2019年1月号

人間会議

オンラインビジネスと地域活性化

岡本 隆(愛媛大学 社会共創学部 教授)

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地方の中小企業が抱える課題

海外経済の回復を背景に、近年の日本経済は緩やかな回復基調にあるといわれている。内閣府の年次経済財政報告によると、四半期の実質GDP成長率は、2016年1-3月期から2017年7-9月期まで7四半期連続のプラス成長となっている。中小企業についても、その景況は緩やかに回復していると報告されている。

回復基調にあるとはいえ、中小企業は多様な経営課題を抱えている。日本政策金融公庫の報告によると、中小企業が抱える当面の経営上の課題は、「求人難」が33・5%と最も多く、次いで、「売上・受注の停滞、減少」の26・0%となっている。近年の深刻な人手不足を背景に2017年に「求人難」が逆転したものの、20年以上の間「売上・受注の停滞、減少」が最大の経営課題であった。地方にでも同様で、例えば松山商工会議所の2016年の報告によると、「販売、取引先の拡大」が経営課題の1位として最も多く挙げられていた。

このように中小企業、特に地方の中小企業にとっては、売上の拡大あるいは販路の拡大が現在に到るまで長期の経営課題となっていることがわかる。人口の減少だけでなく、都市部への人口集中の傾向もあり、地方の市場は縮小の傾向が見られる。地方の中小企業にとって販路拡大への対策は急務といえる。

図1 近年の中小企業の経営課題

出所:日本政策金融公庫「全国中小企業動向調査結果」2018年10月

 

 

eコマースの現状と特徴

地方の中小企業の販路拡大策にはいくつかの選択肢が考えられるが、ここではインターネットなどのネットワークを介した電子商取引であるeコマースに焦点を当てることにする。eコマースはネット環境の整備やスマートフォンやPCなどの普及を背景に、近年急速に普及している。企業間のeコマースであるBtoB-ECの市場規模は、2017年で317兆2110億円(前年比9・0%増)、企業消費者間のBtoC-ECの市場規模は、16兆5054億円(前年比9・1%増)と、市場が急拡大している。

eコマースには地方の中小企業の販路拡大にとってメリットとなる特徴がある。まず商圏が日本全体あるいは世界に広がることが挙げられる。企業間であれ企業消費者間であれ、リアルな世界での取引は立地に依存し、地理的な一定範囲が商圏となることが多い。地方は潜在的な取引先や顧客が多くいる都市部までの地理的な距離が販路拡大の障壁となることが多い。しかしeコマースは、技術的には地理的制約を超えて世界を商圏にすることが可能であり、さらには年中休みなく稼働することも可能であるため、地方ゆえの不利な条件(以下、不利性)を緩和する可能性がある。

次に、販路を開拓する際の投資が比較的小さいことが挙げられる。eコマースはネット上でマッチングが行われることが基本なので、情報発信や情報取得、取引に至るまでの費用を小さくできる可能性がある。さらに、多くのオンラインモールが存在するBtoC-ECはもちろんだが、BtoB-ECであってもオンラインモールやマッチング・システムが利用可能である。もちろんネット環境があれば立地には左右されない。これらの点も地方の中小企業にとっては利点となる。

このようにeコマースには、地方の市場規模の小ささと将来の市場規模縮小の予想のもとで、その地方の不利性を打破する可能性がある。eコマースの普及に伴い地方におけるeコマースへの期待が高まっており、地方の活性化のツールとして期待する企業あるいは自治体も多い。

しかし他方で、eコマースには地方の中小企業にとって不利な点も存在する。まず、地理的な制約が緩和され商圏が拡大することの裏返しだが、同じあるいは類似の商材やサービスを扱う世界の企業が競合となる厳しい競争環境にさらされることが挙げられる。「顧客は世界」だが、「競合も世界」というわけである。

また、商材が物材である場合、物流費用における地理的不利性が存在する。eコマースは、マッチングや発注・決済の段階までは地方の中小企業であっても同じ競争環境に立つことができる。しかし人口比からすると潜在的な取引先や顧客は都市部に所在することが多く、地方の中小企業は物流の不利性を負うことになる。

さらには、eコマースについての情報を手に入れたりノウハウを共有したりする仕組み、あるいはeコマースを想起する環境が地方には少ないことも挙げられる。そもそも、eコマースに対するノウハウが蓄積されていない場合が多いと考えられるが、日常の事業活動を通じて自ずと知見が備わっていく過程が総じて希薄であるといえる。このようにeコマースであっても地方の不利性を完全に解消することはできない。

図2 松山商工会議所会員事業所が挙げる経営課題

出所:松山商工会議所「会員ニーズ調査」2016年

越境ECの可能性

地方に立地する中小企業にとって、販路拡大先を国内だけに限定する必然性はない。人口減少社会が確実視される今後の国内市場を考えると、商圏を世界に広げることは早晩考えざるを得ない。その際、地方の中小企業にとって、eコマースを活用して世界に商圏を広げる「越境EC」は有力な選択肢の1つになり得る。ここではBtoC-ECに焦点を当て、地方における越境ECの可能性を考える。

まず世界のBtoC-ECの市場規模は2017年で2兆3000億米ドル、対前年比成長率は24・8%であり、2021年まで対前年比2桁の成長が見込まれている。国別のBtoC-ECの市場規模上位10市場では、日本を除く9市場において対前年比2桁の成長をしている。特に中国はBtoC-ECの市場規模が1兆2253億米ドル、対前年比35・1%と、市場規模と成長率で他を圧倒している。

このなかで世界の越境ECの市場規模は5300億米ドルであり、対前年比成長率は32・5%、2020年まで対前年比20%台の成長率が見込まれている。BtoC-ECでの中国への輸出は1兆2978億円と非常に多い。このように世界のBtoC-ECおよび越境ECの市場規模は巨大で高い成長が見込まれており、地方の中小企業が越境ECへの取り組むことは検討に値すると考えられる。

日本の商品の品質は海外で高い評価を得ていると言われている。特に越境ECの取引規模の大きい中国では、日本の商品は品質・安全性ともに高く、関心が高いと言われている。地方には品質が高く他にない特徴的な商材が多く存在することから、中国をはじめとした海外への販路拡大は地方にとって大きな機会をもたらす。もちろん決済などの商慣習の違い、言語など取り組む際の課題は多いが、越境ECは地方の活性化の道具として期待できる。

越境ECは情報通信技術(ICT)の技術的側面に注目しがちであるが、本質的には商取引なので「良い商材」であることが最も重要な要件である。隠れた質の高い地方の商材が越境ECを通じて世界に認識されれば販路拡大につながる可能性があり、ひいては地方の経済的な活性化に貢献することになる。

図3 世界のBtoC-ECの市場規模の推移

出所:経済産業省「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」2018年

地方の挑戦

ここまで地方における販路拡大という経営課題の解決策としてeコマース、特に越境ECの可能性について述べてきた。だが、地方の中小企業がこれらに取り組む際の大きな障壁の1つは、情報の少なさではないだろうか。インターネットで多くの情報が手に入る時代に逆説的であるが、地方では身近で実感のある成功事例が少なく、加えてノウハウや課題解決の細かな情報を共有する機会が少なくなりがちである。

地方はリアルな世界での情報入手コストが都市部よりも高いことが多い。例えば、松山商工会議所の会員ニーズ調査では、経営課題に対する必要な支援として「情報交換ができる場の提供」「講演会やセミナーによる情報提供」が比較的多かったが、リアルな世界での情報交換の場の整備は、地方の挑戦を促し、地方全体の底上げに必要な支援だと考えられる。eコマースに関する地方の成功例として挙げられるところには、そのような場が活用されていることが、支援の必要性を示しているだろう。

繰り返しとなるが、eコマースや越境ECは、つまるところ「商取引」である。ICTはその商取引の効率化を図っているにすぎない。隠れた良い商材が存在する地方こそ、この道具を活用し、地方の経済的な活性化につなげていくことができると考える。

 

岡本 隆(おかもと・たかし)
愛媛大学 社会共創学部 教授

 

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