2020年9月号

地域特集 長野県

ウィズコロナ時代「信州リゾートテレワーク」に注力

阿部 守一(長野県知事)

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ウィズコロナ時代の観光方針、IT企業と地場産業を融合させた新産業創出、長野ブランドを売り込む営業局の設置...。さまざまな挑戦を行う長野県がめざすのは、この世の中になくてはならない「価値創造県」だ。

阿部 守一(長野県知事)

――新型コロナウイルスからの経済再生施策についてお聞かせください。

「新型コロナ対策産業支援・再生本部会議」を設置して、金融機関、経済団体、市町村といったみなさんと問題意識を共有しながら対策を進めています。具体的には、実質無利子、無担保融資制度や、休業要請等に応じていただいた事業者への協力金・支援金の支給、また休業はしていないけれど収入が激減した交通事業者のみなさんや、人と接触せざるを得ない理美容や鍼灸院といった業種の方々への支援をしっかりやっていこうということで取り組んでおります。また、当県には山小屋が多数ありますので、その支援のために7月1日からクラウドファンディングで支援金の募集を始めています。もちろん観光業や飲食業に対しても「飲食・サービス業等新型コロナウイルス対策応援事業」や「観光関連サービス業等生産性向上支援事業」など、さまざまな手段で直接的に支援していきます。

さらに、自粛生活で冷え込んだ消費者マインドを活性化するために、「地域支えあいプラスワン消費促進事業」として、市町村が行うプレミアム商品券などで地域内消費を喚起する事業を支援しています。

ウィズコロナ時代、
「信州リゾートテレワーク」に注力

――観光業への支援策はどのようにお考えですか。

観光については、ウィズコロナ時代を見据えた観光振興方針を策定して、県内の観光事業者やDMO、観光協会のみなさんと一緒に具体的な取組を進めていこうというところです。ウィズコロナ時代は、まず県内観光からということで、県民向けの割引制度を実施するなど、切れ目のない観光支援策を行っていこうと考えています。

ウィズコロナ時代は、安全・安心をしっかり打ち出すとともに、これまでの観光への考え方を未来に向けて変えていく必要があります。例えば、これまでの国内観光は日帰りや一泊二日型に力を入れてきましたが、これからはより長期間滞在していただけるような環境を整備していく必要があります。

IT化でお客様が宿泊施設から直接さまざまな観光施設を予約できる仕組みをつくる。また、泊食分離をすすめる必要もあると思っています。長期連泊となれば宿泊施設内の食事だけでは飽きがくることもあるでしょう。宿泊施設が地域と協力体制をつくり、お客様に多彩な食を楽しんでいただくことも重要になると思います。

長野県の観光の一番の特徴は豊かな自然です。そういう意味で言えば、密を避けやすい観光が可能ですし、環境に優しいサステナブルツーリズムを楽しんでいただくことができます。また、豊かな自然環境の中でリモートワークを行っていただく「信州リゾートテレワーク」には、コロナ以前から注力してきました。今後はウィズコロナからアフターコロナまでを見据えて、地域の皆さんの問題意識も承りながら、「豊かな自然環境」という長野県の強みを全面に打ち出す方向づけを行っていきたいと思っています。

豊かな自然環境の中、澄んだ空気を吸いながら仕事ができる「信州リゾートテレワーク」を推進。写真A)信濃町、写真B)富士見 森のオフィス、写真C)SORA terrace 山ノ内町、写真D)千畳敷カール 駒ヶ根市、宮田村

「長野県営業本部」が
"信州ブランド"を強力サポート

――昨年度、自治体には珍しい「長野県営業本部(営業局)」を新設置され、知事自ら本部長に就任されました。

かねてから、長野県にはいいものがたくさんあるのに、それが十分知られていないという問題意識がありました。そこで2014年に長野県の情報発信拠点として新感覚のアンテナショップ「銀座NAGANO」を立ち上げました。銀座NAGANOの1階は物品の販売、2階はイベントスペースとして県内の市町村や企業のみなさんに活用していただいています。イベントスペースを併設したのは、イベントを通してその背景にある長野県の価値を発信し、関係人口を増やすことが狙いでした。

銀座NAGANO。銀座5丁目の好立地に位置する。アンテナショップ以外にイベントスペースがあるのが特徴。

これをさらに発展させたのが営業局です。信州ブランドを広く国内外に知っていただくには、しっかりとした営業戦略が必要です。しかし当県の場合、小規模な事業者が多いため、流通関係者の視点で見ると「良いもの」「売れるもの」といったポテンシャルを持つ産品があるにもかかわらず、マーケティングのスキルがない、売り先がわからないということで、商品として市場に出て来にくい状況があります。そこで営業局が"県内の生産者や事業者と市場とのつなぎ役"となります。また、価値創造のための"学びと実践の場"を提供し、長野県のブランド力を育成して、「信州ブランド」を国内外に発信して、長野県の価値を向上させようと取り組んでいます。物産の売り込みは私が営業本部長としてトップセールスで行っていきます。とは言え行政は販売や営業に関しては素人同然ですから、商社で活躍されている方や流通業に携わっていらっしゃる方に加わっていただき、彼らが持つ知見やネットワークを発揮していただきながら取組を進めているところです。

――成果はいかがですか。

まだ設置1年でよちよち歩きではありますが、昨年はタイのテレビショッピングの番組に交渉して、長野県の物産を取り上げていただくこととなりました。

今年2月には県産品の生産者とバイヤーをつなぐマッチングサイト「しあわせ商談サイトNAGANO」をオープンして、6月には成城石井さんとWeb商談会を実施しました。私も参加しましたが、成城石井さんには長野県の物産にかなり関心をもっていただけたのではないかと思います。

しあわせ商談サイトNAGANO。Web上での商談が発生しやすくなるように売り手、買い手の双方が要望を出し、ひと目で閲覧できるよう、工夫が凝らされている。

営業活動はとにかく売ってナンボの世界ですから、我々もそういうスタンスで活動しています。こうした営業局の働き方は他の部署への刺激にもなっているようなので、これを機に県としての行動の価値基準を変えていければと考えています。

豊かな自然と地の利を生かし
IT企業やIT人材を集積

――長野県は「先端技術活用推進課」を中心に、IoTやAIの積極的な活用を推進されています。

これからはどの地域でもDX戦略やソサエティ5.0時代の行政のあり方を考えなければいけません。当県では、「信州ITバレー構想」と「スマートハイランド推進プログラム」という2本柱で長野県のDXを進めています。

「信州ITバレー構想」は、首都圏・中京圏・北越地域との結節点に位置する本県の地理的メリットや、さまざまな「住みたい町ランキング」で常に上位となる優位性を生かして、ソサエティ5.0時代を担うIT企業やIT人材を集積させ、産学官の力を集結して産業のDX推進や革新的ITビジネスの創出を促進するエコシステムを構築しようという戦略です。

2017年の業種別製造品出荷額の工業統計では、情報通信機器製造業が1兆186億円で全国1位、電子部品の製造業が7,356億円で全国2位となっています。製糸産業からスタートした長野県の産業は、時代の流れとともに精密機器や電子へと主軸が変わり、近年は情報通信や電子機器分野で高い能力を持つ企業が増えています。この高い技術力を持った製造業とIT企業を融合させることで面白い展開が期待できるのではないかと考えています。善光寺周辺地域では、「善光寺門前イノベーションタウン構想」としてIT企業の集積を図っており、松本市では昨年11月にICTの拠点「サザンガク」をオープンしました。サザンガクは、「テレワークオフィス」「コワーキングスペース」「サテライトオフィス」の3つの機能を持ち、そこに集う人と人が融合することで、大きな力を生みだそうという施設です。

ITビジネスの支援体制としては、県立大学や信州大学など大学系の支援や、高い技術力を持つ県内企業からの支援、長野県IoT推進ラボや信州ITバレー推進協議会といった県内の機関が積極的に支援を行います。

2本目の柱「スマートハイランド推進プログラム」は、①県と77の市町村の「共通業務」の共同利用の推進、②業務プロセスの見直しの徹底、③クラウドサービスの利用を基本とする考え方とITシステムの拡張性の考慮、この3点を推進コンセプトとして、市町村と連携したスマート自治体の実現に向けた取組を進めています。

近年は台風による甚大な被害や、新型コロナウイルスの感染拡大など、さまざまな緊急事態が起こります。そうした時も、行政サービスの迅速で継続的な提供や、医療の充実、速やかな避難誘導など、スマート化を進めることで県民の利便性や安全性をあげてまいります。

キーワードは「学び」と「自治」
新時代は県民自らの力で拓く

――県の総合5か年計画である「しあわせ信州創造プラン2.0」は、どういった戦略なのでしょうか。

「しあわせ信州創造プラン2.0」は、副題として「学びと自治の力で拓く新時代」と銘打っています。「長野県は教育県ですよね」と言っていただくことが多いのですが、たしかに教育を重視してきたという自負があります。「教育」ではなく「学び」としたのは、「教育」は教え・教えられる関係性ですが、これからは一人ひとりの県民が、大人もこどもも、主体的に学び続けていくことが大事だろうと考えたからです。

「学ぶ」がインプットだとすれば、その学んだことをもとに実際の行動に移すプロセスが「自治」です。長野県の77の市町村は気候風土も多様ですし、それぞれの地域が強い特色を持っています。また、自分たちの地域は自分たちの力で守り抜くのだという気概を持っています。このような特徴を持った地域を発展させていくには、金太郎飴的に画一的な施策を講じるのではなく、それぞれの地域の自治を大切にしながら発展させていくことが重要だと考え、その思いを「学びと自治の力で拓く新時代」という文言に込めました。

――人生100年時代、県民に学ぶ機会を提供する施策はありますか。

長野県の知の拠点にしようと2018年に長野県立大学を開学しました。1年次全寮制、2年次全員参加海外プログラムといった特色をもって始動しています。また、県立大学では、人口減少や環境問題など社会的課題を地域の人たちが自ら学んで解決していく取組を支援するソーシャル・イノベーション創出センターを設置しています。

とくに環境問題については、当県は都道府県レベルで初めて「気候非常事態宣言」を出しています。自然環境を大切に育んできた長野県だからこそ、地球環境問題にしっかりとコミットしていこうという思いから出しました。

県民の学びへの意欲も旺盛で、「信州環境カレッジ」では、県民、NPO、大学、行政等が主体となり、さまざまな環境学習の講座を設けています。また、長野県はシニア大学も非常に盛んで、高齢者世代のみなさんが主体的に学ぶ場として活用されています。私が知事に就任する前は趣味の集いのような講座が多かったようですが、近年は地域課題に向き合い実践的に活動する講座に重点を置いています。

――最後に、読者のみなさんにメッセージがあるそうですね。

昨年、長野県は令和元年東日本台風で大きな被害を受けました。その際に、全国からボランティアの方々が来てくださったり、義援金を送ってくださったり、大変多くの皆様に支えていただきました。この場をお借りして、応援していただいた皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。

(取材日:2020年7月2日)

 

阿部 守一(あべ・しゅいち)
長野県知事

 

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