海の魚を内陸で養殖できる「新しい水」 「農漁者」が日本を救う

海水魚が海水よりも早く育つという驚きの効果を持つ「好適環境水」。この新しい水は、場所を問わず魚の養殖を可能にするだけでなく、資源の枯渇・過疎・労働人口の減少など、様々な問題解決に貢献する。

山本 俊政(岡山理科大学 工学部バイオ・応用化学科 准教授)

海水魚は海水でしか育てられない。そんな誰もが疑いもしなかった「常識」を覆したのが、岡山理科大学の山本俊政准教授が開発した「好適環境水」だ。ナトリウム・カリウム・カルシウムという魚の代謝に必要な3種類の電解質を真水に加えたもので、しかもその濃度は海水と比べて非常に低い。

この好適環境水は単に海水魚を育てるだけでなく、海水よりも早く成長させるという驚くべき効果を備えている。しかも味が良く、真水と施設稼働用のエネルギーを確保できれば、場所を問わず養殖が可能になる。さらに病気の発生率が極めて低いため、薬の投与が必要なく、海水や人工海水よりもコストが圧倒的に低い。まさに良いこと尽くめの「夢の水」だが、その誕生には様々な問題と偶然が関わっていた。

成功するはずのない実験の賜物

山本氏は大手金属メーカーでレアメタルの研究に従事した後、観賞魚関連の会社を設立。当時は困難だったサンゴやクラゲの飼育にも挑戦し、その独自技術が評価され、全国各地の水族館から仕事を受注していた。

そんなある日、お世話になっていた水族館の館長から、岡山理科大学の専門学校の非常勤講師の職を紹介された。しかし山本氏は全く興味がなく、断る口実として、「もし常勤だったら行ってもいいよ」と軽く返答。すると、「常勤で来てくれないか」という思いも寄らぬ返事が届いた。「冗談だったのに、引き下がれなくなって。ここが1つ目の分岐点ですね」と振り返る。

こうして岡山理科大学の専門学校で教鞭を執るようになった山本氏は、乱獲でその数を減らしていたカクレクマノミの大量繁殖に成功する。しかし、その学校は海から30km以上離れている。海水魚を養殖するうえで、海水の不足は大きな問題だった。当時は週2回、自らハイエースで1tの水を運んでいたという。

そんな状況を打破するきっかけは、ある学生の実験だった。彼の希望は、淡水魚のエサに使う大型の海産プランクトンを淡水で育てること。山本氏は、万が一にも成功しないと思いつつ、失敗も彼の経験だと実験を許可した。

しかし、想像もしない結果が待っていた。その学生が「たくさんプランクトンができた」とやってきたのだ。驚いて確認すると、確かに繁殖していたため再実験を命じたが、今度は全くできない。よく話を聞いてみると、培養容器を実験前に十分に洗っていなかったため少量の海水が残っていたことがわかった。

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