2019年7月号

人間会議

日本の文化を伝え、海外で日本の友人をふやす

安藤 裕康(国際交流基金 理事長)

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昨年から今年にかけてフランスで行われた日本文化紹介事業「ジャポニスム2018――響きあう魂」には約350万人が訪れるなど、海外における日本文化への関心は高い。国際交流基金では、こうした海外で日本文化を紹介する事業と共に、2014年にアジアセンターを設置して、様々な交流事業を展開している。今後ますます日本にとって重要となるアジアの国々と言語や芸術文化の領域で双方向の交流を促進し、相互理解を深めていく。

安藤 裕康(独立行政法人 国際交流基金 理事長)

 

 

海外で高い
日本文化への関心

――昨年7月から今年2月にかけてパリを中心にフランス各地で展開された日本文化紹介事業「ジャポニスム2018――響きあう魂」は、盛況裡に終わりました。

「ジャポニスム2018」では、日本の伝統文化や現代演劇・美術、マンガやアニメ、日本映画、日本食、祭りなど100以上の公式・特別企画を実施しました。また、民間の方々による参加企画も200を超えました。全体では353万人が訪れ、私はこれによって日本文化の質の高さが立証されたと思います。世界に冠たる文化国家のフランスで行い、これだけの方が来てくださったのは大きな意味があります。

安倍晋三総理は「日本の国力は文化にあり」とおっしゃっていますが、海外には日本文化の大きな需要があり、日本文化を知りたいと思っている方は多いと感じます。これに対し、日本からの発信はまだ不十分です。今後はもっと文化を表に出して、日本やその国民性について海外の方々に理解していただくことが重要だと思います。

他方で、日本国内の社会における文化の位置づけはあまり高くないと感じます。国民の文化への関心が向上し、それを祝福できるようになれば、おのずと「海外にも紹介していこう」ということになるはずです。

この点に関しては、メディアの役割も重要だと思います。ただ、メディアは国民が関心を持たないことは取り上げにくいので、結局、日本社会全体の問題ということです。国民の文化への関心を高めていくには、やはり教育が重要でしょう。

例えば、今後、日本が世界でそれなりの位置を占めていくためには、世界で活躍する人材の輩出が必要です。そのためには、英語教育が重要になりますが、他方で「英語は上手だが、日本に関する知識がない」というのは恥ずかしいことです。

私は41年間にわたって外交官を務めましたが、外国の方から「日本文化のエッセンスは何ですか」と聞かれたり、例えば、「縄文とは何ですか」と質問されたりした場合に「分かりません」と答えれば、馬鹿にされてしまいます。言葉だけでなく、日本文化もしっかり学び、海外の方々に説明できるようになることが大切だと思います。

言語や芸術文化で双方向の
交流を進めるアジアセンター

――国際交流基金では「響きあうアジア2019」を実施するなど、特にアジアに根差して交流の輪を広げることに力を入れています。

アジアは今後ますます、日本にとって重要な地域となります。第1に、アジアの人口は現在、世界全体の約53%に当たる44億人で、この比重は今後さらに増えるでしょう。また、アジアの国内総生産(GDP)は現在、世界の30%弱ですが、この数字は近く50%を超えるといわれています。

一方、訪日観光客では現在、東アジアから来られる方が74%で、その大部分は中国からです。東南アジアからは10%ですから、アジアの方々が80%以上を占めているということです。アジアにおける日本企業の進出は、当初は中国が中心でしたが、その後、東南アジアへ移り、現在は南西アジアに広がっています。

さらに、日本国内では今後、外国人材の受け入れを拡大する方針です。現在、アジアの9カ国の方々に日本へ来て、経済を手伝っていただこうとしていますが、将来はもっと増えるでしょう。その際、彼らを単なる労働力と考えるのではなく、人として受け入れ、交流や相互理解を深めていかなければ、いつか反発が起きるはずです。そういう意味でも、アジアとの文化交流は非常に重要です。

このような中、2013年12月の日・ASEAN特別首脳会合で発表された新しいアジア文化交流政策「文化のWA」を実施するため、国際交流基金では2014年4月、アジアセンターが発足しました。主な活動の1つは言語で、もう1つは芸術文化です。言語は文化の基本で、言語の学習はその国の文化を理解する重要な手段となります。また、アジアセンターのコンセプトは「双方向」で、日本の文化をアジアに紹介するだけでなく、アジアの文化も日本に紹介し、さらに協働の活動も推進しています。

例えば、言語に関しては、アジアの国々の中学校・高校などへ、「日本語パートナーズ」という日本人ボランティアを派遣し、現地の先生方のアシスタントとして、日本語や日本文化を教える活動をしてもらっています。その際、「日本語パートナーズ」の方々には、現地の言語や文化も学んでいただきます。

若い人たちだけでなく、会社を定年退職した方など、20代から60代までの幅広い年齢層の方が参加していますが、皆、帰国すると異口同音に「素晴らしい経験をした」とおっしゃいます。例えば、インドネシアの地方で現地の方々と交流し、地域の特性や人々の考え方に「目を開かれた」という方もいます。また、シニアでは「この年齢でも役に立てる」と嬉しく思い、帰国後も現地との交流を続けている方もいます。現地で日本語を学んだ方々も、「学んだ日本語が実際に使えた」、「日本文化を理解できた」と喜んでいます。これはまさに双方向の交流で、両者に良い効果があるということです。

アジアセンターのもう1つの主な活動分野である芸術文化では、美術や演劇、音楽、映画など様々な領域で双方向の交流を行っています。例えば、2017年には国立新美術館と森美術館で「サンシャワー――東南アジアの現代美術展、1980年代から現在まで」を開きました。

これはASEAN10カ国の現代美術を紹介する史上最大規模の美術展として、日本と東南アジアのキュレーターが協働して企画したもので、入場者は約35万人を超え大成功でした。何よりも東南アジアのアーティストたちの作品が東京の中心にある六本木で展示され、多くの方々が作品を観に訪れたことは、彼らに自信を与えました。

演劇では、若手の演劇作家で演出家の岡田利規氏がタイの小説家、ウティット・ヘーマムーン氏の作品を基に、タイの俳優を起用して共同制作した舞台公演「プラータナー――憑依のポートレート」を昨年、バンコクとパリで行いました。今年6月から7月には、東京芸術劇場でも公演を行います。また、演出家の宮本亜門氏は「ライ王のテラス」という三島由紀夫の戯曲を、カンボジアの俳優を起用して舞台化しました。カンボジアの伝統舞踊の舞踊家によるダンスを取り入れ、現地の方々にも喜んでいただきました。

映画に関しては、「東京国際映画祭」で東南アジアの映画を毎年約10本、特集上映しています。この5年間は、タイやフィリピン、インドネシアなどの特集のほか、日本の監督とアジアの監督による共同制作の映画づくりも行っています。

スポーツで現在、最も力を入れているのはサッカーです。日本サッカー協会やJリーグの協力をいただき、専門家や指導者を東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々に派遣して若者を育成しています。これまで約166人を派遣し、現地で育成した選手は3150人になりました。その集大成として、今年は日本とASEANの双方で、18歳以下の選手たちによる親善試合を行います。

音楽では、ASEANの国々でオーケストラの支援も行っています。今年7月には、5カ国から約80人の演奏家を招き、日本の演奏家を交えた多国籍オーケストラ「響きあうアジア2019交響楽団」によるコンサートを東京芸術劇場で開催します。

このように、アジアセンターが設置された2014年から5年間にわたり、芸術文化や言語に関する双方向の交流を進めてきました。アジアセンターは2020年までの時限的なものになっていますが、今年は様々なイベントを通じてその成果を皆様に知っていただき、2020年以降も同様の取り組みを継続できるようにしたいと考えています。

「日本語パートナーズ」は、日本文化の紹介や会話練習の相手役をすることで、日本や日本語に対する生徒達の関心を高める役割を果たしてきた。
写真:国際交流基金

「プラータナー」は、タイ文壇注目のウティット・ヘーマムーン氏の小説を岡田利規氏が舞台化。バンコク、パリを経て今年6月に日本初演
写真:Sopanat Somkhanngoen

文化外交で求められる
現地性と継続性

――国内には地域ごとの特色ある文化があり、それらを海外の人たちに伝えていくことも大切です。

日本は東京だけが中心ではなく、地方創生に向けても地方の重要性をより認識する必要があります。この点に関しては、私たちも様々な事業を行っています。例えば、先に触れた「ジャポニスム2018」では、阿波おどりをはじめとする地方の祭りや特産品、工芸品を紹介しました。

また、「瀬戸内国際芸術祭」や新潟・越後妻有の「大地の芸術祭」、「福岡国際映画祭」、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」など、地方には様々な芸術祭や映画祭があります。私たちはそれらとも連携し、色々なプロジェクトを進めています。

他に、私たちは毎年、国際交流に尽力された国内外の方々に「国際交流基金賞」を差し上げていますが、もう1つ、「国際交流基金地球市民賞」があります。これは日本全国の地方で、国際文化交流事業を草の根レベルで行っている団体の顕彰を毎年3件行うというものです。受賞団体の方々を招いてシンポジウムも開催し、経験のシェアもできるようフォローアップもしています。

――海外の国々との文化に関する今後の交流では、どのような構想がありますか。

海外では現在、アニメ、マンガ、和食が三大人気の日本文化で、それらをきっかけに日本に関心を持つ人が多いと思います。このような文化ももちろん大切ですが、私たちはそれにとどまらず、その奥にあるものにも、もっと入ってきてほしいと願っています。

フランスで行った「ジャポニスム2018」では、マンガ・アニメ展も行いましたが、他にも色々なものを見ていただきました。例えば、「縄文―日本における美の誕生」展では、縄文時代の土器や装身具などを展示しました。また、先代の十三代目片岡仁左衛門の11時間に及ぶ記録映画を海外で初めて上映し、多くの人が訪れました。この映画で良いのは、仁左衛門という俳優だけでなく、歌舞伎という芝居や日本文化の理解にもつながるところだと思います。

私たちは今後さらに、アフリカの国々とも文化的な交流を深めていきたいと考えています。今年8月末には横浜で、「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」が開催されます。

TICADは1993年以降、日本がアフリカの国々と共に行ってきた開発をテーマとする国際会議です。当初は、政府開発援助(ODA)がその中心的な課題となっていましたが、アフリカの国々が徐々に経済発展し、現在は貿易投資にその重点が移ってきています。さらに、経済的に発展してきたいくつかの国では、より心の豊かさや文化が求められるようになっています。このような中、日本としては今後、文化面の交流も促進できれば良いと思っています。

私は日本の文化の価値は高いにもかかわらず、まだ十分に紹介されていないと感じています。日本の文化や日本に対する世界の国々における理解度も、まだ十分ではありません。他方で、日本の文化を見ていただく際には押し付けるのは駄目で、現地の人たちに自主的に「見てみたい」と思っていただくことが大切です。

フランスで行った「ジャポニスム2018」に約350万人が訪れたのは、現地の美術館や劇場の方々が一生懸命、広報してくれたからです。私たちが持っていったものに彼らが関心を持ち、「フランス国民に見てほしい」と思ってくれたのです。日本文化の紹介では、このような現地性を重視することも大事だと思います。

また、これはどの分野にも言えることですが、継続性が重要で、特に文化に関しては殊更に大切だと思います。「ジャポニスム2018」のような催しもたった1度で終わらせず、今後は他の国にも広げて継続していければ良いと思います。(談)

「自文化の一方的な伝達ではなく、双方向の理解を」。豊富な外交経験に裏打ちされた相互交流の必要性を語っていただいた。

「ジャポニスム2018」における「若冲――〈動植綵絵〉を中心に」 プティ・パレ美術館展示風景 2018年
写真: Pierre GROSBOIS

 

安藤 裕康(あんどう・ひろやす)
独立行政法人 国際交流基金 理事長

 

『人間会議2019年夏号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
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(発売日:6月5日)

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