大企業の請負から脱却、医療産業クラスターで新会社が続々誕生
盛岡市周辺で活動しているライフサイエンス・医療機器産業クラスター。アイカムス・ラボはその中心企業の1つとして、独自に開発した製品を国内外に販売している。創業から17年、社員にも起業を勧めており、岩手県に新しい事業を生み出す母体となっている。
岩手県を流れる北上川流域では、1970年代に半導体、1990年代には自動車関連の大手メーカーが工場を開設し、産業集積が進んだ。2020年代に入り、半導体と自動車に続く第3の産業として、医療・ライフサイエンス関連機器産業が成長している。その中心企業の1つ、アイカムス・ラボ代表取締役社長の片野圭二氏に話を聞いた。
工場閉鎖が生んだ企業群
アイカムス・ラボの主力製品は、電動ピペット「pipetty」。ピペットは、微量の液体を量り取って別の容器に注ぐ作業に用いる機器で、DNAやたんぱく質など生体試料を扱うバイオ研究や臨床検査の現場では欠かせない製品だ。大量の検体を扱う場合、手動ピペットは作業者への負担が大きい。アイカムスでは、自社技術を使って、小型で低価格の電動ピペットを製品化した。地元に工場を持ち、国内だけでなく世界中で販売している。
片野氏は、2002年5月まで盛岡市郊外の玉山村で操業していたアルプス電気(現アルプス・アルパイン)盛岡工場で、プリンタの製品開発に携わっていた。多くの社員を雇用していたアルプス電気の工場閉鎖は、地元にとって大事件だった。しかしこの出来事は、岩手県内に新事業に挑戦する気風をもたらすことにつながった。同工場からは、アイカムス以外にも複数の企業が誕生。その数は40社にも上るという。
当時40歳だった片野氏は、「いずれは会社を出、技術を生かして何かをやりたいと考えていたので、工場閉鎖に背中を押された形で起業の準備を始めました」と振り返る。岩手県には1990年代から活動する産学官連携組織「岩手ネットワークシステム(INS)」があり、片野氏は1990年代後半から岩手大学教授の岩渕明氏と共同研究を実施していた。経済産業省が競争的研究資金の「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を公募していたこともあり、これに応募してベンチャーの起業を目指すことになった。
そして2003年に設立したのがアイカムス・ラボだ。なおアイカムスのアイは、岩手出身の作家・宮沢賢治が創造したもう1つの岩手県である「イーハトーブ」にちなんでいる。設立時の目標として、片野氏は「大企業の製造請負では、国内製造業の空洞化に対抗できない。地方から、新しい技術・製品を作り、自立していかなければ、と考えていました」という。
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