拡大への対応は地方に任せ、各地域・圏域がその感染状況を見ながら、それぞれの状況に応じた封じ込め対策、経済対策をとっていれば、結果は違うものになったのではないかと思うのです。こうしたことから、「道州制」の議論も改めて必要になってくるのではないかと考えています。

 

村井 嘉浩(むらい・よしひろ)
宮城県知事