「マテリアルインテリジェンスカンパニー」として社会課題解決に挑む

創業78年の素材総合商社・昭光通商が変革に挑んでいる。2022年に社長就任した渡邉健太郎氏は、双日、エコラボでの経験を活かし、「リスクをコントロールして利益を最大化する」組織への転換を目指す。素材総合商社として、従来からある原材料の取扱いだけでなく、食と健康、脱炭素、半導体の3分野で新たな価値創造に取り組む構想を聞いた。

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渡邉 健太郎 昭光通商株式会社 代表取締役社長

「リスクを取るな」から「リスクをコントロール」へ 

組織文化の大転換

昭光通商は1947年創業、化学品、合成樹脂、金属・セラミックスを3本柱とする素材総合商社である。長年の取引で築いた多くのサプライヤー、取引先、取扱い原材料を要し、80兆円を超える国内素材市場で独自のポジションを築いてきた。

2022年に代表取締役社長に就任した渡邉健太郎氏は、双日で20年間にわたり輸出入貿易に従事。1992年から95年にはニューヨーク駐在を経験し、その後は米国水処理・衛生管理大手エコラボの日本法人にて17年間勤務、うち約10年間は社長を務めた経歴を持つ。「昭光通商を変えるために来た」という自覚のもと、就任直後に着手したのが、組織文化の転換だった。

「当社は過去に不正取引に巻き込まれた経緯もあり、“リスクを取らないこと”が是とされる空気がありました。しかし、それでは新しい取り組みは生まれません。ビジネスにリスクは不可避であり、重要なのは“リスクを取らないこと”ではなく、“リスクをコントロールしながら挑戦すること”です」

この方針のもと、まずは「リスクを最小化する」ことから「リスクを管理し、利益を最大化する」ことへの発想転換を全社に浸透させた。渡邉氏は「当社は誠実さと信頼関係を大切にする一方で、おとなしい社風でもある。もっと挑戦心があっていい」と述べる。だからこそ従業員へ「プロになれ」と伝える。職務を与えられるのではなく、自ら専門性を磨き、市場価値で語れる人材になれ。その意識変革を組織全体に促している。

組織変革の具体策として、人事制度の抜本的見直しを実施。従来の単線的な昇進ルートに加え、専門性を評価する「エキスパート職」を設けるなど複線化を図り、多様なキャリアパスを整備した。「Pay for Performance(成果に応じた処遇)」を軸とした報酬制度へと改め、実績と貢献度を重視した報酬とした。また、必要な機能は外から積極的に登用した。

潜在ニーズを掘り起こす 

マテリアルインテリジェンスカンパニーへの挑戦

渡邉氏が掲げる中長期ビジョンが「マテリアルインテリジェンスカンパニー」への転換である。従来の“メーカー系商社”の強みも活かしながら“独立系商社”として自立し、顧客の価値創造に一歩踏み込む姿勢を鮮明にする。

「従業員には常々伝えています。当社の強みは、顧客との強固な信頼関係にある。それは、顧客ニーズを的確に捉え、提案という形で価値創造を重ねてきた成果です。しかし、これからは顕在化されたニーズに応えるだけではなく、“潜在ニーズのさらに先”を読み取り、先回りして提案をしていく企業へと進化しなければなりません」

この戦略を支えるのが、3つのインテリジェンスの融合である。すなわち、従来の「トレーディングインテリジェンス」に加え、「マーケットインテリジェンス」「カスタマーインテリジェンス」を掛け合わせ、提案の質と精度を高めていく。

例えば同社は素材総合商社として、自社で在庫を持ち、顧客が必要な量を小分け販売する在庫機能も強化している。この機能は特に中小製造業に対しては、必要な原材料を安定的に、コストを抑制して提供できることから、重要な機能となっている。このように、現場のニーズに対して細やかなサービスを提供する。

社会課題解決でビジネス創出 

3つの成長分野への戦略的投資

現在、同社が新たな成長領域として注力するのが、「食と健康」「脱炭素」「デジタル社会(半導体)」の3分野である。いずれも社会的課題の解決に直結する分野であり、素材の知見とネットワークを生かした独自の提案が期待されている。「食と健康」の領域へ注力することについては次のように述べる。「日本は世界に先んじて超高齢化社会に突入しています。健康課題への対応は、いずれ世界各国が直面する課題です。当社がこの分野に貢献することは、国策との整合性もあり、将来的には海外展開にもつながるモデルになると考えています」。脱炭素分野では、プライベートブランド製品である生分解性マルチフィルムの拡販に動いている。

「従来の農業用マルチフィルムは、使い終わったフィルムを回収・廃棄する手間とコストが発生していました。当社が企画・製造・販売をしている生分解性マルチフィルムは土壌で自然に分解されるため、それらの工程が不要になり、結果としてトータルコストの削減につながります」。製品単価がやや高くても、導入の合理性が明確であれば採用は進む。「ただ環境への意識が高いというだけでは、商材は普及しません。現場にとって導入する合理性があることが重要です。だからこそ、当社は“コストも含めて成立する提案”を追求しています」。

さらに、昭光通商では複数のリサイクルプロジェクトのビジネス化に取り組んでいる。リサイクルビジネスは、収益化が難しいからこそ、「だからこそ挑戦する」と続ける。この難題に挑む姿勢こそ、これからの昭光通商の存在感をさらに高めることになる。

生分解性マルチフィルム
環境対応とコスト合理性を両立する、同社の生分解性マルチフィルム

未来への構想

2026年秋の再上場と、その先へ

現在、同社は2026年秋の再上場を一つのマイルストーンとして、全社一丸となって取り組みを進めている。創業から78年を迎え、信頼と実績を築いてきた基盤の上に、社会課題を事業機会として捉える新しい企業像を描こうとしている。

「従業員には、"自信を持って挑戦してほしい"と伝えています。ただし、マテリアルインテリジェンスカンパニーを目指す以上、現状維持では成長はありません。10年先、20年先を見据えて、変化を恐れず、これまで誰も解決してこなかった課題に対して、私たちが答えを出していく。そういう商社でありたいと思っています」。渡邉氏の「有言実行」の哲学が組織に浸透し、素材という社会基盤を支える分野で課題解決型ビジネスを確立する取り組みは、持続可能な社会と企業成長の両立を示す新時代のモデルとなるだろう。

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