2018年4月号「SDGs×イノベーション」完売!
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醤油発祥の地・湯浅町には、欧州ミシュランシェフたちから「世界一」と絶賛される醤油職人がいる。2018年11月、フランスで現地生産を開始し、高級ワインの風味が滲出した醤油で欧州の食文化に強烈なインパクトを与えようとしている。その歩みに迫る。
和歌山県湯浅町は「醤油発祥の地」として今でこそ有名だが、20世紀末には醤油屋の数が5軒を切るほど衰退していた。その状況を決定的に変えたのが1881年創業の調味料製造会社「丸新本家」5代目当主・新古敏朗氏(49)である。
湯浅醤油代表取締役の新古敏朗氏(左)。右はフランスの樽屋さん
新古氏は2002年、醤油作りの新たな可能性を追求すべく戦略子会社「湯浅醤油」を創業する。ポイントは2つ。1つ目は、今までになかった革命的な醤油を創出すること。2つ目は醤油作りのプロセスを間近で見学できるようにすることだ。
前者については、世界最古の料理書「斉民要術」(西暦580年編纂)に立ち返り、そこに記載されていた黒豆で作る醤(ひしお)の製法と湯浅伝統の醤油の製法(=古式製法)を融合させることで、2003年、斬新かつ非常に美味な醤油を創出することに成功する。「生一本黒豆」である。
醤油に含まれる旨味成分の量を表す全窒素分(%)は、日本の一般的な醤油が1.6であるのに対して「生一本黒豆」は2.4。原材料の面からも従来コスト的に不可能とされてきた「すべて国産」を実現した。「丹波の黒豆」、国産小麦、国産麹菌、長崎県五島灘の海水塩で、添加物は一切なし。仕込みに使う樽も他企業のようなステンレス製ではなく伝統の杉樽を用い、熟成期間も通常の「数カ月」ではなく実に1年半に及ぶ。
一方、後者の「見学」については、解説を聞きながら上記の製造過程を間近で見られる仕組みを作った。
「生一本黒豆」の評判は欧州にも広がり、ミシュランシェフたちがはるばる湯浅町を訪ね新古氏の醤油を買い付けるようになっていく。「フランス料理」に使うためである。
欧州でのニーズの高まりに対応してEU圏への「生一本黒豆」など醤油の輸出を開始した新古氏は、同時に、大阪や名古屋などのバス会社と折衝し、自社を観光バスの立ち寄り先のひとつにしてもらう。「世界一」と絶賛される醤油の製造現場を直に見られるということで「見学」は好評を博すようになったが、新古氏は危機感を抱く。
「日本は少子高齢化が進んでおり市場は縮小し続けている。これからは外国人観光客を積極的に呼び込まないと先がない」
日本において「地方創生」が本格化する前、新古氏は県内の企業・自治体に先駆けて、インバウンド促進を決意した。しかし…
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