DX都市への進化で住みよい街へ ICT活用首長円卓会議

令和元年東日本台風で大きな被害を受けた郡山市。今後の気候変動への対応と、ICTを活用した庁内業務の改善という2つのテーマが課題だ。2020年2月26日、郡山市役所にて行われた、市長や東日本電信電話(以下NTT東日本)福島支店長が参加した公開ディスカッションの模様をレポートする。

東北の拠点都市でもある郡山市は、交通の利便性が良いことから「陸の港」とも称される。

若者が最も関心あり
気候変動対応と行政サービス改革

福島県郡山市は人口約33万人と県内で最大級の人口をもつ市である。16の自治体で構成する「こおりやま広域圏」の中心市として、SDGsや、ICTを活用した業務プロセスの改善、シティプロモーションなどで圏内全体の発展を見据えた施策を推進している。令和元年東日本台風の被害を受けたが、その経験も踏まえ、SDGs未来都市として、将来にわたり安心して住み続けられる地域をめざして気候変動対応型まちづくりに取り組んでいる。

公開インタビューは司会の事業構想大学院大学 織田竜輔から品川萬里 郡山市長への、"気候変動対応型まちづくり"と"郡山市デジタル市役所推進計画"についての質問から始まった。

品川 萬里 郡山市長

令和元年東日本台風により、郡山市では全世帯の約15%が被災、農作物等の被害は30億円以上に上るなど、大きな被害を受けた。市ではこの経験を踏まえ、市民が安心して暮らせる持続可能なまちづくりを実現するために、気候変動対応型まちづくりとして、治水機能を有する森林の整備、土砂災害ハザードマップの改訂、外国人対応のための自動翻訳機の整備などさまざまな項目に取り組む方針を固めた。

「郡山市では、2015年に国連サミットでSDGsが採択された時から気候変動対応型まちづくりを考えていました。特に、17項目の中でも13番『気候変動に具体的な対策を』については重要な課題と捉えています。2011年の東日本大震災、令和元年東日本台風などによる自然の脅威に対して行政のシステムをどう対応させていくか、危機感をもって政策に取り組んでいるところです。そして、このシステムの変革の軸になるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)化だと考えています」と語る品川市長。

DX化というと抽象的でわかりづらいため、郡山市では具体的に進める施策として"5レス(カウンターレス、キャッシュレス、ペーパーレス、ファイルレス、ムーブレス)"を策定した。

郡山市が進める5つのレス(5レス)

出典:各部局・ソーシャルメディア推進課

 

例えば、"カウンターレス"として市のホームページへのチャットボットの実装、各種証明書のコンビニ交付を実現し、"キャッシュレス"として市税などのスマートフォン決済、水道料金のクレジット収納などを可能にする。

庁舎内でも"ムーヴ(会議)レス"としてWeb会議の推進やグループウェアの運用を実施するなど、他の自治体と比べて先進的に取り組んでいる。

「DX化を考えるきっかけになったのは、2000年代に司法の分野で遠隔で日程調整を行う仕組みを見たことです。当時、行政より司法の方がICTの活用が進んでいると感じました。DX化のよいところは、導入効果がきちんとデータで見えることです。これは非常に大切で、行政は市民の皆さんからいただく税金を適切に投資して結果を出すことが求められる。その効果をデータの活用によりわかりやすく提示したいと考えています」と品川市長は語った。

この取り組みに特に関心を持ってもらいたいのが若者世代だ。

「例えばSDGsの関連で言えば、(スウェーデンの環境活動家)グレタ・トゥーンベリさんの活動などから、今の若者世代は環境意識が高いことがわかります。同じように、市役所での新たなサービスや安全・安心なまちづくりに最も関心を持っているのは、若者世代ではないでしょうか。少子化の時代は1人1人がどれだけ働いて、時間をいかに上手に使うかが重要で、若い世代は特にその分野に対する関心が高い。そうした要望に応えられるよう、持続的な住みよいまちづくりを推進していきたいと思います」と、インタビューを締めくくった。

 

続いて、山貫昭子 NTT東日本 福島支店長を交えた3者で、気候変動対応型まちづくりと5レスに関する公開ディスカッションが行われた。

山貫 昭子 NTT東日本 福島支店長

気候変動対応型のまちづくり
養殖事業にICTを活用

公開ディスカッションでははじめに、NTT東日本 福島支店長の山貫昭子氏より、気候変動に対応した備えと地域DXについて語られた。

「令和元年東日本台風では県内に多くの被害が出たことから、通信サービスの維持・復旧に加え、避難所への無料電話や無料Wi-Fiの設置など、郡山市とも連携してさまざまな対応を実施しました。全国で200以上の自治体にご利用いただいている弊社の『被災者生活再建支援システム』を県内では初めて郡山市に導入いただき、家屋の被害調査やり災証明書の発行などを素早く進めてその後の被災住民の方の支援につなげていただいたことは印象深いものでした。その一方で、地球規模の気候変動により、ゲリラ豪雨による急な河川の増水など従来の想定を超えた事象が発生していることも事実です。弊社では安心・安全なまちづくりとして、災害に強い通信サービスのための設備・体制の整備はもとより、先進技術も活用したソリューションを提供して、自治体の災害対策をサポートしてまいります。例えば、監視カメラ・IoTセンサーやドローンによる監視や状況把握、AIによる被害予測、多様な手段での情報発信など、平常時や警品川萬里 郡山市長 戒時の備えから発災時・復旧段階の対応まで、これまで以上の安心・安全を提供していきたいと考えております」。

また、防災や行政業務のDX化の他にも、NTT東日本では地域のさまざまな課題解決に向けて自治体と連携した取り組みを進めており、その1つに郡山市の鯉養殖でのIoT活用がある。

NTT 東日本では郡山市の鯉の養殖事業に参画し、ICT活用を進めている

郡山市の鯉の養殖は市町村別で全国1位の生産量を誇っているが、食生活の変化や原発事故の風評被害による需要減少、さらに生産者の高齢化という問題に直面し、市では2015年から鯉産業を支援するプロジェクトを立ち上げた。

プロジェクトには郡山市の他、県南鯉養殖漁業協同組合とNTT東日本らが参画し、NTT東日本では2019年6月から養殖業務の生産性向上などを目的に、養殖池にIoTセンサーとカメラを設置し、水温、pHなどのデータ収集と遠隔監視を可能にした。

今後は取得データ分析を踏まえて養殖技術をマニュアル化し、後継者育成にもつなげていく計画だ。

NTT東日本ではAI・IoT・5Gなどの新たな技術とNTTグループの豊富な経営資源を活用して、食・農分野をはじめ、熟練技能や文化資源の伝承、中小企業のDX化支援、e-Sportsによるまちおこしなど、地域の課題解決のサポートを東日本エリア全域で展開しており、今後それをさらに広げていく。

当日のトークセッションは新型コロナウイルスの影響を考慮しWeb会議システムを活用して関係者に中継した。

5レス 各課が〈自分ごと〉に

郡山市で実践する"5レス"の取り組みは他の自治体と比べても先進的かつ横断的だ。それだけに、どのようにPDCAを回していくかが参考になる。市では2003年から他市に先駆けてデジタル市役所推進を開始しており、現在は『郡山市デジタル市役所推進計画2018~2021』のもと、3つの基本方針を定めた。

基本方針1.
ICTで行政サービスの利便性向上

ICTの利活用により行政サービスの利便性向上を図り、いつでも、どこでも、だれでも、活用できる市役所をめざす。

基本方針2.
ICTで情報の見える化・地域情報化

SNSなどのICTの利活用により、積極的に情報発信・共有手段の多様化を図り、情報の見える化を推進する。また、オープンデータを活用した取り組みを支援することで、データ利活用を通じた、地域の活性化を推進する。

基本方針3.
ICTで行政事務の効率化・高度化

AI、センシング・IoT、クラウドなどのICTの利活用を図り、効率的な行政運営を追及するとともに、QCD(品質・費用・納期)の視点による継続的な業務のカイゼンや見直しを図り、行政事務の効率化・高度化を推進する。

これらの方針のもとに"5レス"を推進する市が整えている体制が、各課で任命される112人の"デジタルリーダー"と、部局に所属する統括役の"デジタルマネージャー"34人だ。

「通常、職員の能力はこれまでの経験などで培われますが、ICTの分野では若い職員の方が知識を持っていることが多く、庁内でのICT活用の調査・研究・開発などで中心的な役割を担っています。そのため、トップダウンで職員が動くのではなく、職員が自ら動いて会議を行い、本部に報告・提案をすることを待つようにしています」と品川市長は語る。

この点について、さまざまな地域の取り組みを見てきたNTT東日本 山貫氏は、成功のポイントと今後の課題についてコメントした。

「郡山市では明確な方針のもと市長を始めとする本部と職員がうまく連動して、先進的にICT施策を進めているという印象があります。一方で、多くの地域で課題となっているのが、既存業務をそのままデジタルに移行しただけで終わってしまい、業務運営上の効果まで追い切れていないことです。効果最大化のためには業務プロセスや仕事のやり方の見直しが求められますが、関係者の意識改革を含めてかなりのパワーが必要となるため、基本方針3のように先に方針を明確にして進める郡山市のやり方は他の地域にも大変参考になると思います」。

先進的取組をこおりやま
広域圏へ横展開

最後に山貫氏、品川市長に、ICTの活用や今後のソリューションについての展望を聞いた。

山貫氏は、「地域とともに歩むICTソリューション企業として総合的に地域の皆さまのお役に立てるよう、 これからも弊社の持つさまざまなアセット(資産)を駆使して取り組んでいきます。例えば、弊社では地域でのAI活用によるイノベーションとユースケースの創造を目的に産・官・学のみなさまにご利用いただける共創ラボ『スマートイノベーションラボ』を東京に開設しており、2020年2月現在、仙台や札幌でも開設に向けた準備を進めています。郡山市にはこのような施設もご利用いただきながら、先進的な取り組みを市内のみならず、周辺15市町村の『こおりやま広域圏』にも広げていただければと思います」と語った。

品川市長は、「一つは、5レスの取り組みを進めるために、これから庁内の各方面からどんどんアイデアを出してPDCAを回していきたいと考えています。今、生活の上でも仕事の上でもスマートフォンがツールの中心になっていると感じますが、この流れに市民サービスを対応させ、市から市民への情報が受け取りやすくなれば、より一層の改善を図ることができると考えます。そういった基盤を作るのが5レスの取組構想ですので、変化を恐れず新しい情報システムを活用していきます。もう一つは、その取り組みを『こおりやま広域圏』に連携し、地域の課題を横断的に解決していきたいと考えています。本日のこのインタビューやトークセッションも、Web会議で『こおりやま広域圏』に配信して聞いていただいています。今後も一層、DX化の取り組みをこおりやま広域圏の皆さまとともに推進していけたらと思います」と締めくくった。

NTT東日本 地域課題のソリューションの例

出典:NTT東日本

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円卓会議事務局

entaku-ml@east.ntt.co.jp

 

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