都市の働き手を地域へ 「明るい逆参勤交代」で目指す関係人口増
コロナ禍により大きな転換を迫られているシティプロモーション。松田智生氏が提唱する"逆参勤交代"は、コロナ対策のため一気に高まったテレワーク・リモートワーク需要と地方創生を両立させるアイデアだ。"逆参勤交代"のシティプロモーションへの活用の可能性を松田氏が語る。
"観光以上移住未満"の
関係人口創出を増やす
新型コロナウイルスの感染拡大は、東京一極集中リスクやインバウンド頼みのリスクなど、わが国が抱えるさまざまなリスクを浮かび上がらせた。待ったなしの状況下で地域活性化や観光振興を図るには、今までにないシティプロモーションを考案する必要がある。
「ピンチをチャンスと捉え、社会のあり方を変えるドラスティックな政策が必要です。そのひとつが、都市部の大企業勤務者などに地方での"期間限定型リモートワーク"を促す〈逆参勤交代〉です」と説くのは三菱総合研究所主席研究員の松田智生氏。コロナ以前の2017年から本構想を提唱し、数々の自治体や企業でアドバイザーを務める地方創生分野の第一人者だ。
江戸時代の参勤交代は、地方大名に負担を強いた一方、地方から江戸への人の流れを作った。これとは逆に、東京から地方への人の流れが生まれれば、地方にオフィスや住宅が整備され、関係人口が増加する。一方、逆参勤交代社員は、ゆとりある環境で週に数日は本業、数日は地域のために働くことで担い手不足も解消できる。つまり、逆参勤交代とは地方創生と働き方改革を同時実現するアイデアなのだ。
"明るい"逆参勤交代で
マスボリュームを動かせ
松田氏は関係人口を"観光以上移住未満"の人だと説明したうえで、こう続ける。
「人口減少社会では、都市と地方で人材を争奪するのではなく、共有することが必要です。これまでの関係人口は一部のベンチャー・IT企業、あるいは"意識の高い人"などに限られたため、市場の起爆剤とはなりませんでした。したがって今、必要なのは"マスボリューム"を動かすことです」
大企業が集積する大手町・丸の内・有楽町の就労人口は28万人にもなる。多様な人材を、ドラスティックな仕組みとして地方に派遣する"明るい"逆参勤交代は、地域・企業・本人に三方一両得をもたらすと松田氏は強調する。
地域にとって最大のメリットは関係人口の増大にあるが、消費増も大きなインパクトになりうる。松田氏の試算によれば、首都圏・近畿圏での大企業の従業員数は約1千万人、その1割(100万人)が年間1カ月の逆参勤交代をすると、約1千億円の消費が創出され、地域の雇用増や税収増といった経済波及効果も期待できるという。さらには、担い手不足の解消やインフラ整備、旅館や交通機関などの稼働率向上も挙げられる。他方、企業のメリットとしては、働き方改革、人材育成、ローカルイノベーションなどのビジネス強化、社員のメンタルヘルス改善といった健康経営、SDGsの推進などが考えられる。
逆参勤交代は、目的・参加年代・期間に応じて多様なモデルがある。①ローカルイノベーション型:地方創生の新規事業化、②リフレッシュ型:メンタルヘルス改善の健康経営、③武者修行型:若手や経営幹部の人材育成、④育児・介護型:ワークライフバランス、⑤セカンドキャリア型:シニア人材活用化という5つのモデルに大別される。
講演当日、聴講した約600の自治体および企業に対しクイックアンケートを実施したところ、各モデルの導入意向については「①ローカルイノベーション型」が最多であった。人材の質の面においても都心部の企業人材は有望であり、地域の課題解決への貢献が期待されていることがうかがえる結果となった(図)。
図 聴講者の"逆参勤交代"導入意向
地域に関心のない人ほど
満足度・継続意向が高い
松田氏が座長代理を務める、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部の〈地方創生×全世代活躍のまちづくり検討会〉にて、逆参勤交代の政策化が進んでいる。〈生涯活躍のまち〉構想では、「企業と地方公共団体を効果的にマッチングさせるプラットフォームの構築」という文言が明記され、366の自治体が本構想を推進する意向を示した。
構想を社会に実装させるための一歩としては、2018年から市民大学の丸の内プラチナ大学の「逆参勤交代コース」として試行事業が始まっている。2019年は北海道上士幌町(リフレッシュ型)、埼玉県秩父市(近郊型)、長崎県壱岐市(離島型)の3つの市町村で実証実験を実施。今後も多くの自治体に参加を呼びかけ、全国に広めていく方針だ。松田氏は、実証実験で得た気づきを「逆参勤交代は新しいワーケーションである」と語る。
「リゾート地でパソコンに向かうだけのバケーション型ワーケーションではあまりにももったいない。新しいワーケーションとは、地域の人々との交流(コミュニケーション)、地域での学び(エデュケーション)、地域への貢献(コントリビューション)が本質にあるのです」
2つ目は、受動的参加者ほど満足度・継続意向が高いことだ。「地域に関心のない人こそ宝の山。上司に言われて不本意ながら参加した人ほど、人生観が変わるような経験をして、地域が好きになる。ゆえに制度によってマスボリュームを動かす重要性を再認識しました」と松田氏は述べ、逆参勤交代の実現には、官民連携でプラットフォームを構築し、費用対効果の検証を進めながら、交通・宿泊費の割引、法人税の減税などの制度設計が必要だと訴えた。
では、逆参勤交代の実現に向け、シティプロモーションの面ではどのような戦略を打つべきか。1つは"人プロモーション"だ。どこにでもある自然や温泉よりも、訪問したくなるのは「あの人に会いたい」という動機にあると松田氏は述べ、まちの魅力ある人に焦点を当てる広報活動を提案した。もう1つは"あえてハードルを上げる"逆転の発想だ。最低週7時間地域での就労を課し、対価として地域通貨ポイントを付与すれば、参加者の動機づけと地域への貢献欲求が高まると松田氏は言う。各地に"第二のふるさと"を生み出す逆参勤交代は、関係人口増大のプロモーション手段として大いに活用できるだろう。