前500 Startups Japanが語る 成功するヘルステック企業とは

ひっ迫する財政の下、ぎりぎりの綱渡りで維持されている日本の医療・ヘルスケア。現場の困りごとを解決するシステムを、医療従事者のアイデアで提供するベンチャーが増えている。このような企業が投資を集め、ビジネスを成功させるために必要なことは何だろうか。

吉澤 美弥子(Coral Capital)

医療現場での課題意識をもとにした起業が増えている。近年「ヘルステック」という言葉も一般的となり、企業が医師の新たな社会貢献のあり方ともなってきた。医療・ヘルスケアのバックグラウンドを持つ起業家が知っておくべき現状と求められる資質について、数々の医療・ヘルスケア系スタートアップに出資してきた500 Startups Japan(現 Coral Capital)の吉澤美弥子氏に伺った。

日本でもヘルステック分野に参入する企業は増え、盛り上がりがみられるものの、米国と比較すると注目度は劣る。その理由のひとつは、米国と日本の制度の違いにある。米国は、医療・ヘルスケア分野であっても、市場を自由競争に任せている。しかし日本では、国民皆保険制度の下、決められた診療報酬でケアが提供される。サービスを提供する企業側としては、保険でカバーされことが明確になる前に事業を興すことはかなりのリスクを伴う。

そんな状況下ではあるが、医療・ヘルスケア領域では、医療従事者が起業する事例は少しずつ増えている。そのメリットは、医療現場における問題点や課題をリアルな視点から把握できる点と、顧客となる医療機関の担当者とコミュニケーションが取りやすいという点だと吉澤氏はいう。

「現場のことを理解して、本当に欲しいものをつくれる点は、他業界出身者にはなかなかできません。現場にいた経験があれば、医療従事者としての考えや判断のしかた、感情面でも相手を理解しやすいのではないでしょうか」。

ただし、医療従事者の起業にはデメリットもある。経営に必要な資金調達や人材採用、エンジニアリングなどの知識が不足しているという点だ。また、経営者になると、コミュニケーションをとる相手が医療機関の人間だけではなくなる。時には、駆け引きのような交渉も必要となる。

「臨床が長い医療従事者にとって、投資家や取引先と強い交渉が可能かどうかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。経営者として自分が不得意な部分を理解し、足りない部分を他のメンバーで補う必要があります」。

資金調達の面では、ベンチャーキャピタル(VC)から支援を受けるスタートアップもある。VCとして投資を行う立場の吉澤氏は、"企業価値を数年間で100倍にできるか"をひとつのポイントとしている。というのも、VCによる"投資"と銀行による"融資"はまったく視点が異なるからだ。VCは、投資した会社の成長に基づき資金を回収するため、将来のポテンシャルを評価する。吉澤氏によると米国ではスタートアップの成功確率は1%と言われている。500 Startups Japanでも、月間200社程度の投資を検討し、実際に投資するのはそのうち1社だ。

「医療費が切迫している現状、現場はまだまだ不合理なことも多く、医師や看護師の方々が消耗して、なんとか保たれている状態です。今まではそれで成り立っていたかもしれませんが、長期的にこれをどう効率化していくかという点は、非常に注目しています」。

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