逆スケールメリットを生かせ 栃木の総合大学の地域貢献

実学に強みを持つ宇都宮大学は、教員養成や農業・製造業の発展に貢献してきた。21世紀に入り、複雑化する科学・社会情勢のもと、地方大学に求められる役割も変化している。新しい時代の地域を担い、現場のニーズをくみ取ったイノベーションを起こす人材を育てていく。

宇都宮大学は、栃木県内では唯一の国立大学法人だ。学部1学年の学生数は950人ほど、教員数も350人弱と、総合大学としては規模が小さい。同大学学長の石田朋靖氏は「都市部の大規模大学であれば、1学部にしか相当しないようなコンパクトな大学ですが、逆スケールメリットがあります」と話す。規模が小さいことから、教職員・学生の距離が近く、専門を超えた交流が生まれやすい。これを生かして文理を融合した教育・研究を実施し、地域や現場の埋もれた課題を発見できる人材の育成を目指している。

実学志向と文理融合

戦後の教育改革で設立された同大学の母体は、師範学校と高等農林学校だった。高度経済成長期に工学部を設置、1990年代には国際学部を設置するなど、時代が要請する人材を育成してきたが、共通しているのは実学志向。「実学で結論を出すためには、現場に足を運び、時には厳しい視点で現実を見据えなければならない。このような姿勢は、宇都宮大学の伝統になっています」と石田氏はいう。

石田 朋靖 宇都宮大学 学長

宇都宮大学では、2004年の独立行政法人化後、地域とのつながりを重視した組織づくりを行ってきた。2016年度には新学部として文理融合の地域デザイン科学部を設置。2019年度からは、大学院の研究科を統合し、「地域創生科学研究科」を設置した。大学院の専攻を「社会デザイン科学」と「工農総合科学」の2専攻にまとめ、文系・理系の垣根を外そうとしている。

「これからの研究者や高度専門職は、専門を深めるのは当然として、今まで以上に幅広い視野が不可欠です。そこで、大学院の必修科目として文系・理系に関係なく学ぶ『地域創生のための社会デザイン&イノベーション』、『現代社会を見通す:生命と感性の科学』などの共通科目を設けました」。

このような実学の伝統と文理融合で、目指すのは課題を発見できる人材の育成だ。解決すべき課題を設定することは、提示された課題の解決策を見つけることよりもはるかに難易度が高い。さまざまな視点を持ち、現場の事象の中から、解決すべき課題を発見できる人。地域に貢献したり、新しいビジネスを創造したりするには、そのような人材が不可欠だ。

最近の変化として、「大学にとって、現場を意識した専門教育の重要性は以前より高まっている」と石田氏は考えている。少子高齢化や核家族化、地域コミュニティーの弱体化もあり、子どもの身近にいる人の数やバラエティは減少している。その結果、大学で学ぶ年代の若者は、社会との結びつきが以前と比べると弱まっている。例えば福祉を学ぶ学生でも、身近に高齢者がおらず、一緒に過ごした経験がないというケースもある。観念ではなく実感として、知識と現場と結び付けるチャンスを大学が提供していく。

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