市役所職員でありながら、自費で空き家を借りて商店街の活性化に取り組んだり、全国の公務員仲間とともに「市役所をハックする!」を展開したりなど、活発に動き続ける「日本一おかしな公務員」、山田崇氏。原点にあるのは「n=1」、一人と向き合うことだ。

山田氏は塩尻市内の商店街の空き家を自腹で借り、そこで過ごしてみるプロジェクト「nanoda」を展開。企画したハロウィンイベントは、商店街に多くの人を呼び込んだ
目の前にいる人と向き合う
「n=1」の大切さ
――山田さんは市役所職員と個人の両方の立場で、数々のプロジェクトを精力的に手掛けられています。
山田 長野県の人口は約204万人、77の市町村があって35の村があります。中山間地域のほうが人口減少の影響は顕著に表れますから、県内の地域課題は深刻化している。ただ、県や政令指定都市ではエリアが広すぎるので、地域で困っている人に一番近い存在が市町村の職員だと考えています。

山田 崇(塩尻市 企画政策部 地方創生推進係長 空き家プロジェクトnanoda 代表)
私は「n=1」と呼んでいるのですが、何かを始める際、目の前にいる「課題を抱えている人」に誠実に向き合って、それが解決されたら最初に泣いて喜ぶ1人を思い浮かべられるようにする。前例のない人口減少と少子高齢化、プラス人生100年時代がセットで来ている状況では、何が正解かはわからず、これまでの固定観念を捨てて本当の困り事は何か、そこを出発点にして試行錯誤するしかありません。
私が「n=1」の大切さに気づいたのは、2012年に始めた空き家プロジェクト「nanoda」がきっかけです。私はレタス農家の息子で、空き家対策や商店街振興などと言われても、あまりピンとこなかった。それで、自分が当事者になってみようと思って自腹で商店街の空き家を借り、そこで過ごしてみました。
そうすると、市役所の中にいたら絶対に出会わない人に出会うんですよ。現場、現物、現実から始めたことで、私の視点がものすごく変わりました。自分を“圧倒的当事者”にすることが大事なんです。
各地で市民との協働や共創のまちづくりが言われていますが、行政職員にとってそれは本業の一環で、給料をもらいながら取り組んでいる。一方で、市民には「プライベートの時間を使って来てください」などと言っている。それでは、圧倒的当事者になるのは難しくなります。
一般に地方創生は、2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が制定されて始まったと言われますが、2000年に施行された「地方分権一括法」において、地方公共団体は「地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」と規定されています。
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