2019年5月号

スマートシティ 未来のまちづくり

北海道岩見沢市、スマート農業化で地域の未来をデザイン

松野 哲(岩見沢市長)

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下町ロケット~ヤタガラス編~で、無人のトラクターが農地を耕す様子は、農家だけでなく多くの人に衝撃を、そして希望を与えたに違いない。農業の未来と地域の未来を変えるICT活用の最先端地域、北海道岩見沢市の松野市長に聞いた。

松野 哲(岩見沢市長)

道内物流の結節点として発展

岩見沢市は札幌市から北東に約40kmに位置し、北海道内の主要国道や鉄道網を背景に、石炭や農産物の物流の結節点として発展してきた。現在は、行政面積の約42%を農地が占め、石狩川水系の豊かな水資源を生かした水稲、小麦、大豆、玉ねぎ、てんさい等の土地利用型農業により、国内有数の食料供給基地となっている。「2005年から2018年の13年間に、農家戸数は1580戸から約60%の928戸に減り、一戸当たりの耕作面積は約1.7倍の19haに拡大しています。この状況で耕地を維持しながら、農産物の品質や収益を保ち、市民生活の質の向上と地域経済の活性化を追求していくためには、ICT活用は欠かせないと考えています」と松野市長は言う。その言葉通り、世界最先端のスマート農業の実現を目指して様々な事業を展開する。

気象観測装置

土壌水分観測

2013年1月に109人の農業者が参加して「いわみざわ地域ICT(GNSS等)農業利活用研究会」が発足した。ICT活用に意欲的な農業者が多く、現在の参加者は187人に上るという。同年4月には市内3か所にGNSSRTKによる位置情報の補正局を設置し、従来10m前後のずれが生じていた位置情報を数cm差の精度に上げた高精度位置情報の提供と活用が始まった。同年10月には農業者やJA、岩見沢市、北海道大学などからなるICT活用による地域課題解決の産学官連携体制が構築された。また、市内13か所に気象観測装置を設置し、50mメッシュの気象情報や、水稲、小麦、玉ねぎ栽培に役立つ営農情報の提供が始まった。全国の自治体に先駆けて整備した光ファイバー網が、この取り組みを支えた。2015年にはロボットトラクターによる自動運転の、2018年にはデータセンシングによる圃場ごとの水温や地温、生育状況の把握などの実証実験が始まった。

農地を耕す無人トラクター。テレビドラマを通じて全国に放送され、「スマート農業」先進地域を社会に印象づけた

ロボットトラクターは、第一人者である北海道大学野口伸(のぼる)教授とともに、さまざまな研究を進めてきた。有人運転のハンドル操作を補助するオートステアリングから、無人農機の遠隔監視による圃場までの移動・完全自動作業まで、様々な段階の実証実験が行われている。オートステアリングによって作業時間は従来に比べ2割短縮し、完全無人作業によって7割も短縮することが実証されている。遠隔監視による無人作業が導入されれば、昼夜を問わず作業は可能になり、一層の時間短縮や効率化が実現できる。野口教授は、北海道のような大規模な圃場だけでなく中山間地など狭い圃場も多い全国の農地で実用化できるようにと、大型のトラクター1台ではなく、複数の中・小型トラクターの協調による作業を実現してきた。

「国内外からの注目度は高く、見学者が多数訪れています。下町ロケットの池井戸潤さんにも取材いただきました。農水省や総務省など、各省庁の担当者も訪れ、実証実験に参加している農家の現場の声を聞いて、実効的な施策を考えてくれるような好循環が生まれています」と松野市長は語る。

未来型農業への転換

こうしたICT活用によって目指すのは、単なる省力化ではなく未来型農業への転換だ。蓄積された気象のビッグデータや作業のデータとロボット農機による正確な作業を組み合わせることによって、ベテラン農家の勘と経験によってのみ実現可能だった高品質の農産物の生産や、圃場や気象の条件に合わせた適切な施肥や防除などの管理作業、適期を逃さない収穫など、農業の"匠の技"が経験の浅い農業者にも可能になり、「高位平準化」が実現できる。品質の高い農産物の生産や、注文に応じた供給などが実現できれば、収益力を上げることもできる。女性や、農家の子弟以外の人材による新規就農のハードルも下がるだろう。

作業に追われていた農家は、市場や顧客と向き合い、より高度な経営課題に注力できるようになる。農薬や肥料の適正散布によって環境負荷の小さい農地利用や、少人数で大規模経営が可能になるため、人口減少や少子高齢化の中でも持続可能・成長可能な産業として地域経済を支え続けていくのだ。

そして、この技術は農業だけでなく岩見沢の暮らしの大問題である除排雪にも大いに役立つ。豪雪地帯の岩見沢には、冬期間に除雪を行わない道路(未除雪路線)が総延長135kmもあり、冬の間は真っ白の大地が広がっている。春になって除雪する際にはポールを目印に熟練のオペレータが慎重に進めるが、危険と隣合せだという。

「道路データと位置情報を活用した除雪作業が実用化されれば、目印がなくとも正確かつ安全に除雪ができ、冬の市民生活は格段に向上するはずです。さらに、農業のための基盤整備を、洪水対策や災害予防につなげる取り組みも行っています」。産業振興のみならず、暮らしの安全・安心が高まることは市民にとってもありがたい副産物であるに違いない。

「岩見沢のICT活用は、健康増進や教育、子育て支援、高齢者福祉など市民生活のあらゆる分野に広がります。人口増が厳しい状況において、地方の暮らしの質を保つカギだと確信しています。時期尚早と言われるかもしれませんが、スマートシティ構想も視野に入れています。まちづくりはハードだけではうまくいかないし、ソフトだけでは成果が上がらない。ICTを多面的に活用していく必要があると考えています。そういう意味で、通信インフラは地方創生に欠かせない重要なインフラであり、これがあったからこそ岩見沢の現在と未来があるといえるでしょう」と力強く松野市長は語った。

 

松野 哲(まつの・さとる)
岩見沢市長
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