2019年6月号

公民連携で地域活性

自治体と広告会社が地域商社を設立 地元の次世代が立ち上がる

吉田 広史(SANNOWA 代表取締役社長)

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青森県南部の里山のまち、三戸町で、地域商社SANNOWAが2019年1月に設立された。地元自治体と読売広告社が出資し、社長には地元の若手事業家が就任。優れた農産加工品の知名度を上げ、ブランドを確立し、首都圏で販売することを目指す。

吉田 広史(SANNOWA代表取締役社長)

青森県三戸町は、青森と岩手の県境に位置する内陸の町だ。リンゴやニンニクはもちろん、スモモやサクランボなど多くの種類の農作物を生産している。近年、人気が復活し需要が増えている紅玉は、三戸町が青森県を代表する産地。生食用・アップルパイなどの加工用に高級品を供給している。農業における少量多品種生産を実現し、低山の森林を手入れして暮らしてきた、里山のまちと言える。

農作物以外では、漫画家の馬場のぼる氏が創作した絵本「11ぴきのねこ」をシンボルとした観光客の誘致やグッズ販売を実施している。これは、馬場氏の故郷が三戸町だったことによるものだ。

三戸町は古くから地域の要衝だった。町の中心には三戸城がある

農産物・加工品の拡販を目指す

多様で個性的な農産物を、地域の外に届けるべく、三戸町と読売広告社が出資して地域商社SANNOWAを設立したのは2019年1月のこと。それに先立つ2018年には、数種類のリンゴジュースやドライフルーツ、ジャムやガマズミのコーディアルなどを、「三戸精品」のブランドで試験販売した。

地域商社を設立する前の段階で、地域資源を活用した商品開発に着手していたのが、SANNOWAの特長の1つだ。2017年3月から約1年をかけ、地域住民と読売広告社が協力して、首都圏と青森県内でテストマーケティングを実施。三戸精品ブランドの構築と、11種類の商品を開発した。三戸町内に20本残っている、樹齢100年を超える百年紅玉リンゴから作ったジュースや、マタギが栄養源として利用していたというガマズミから作ったコーディアルなど、それぞれが地域ならではのストーリーを持った商品群だ。

これらの商品を手掛ける地域商社であるSANNOWAは、三戸町51%、読売広告社49%の配分の出資で設立された第三セクター。読売広告社にとっては、地域を応援し元気にするプロジェクト「ひとまちみらい研究センター」の活動の一環となる。地方自治体と東京の広告会社が折半で地域商社を設立するケースは極めて珍しい。

SANNOWAのもう1つの特長は、地域の若者の力を活用していること。立ち上げの準備として、2016年度・2017年度に、地方創生推進交付金を活用した地域商社機能の構築・強化事業を実施した際、観光、商工業、農業から銀行や役場まで、多様な分野から若手20名を集めた委員会を編成した。三戸精品の企画は、同委員会による議論の結果、基盤が固まったものだ。

そして、SANNOWAの社長に就任した吉田広史氏も、同委員会で議論をけん引した1人だ。吉田氏は三戸町の出身ではない。15年前に、福島県から縁あって移住してきたIターン組だ。移住後は特産のニンニクの生産農家を農業法人化し、ネット通販なども立ち上げて1億円の年間売上を記録するまでに育てた。その後開業した、ニンニクをテーマにした飲食店は、三戸町で最も若者に人気の店になっている。地元で既に事業を2つ立ち上げ、軌道に乗せていることから、出資した両者からの後押しもあり、社長を務めることになった。

「地元出身ではないのでしがらみが少ない。また他者からの批判に慣れていて、批判されるとむしろわくわくする性格なので、適任と思われたのかもしません」と吉田氏は話す。

吉田氏は、様々なSANNOWAの事業計画を温めている。まずはさらなる商品の追加だ。直近では、三戸精品に、紅玉入りのクラフトビールをラインナップする。三戸町はホップの生産地でもあるため、ビールは地場産品利用のフラグシップとして重要な商品となる見込みだ。町内のホップ農家は2018年に廃業したが、三戸町は何らかの形でのホップ生産の再開を目指しており、農地と技術者は既に確保しているという。SANNOWAでは、廃業したホップ農家の備品を譲り受け将来のホップ再生に備えている。また、現在は720mLサイズしかないリンゴジュースについては、飲みきりサイズも商品に加えることを検討している。

「それでも、三戸町単独では限界がある。そこで、三戸郡の5町1村を巻き込んだ商品開発や、姉妹都市である静岡県牧之原市、オーストラリアのタムワース市との連携などもできないかと考えているところです」と吉田氏は語った。

地域の外に向けた事業だけでなく、地域の困りごとを解決する事業も視野に入れている。例えば、買い物に困る高齢者向けに、地元の野菜を届けるサービスなどだ。「地域のニッチな課題を探して解決したい」という。

里山の環境から生み出された三戸精品のラインナップ。ガマズミの商業栽培は国内では三戸町のみで実施されている

首都圏企業が出資する意味

SANNOWAの製品は、読売広告社のノウハウもあって、スタイリッシュなパッケージで統一されている。町の人が遠くへ行くときに、お土産に持っていきたくなるデザインだ。吉田氏は、ニンニクの農業法人で製品のEコマースを手掛けた際、良いデザインを考える難しさに直面した経験がある。「餅は餅屋で、このような支援は非常に助かります」と同氏は話す。

読売広告社は、これまでにも青森県内で複数の地域振興プロジェクトを実施してきた。例えば、ねぶた師の工房と共同で立ち上げたネブタ・スタイル有限責任事業組合では、ねぶた制作の技術を生かしたオブジェやインテリアなどを商品化し、職人の収入の安定化を目指すとともに、技術を次世代へ伝えようとしている。青森県と共同で立ち上げたブランド「津軽半島浜小屋仕込み」では、県内の海沿いのエリアで作られる各事業者の乾物や海藻加工品を、統一コンセプトのデザインにまとめることで、売り場の中で目立つみやげ物とした。

このような活動の経験やノウハウは、SANNOWAでも生かしていく。読売広告社ひとまちみらい研究センタープロデューサーの五十嵐勇氏は「地域への資本参加は、センターの活動が最終的に行き着く姿の1つと考えています。首都圏と地方の間の情報格差を埋め、三戸町の素晴らしい産品を首都圏に届けたい」と話した。

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