2020年11月号
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持続可能な地域社会を再構想する

マイクロツーリズムのカギ・地域資源を見出すための「客体化」

村山 貞幸(事業構想大学院大学 教授)

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コロナ禍により観光業は大きな方向転換を迫られている。対応策として注目が集まる“マイクロツーリズム”を成功させるには、これまで見過ごされがちであった地域の文化や歴史といった資源が大きな価値となる可能性がある。地域の価値を見出すためのキーワードは“客体化”だ。

はじめに

今回の新型コロナは、地域観光に大きな影響を与えている。観光客は激減し、今後の見通しも立っていない。株式会社星野リゾートの代表取締役社長星野佳路氏は、この危機的状況への対応策として、まずマイクロツーリズム(ご近所旅行)からスタートすることを提唱している。

本稿では、マイクロツーリズムに必要な地域文化・歴史の再発見にチャレンジすることを提案する。新型コロナにより、時間的な余裕が生まれ、地元で過ごさざるを得なくなったことを逆利用し、新しい可能性を探る未来志向の対応策について考えたい。

映画『なごり雪』の例

他地域と比べると地元には魅力を感じない、といった意見を昔も今もよく耳にするが、それはなぜだろうか?

映画作家大林宣彦氏の作品『なごり雪』(2002年公開)に関する事例から考えてみたい。『なごり雪』は、大分県の臼杵市を舞台にその文化・歴史が独特の視点で捉えられている映画である。大林氏は、NHKのラジオ番組にて、同映画を観た地元出身の男性から「つまらないと感じていた故郷臼杵市の魅力を再発見し、同地で結婚し生活していくことを決めた」という連絡を受けた、と嬉しそうに語っている。

臼杵市の文化・歴史資産である臼杵石仏は映画『なごり雪』にも登場した

人は、日々暮らす地の全ての経験を引き受け、生活をする。その年月が長いほど多様な経験が積み重なり、自身の中で混沌とした記憶としてとどめていく。時にその記憶を整理せず、「自然豊かな」「退屈な」「心の安らぐ」「何もない」といった印象にまとめたりする。大林監督に人生の転換を伝えた彼も、無意識のうちに何となく「つまらない」という印象を臼杵にもち続け、故郷を後にしたのではないだろうか?

一方、臼杵と特別な縁がなかった監督は、その地に入り、自身の純粋な感性に従って街の美しさや掛け替えのない歴史を切り取って映像化したであろう。地元が人生そのものである人は、その地の全てを丸ごと抱えている。そこに外の目が注がれ、一部が切り取られた刺激を与えられると、地元に対する新しい見方が生まれる可能性が開かれる。そこが生まれ育った地であるならば、なおのことであろう。

能登島『島流しツアー』の例

石川県能登島の『島流しツアー』は、同地が江戸時代、加賀藩の流刑地だった歴史を逆手にとった旅行企画で、観光客は流人としてさまざまな刑(田舎暮らし)を受ける(表)。2014年から始まったツアーは多くのリピーターに支えられ、中には島に定住し看守(住民)となった流人もいる。企画者は、地元民である。彼は大学入学のため上京、社会人経験を経て、市民大学である丸の内朝大学で東京の人たちとともに地元を活性化する企画を行った。当然、彼も地元を離れる前までは地元の記憶を丸ごと受け止めて、何らかの思いを持ってそこを離れたのであろう。生まれ育った地に留まっている限りは、その経験と記憶は途切れることなく日々積み重なっていく。しかし、いったんその地を離れることで、地元を相対的・客観的にみることができるようになり、企画者は、連綿と続く記憶のネットワークを俯瞰し、必要に応じて切り取ったり、再解釈したことが想像される。

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