2019年7月号

人間会議

CCUSと水素エネルギーの活用で、地域循環共生圏を形成

和田 篤也(環境省 大臣官房 政策立案総括審議官)

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脱炭素社会の構築に向けては、CCUSと水素エネルギーの活用が重要だ。これらを活用した地域循環共生圏の形成と分散型エネルギーシステムの構築に向けて、省庁間の連携チームも発足した。

和田 篤也(環境省 大臣官房 政策立案総括審議官)

 

 

日本がリーダーシップを発揮
できるCO2の有効活用

――脱炭素社会の実現に向けて、「二酸化炭素(CO2)の回収・有効利用・貯留(CCUS)」や水素エネルギーの技術が更に重要になっています。

1990年代以降、気候変動(地球温暖化)問題が出てきたことで、環境問題は社会や経済の問題とあわせて考えなければ解決できないという認識が広がりました。環境問題は現在、人類の文明論にも一石を投じるようになっています。

CO2をはじめとする温室効果ガスによる問題は、資源循環や自然との共生と表裏一体です。人類はかつて地上の資源を使って循環させていましたが、化石燃料の使用によって文明が地下資源に突入してから環境問題との折り合いがつかなくなりました。本来は地上にあるものを回すのが循環であり、そこでは自然との共生が重要です。

CO2については、過去に排出されたものをすべて回収するのは難しいことですが、今後排出する分については究極的に循環させる必要があります。このような中、CO2を排出しない水素エネルギーとCCUSは今後、キーテクノロジーとなるでしょう。CCUSは、火力発電所等の排ガスに含まれるCO2を「分離・回収(Capture)」し、「有効利用(Utilization)」、または地下に「貯留(Storage)」する技術です。

このうち分離・回収に関しては、日本は多様な物質が混ざった排ガスからCO2だけを取り出す基礎テクノロジーを、従来から研究開発してきました。近年は触媒技術などが進化し、少ないエネルギーとコストでできるようになっています。

例えば、廃棄物焼却炉の排ガスには様々なガスが混ざっており、CO2だけ取り出すのは難しいですが、環境省ではこれに挑戦しています。また、2016年から石炭火力発電所でのCO2分離・回収技術の実証事業を開始し、国内初の商用規模の回収技術の実証プラントが2020年から稼働する予定であるなど、技術の実用化に近づいています。同様に、セメント排ガスからCO2を取り出す技術も、2020年までの期間で実証を行っています。

また現在、世界で注目されている未来テクノロジーのBECCS(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage)は、CO2排出量をマイナスにするものです。そのためにはバイオマスの燃焼で排出されるガスからCO2を取り出す技術が必要で、これにも挑戦しています。先ほど触れた国内初の商用規模の回収技術実証プラントは、世界初の商用規模でのBECCSプロジェクトとなる見込みです。

一方、CO2の貯留に関する事業にも取り組んでおり、地震が多い日本では社会受容性等にも配慮しつつ、CO2を安定的に貯留できる適地調査事業を進めております。

また、CO2の有効利用では、3つのカテゴリーで取組を進めています。第1に、人工光合成(CO2、水、太陽エネルギーを用いて有機化合物等を合成する技術)がありますが、これはまだどちらかというと基礎研究段階です。第2にCO2からメタン(CH4)を作り、再び燃料として使う「メタネーション」があります。第3にCO2から石油化学製品の原材料を作り出す技術があります。将来的に脱石油文明を実現するためには、例えば樹脂や建材のような石油化学で作られている様々な材料をCO2から作り出すことが考えられます。

これら3つはいずれも、未来の究極技術です。CO2から合成していってエタノールまで作り出せるようになれば、いわゆる有機化学産業の一端で様々な化学製品を作れるようになります。その際、触媒技術が特に重要ですが、近年はこれが進展し、小さなエネルギーでも次の物質に転換できるようになっています。

出典:環境省「CCUSの早期社会実装会議」概要資料

再エネや廃棄物から水素を製造

――水素エネルギーの活用では、どのような対策が進んでいますか。

水素エネルギーの文明論的位置づけは、燃やしても水しか排出されないということです。水素は爆発的に燃やして発電することもできますが、ゆっくり燃やす燃料電池という技術もあり、現在はこれが主流で、日本でも非常に発達してきたテクノロジーの1つです。

他方で、水素は一次エネルギーではなく二次エネルギーであるため、どのような一次エネルギーを用いて作るかが問題になります。様々な工業プロセスから副生的に発生する水素に近いガスを使うこともできますが、究極的には再生可能エネルギーによって作るのが最も良いはずです。

また、二次エネルギーである水素については、製造や貯蔵、輸送、利用のテクノロジーを含むサプライチェーン全体で考えなければ有効に機能しません。このうち輸送に関しては、液化水素、圧縮水素などの形にして、トラック等によるバッチ式の輸送技術の活用することや、水素専用の配管を使い、家庭など末端の利用者への直接供給も考えられます。

環境省では現在、神奈川県横浜市・川崎市や北海道鹿追町・帯広市などで「地域連携・低炭素水素技術実証事業」として8件のモデル事業を採択しています。例えば、工業地帯である川崎市では、既存のパイプラインが敷設されている特性を活かし、これを最大限活用する事業モデルを模索しています。また、他の地域でも、水素を水素吸蔵合金に貯蔵してトラックで配送する技術や、都市ガスに混合して配管で送る技術など、幅広い技術の実証を行っています。

これらの事業には、燃料電池と組み合わせて電気だけでなく熱も利用するものや、再生可能エネルギーや廃棄物から水素を作る取組も含まれます。廃棄物の例として、例えば、家畜糞尿や使用済みプラスチックを用います。廃棄物も水素を作るための重要な一次エネルギー源であるという発想は、従来はあまりなかったものです。

出典:環境省「CCUSの早期社会実装会議」概要資料

家畜糞尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業(上)と使用済みプラスチック由来低炭素を活用した水素地産地消モデル実証事業(下)
出典:環境省提供資料

地産地消のプロシューマー型
エネルギーで地域を活性化

――脱炭素社会の実現に向けて、環境省は今後、どのような役割を果たしていく方針ですか。

環境問題への取り組みは、「for」から「by」に変化してきたと思います。従来は環境保全のために(for the environment)行う対策が中心でしたが、今はそれに加え、環境対策によって(by the environment)経済を活性化し、社会をより魅力的なものにしていくステージに来ています。これに伴い、企業が社会に開示すべき情報も、環境配慮活動から環境ビジネスに変化しています。

地球温暖化対策であるCCUSと水素エネルギーの促進も同様で、環境省ではこれらを地域活性化にもつなげていきたいと考えています。日本のエネルギー行政では従来、地域や生活者の視点が必ずしも重視されていませんでしたが、今後はこのような視点をより取り入れていこうとしています。

電気については大規模な電力会社だけが作るステージから、地域でも作るというステージに移行しつつあります。廃棄物や農作物、再生可能エネルギーから水素を作り、熱や電気を地域で利用することになれば、エネルギーのシステムは地産地消型になります。

エネルギーに関しては近年、「プロシューマー(prosumer)」という言葉が国際的に多く用いられるようになっています。これは「生産者(producer)」と「消費者(consumer)」を組み合わせた造語で、そこではエネルギーの生産者と消費者が一体になります。

エネルギーにもオーナーシップがあって良いはずで、その地産地消が現在、世界の潮流になっているのです。足りない分は他から買うこともありますが、プロシューマー型のシステムでは自分たちが作ったエネルギーを自分たちの地域で消費します。これは今後、「地域循環共生圏」を構築していく際の基本哲学です。

地域循環共生圏では、「循環と共生」という文明論的に究極となる社会コンセプトに基づく生活が営まれます。エネルギーに関しては、CO2を排出しない水素エネルギーとCO2を循環させる基盤テクノロジーのCCUSが、その重要な基軸となります。そして地域もオーナーシップを持ち、元気になっていくというのがそのコンセプトです。

環境省ではこのように、地域や暮らし、生活者のニーズから発想した未来へのコンセプトを提案しており、その全体像を示したのが、昨年4月に閣議決定した「第5次環境基本計画」です。そのための取組を、様々な他省庁と協力して進めていきます。

日本のエネルギー行政は従来、地域という言葉との親和性がなく、これは長年、地方行政にはない領域でした。しかし、今年4月12日には、地域循環共生圏の形成と分散型エネルギーシステムの構築に向けて、経済産業省と環境省の「連携チーム」が発足するなど、新たな取組が始まっています。

再生可能エネルギーや水素などの活用を通じてエネルギーが地域密着型になるほど、エネルギー行政における地方と経済産業省、環境省などの連携は重要になります。私たちはこれらの活動を通じて、地域活性化にも貢献していきたいと思います。(談)

 

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