東京の「玄関」として美味しいひと時を届ける

1922年に「誰もが利用できる」ことを目指し、皇居を望む丸の内に民間初の社交場として開場した東京會舘。世界的にも珍しいレストラン・バンケット・ウエディングを有し、隣接する文化の殿堂・帝国劇場と並び「社交の殿堂」と称されてきた。高い技術を有する料理人による伝統の味はそのままに、新しいサービスにも乗り出すなど、幅広い層の人びとへむけて利用者層の拡大を目指している。

明治150年、そして新たな時代の節目に何を構想するのか。

渡辺 訓章(東京會舘 代表取締役社長)

 

 

「新しくて伝統的」を追求
NEWCLASSICS.

――新本舘のリニューアルオープンを控え、「NEWCLASSICS.」をコンセプトに打ち出しています。

東京會舘は、1922年(大正11年)に「世界に誇る施設ながら、誰でも利用できる、大勢の人びとが集う社交の殿堂」として開業しました。開場の翌年には関東大震災による営業中断という困難もありましたが、以後、多くの方のおもてなしの場となり、喜びの種となることを願って営業を続けてきました。

その中で、何処のホテルもやっていないクッキングスクールを作り、イル・ド・フランスといった独自のレストランを開業し、優秀なシェフを3カ月にわたって招請したりと、挑戦の歴史でありました。

ただ、歴史を想像しますに、東京會舘を開場すること自体が大きな挑戦であったと推察します。折しも大正デモクラシーが興り変化への胎動が感じられる中、時代の要請もあったとはいえ、民間の財力のみで社交場の施設を作ること自体が、大きな挑戦であったでしょう。

創業者の一人であり、東京商業会議所初代会頭を務められた藤山雷太氏は、設立趣意で「東京會舘は、新しい文化理念を実現するための事業」だ、という言葉を遺しておられます。来年に開場する新本舘では、正にこれまでとは違う「文化理念」を体現し、新しい色を出そうと、外観や内装だけでなく、料理や演出面でも様々な挑戦を加えています。

開場する新本舘をご覧になると、これまでとは大きく異なる変化に驚かれる方もいらっしゃるでしょう。しかし創業者の「新しい文化の創造」という想いの体現を受け継ぎつつ、それ以外では時代とブームに応じて変化していく部分もあってよい、と感じています。これこそが「NEWCLASSICS.」に込めた真意です。

――新本館の開場に先立ち、4年半という長い歳月を掛けました。

社員一同で、最も時間を掛けて話し合ってきたのは、「どうやって伝統を次世代に残すか」という部分でした。そこで、先にお話しした「何のために東京會舘ができたのか」という創業の理念、原点に立ち返ることになったわけです。

また、長年の歴史が積み重なるにしたがって「『東京會舘』という看板があれば、それほどチャレンジ精神を持たなくても営業が順調にいっている」という錯覚が組織の中に生じていました。これまでは内部のみで行う人材登用・育成を貫いてきましたが、このまま惰性で進んでしまっては将来がないという、ある種の手詰まり感も見えていました。そこで、シェフや幹部候補役員を新しく外部から招き入れたりすることで、組織内に化学反応を起こし「爆発力」を生みたいと考えました。

――数々の改革がもたらす期待とは何でしょうか。

敢えて申し上げれば「お客様が喜ぶものを進んでご提供する」というスタンスです。例えばブライダル事業は、スタッフが歴史を背負いながら内部ルールに沿って執り行ってきましたが、いまは外部事業者と業務提携を行うことを始めました。自分たちの殻の中に閉じ籠もっていては発展性がない。他の会社が持っている素晴らしいところを採り入れていくほうが良い、という考えを行動に移したのです。そうすることで、今まで経験したことのない他社のノウハウが活用できます。

この取り組みが功を奏してか、結婚式の申込件数が飛躍的に伸びています。他の事業でも、他社との協同で新しい手法を取り入れて、組織に活性化をもたらしたいと思います。

ファサード(写真はイメージ)

伝統の味は特別なおもてなし
料理人は宝であり、経営資源

――一流の料理人が腕を振るうフランス料理は、味に定評があります。

当社は宿泊業と異なり、一つのカテゴリーに収まりきらない業態を有しています。結婚式・大型バンケット・国際会議における国賓公賓の接客のような会合の形態のみならず、レストラン・パンの製造販売・洋菓子づくりなど、提供する食材も多彩です。東京・丸の内という、全国から人びとが集まり交わる要衝、そして極めて地価の高い土地で、飲食業を営んでいるわけですから、それに相応しい価値を提供する必要がある、と自負しています。

お客様の目的は様々です。「もっと見晴らしの良い場所がほかにある」「もっと賑やかな場所がほかにある」といったお声もあるでしょう。それでも東京會舘にお越しになる方々には「料理が美味しいから」だと言っていただきたいのです。

とは言え、料理(食)は難しいものです。嗜好は人によってそれぞれ違いますので、得てして一般的に作れる料理というのは最大公約数的な味、場合によっては「ありきたりのもの」になってしまいがちです。

当社では、これまで培った伝統の質を高め「東京會舘フランス料理」というカテゴリーを打ち出していきたいと考えています。そもそも、料理人は準備に決して手を抜かず、プライドがあるので決して妥協しません。一見すると絵にならないようでも、「食べると美味しい」と言うのが伝統料理の結果的な特質でもあります。日々、鋭意工夫を重ねていますと、味が他のどこにも真似が出来ませんので、食べると「一目瞭然」と言っていただけます。

結婚式のお申し込みに際しても、クラシカルなコースと、カジュアルで現代風のコースをご案内しますと、大多数のお客様は前者をお選びになります。日々の暮らしにおいてはカジュアルな嗜好をお持ちの方も、多くのお客様をお招きしおもてなしする公の場では、伝統的な様式と味わいを持つ料理が選ばれるのだと思います。

当社に限らず、創業以来100年に及ぶ老舗の飲食企業は日本全国に数多く存在しますが、どこも料理が命であり、料理人は大切な経営資源です。会社としては、その力を充分に引き出してもらう環境を整備し、新本舘開場後の事業を成功させたいと考えています。

RESTAURANT PRUNIERで供される「スペシャリテ」

日本の顔・東京の顔として

――創業当初から拠点を置く東京の特性・魅力をどのように捉え、活かそうと考えていますか。

私の入社当時、東京・丸の内は、主要銀行が軒を連ねる街で、平日でも15時を過ぎると一斉にシャッターが閉まり、土日ともなれば人がほとんど出歩いていないものでした。その後、同地のデベロッパーである三菱地所が「まちづくりを変える」という取り組みに踏み切り、現在のように、ショッピングモールが華やかに立ち並び、週末や休日も国内外問わず多くの方が観光やお買い物に訪れるような街になっています。

また、全国からの交通網が交わる大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有)は、日本の顔であり玄関口です。都心型の国際会議・中小規模の国際会議(MICE)開催のニーズにしっかりお応えできる体制づくりをしたいと、2002年に大丸有マネジメント協会・通称「リガーレ(Ligare)」が発足しました。リガーレでは、隣接の東京パレスホテルや日比谷の帝国ホテルと連携し、東京駅周辺を中心とした地域の活性化や環境改善、コミュニティの形成に関する事業を行っています。東京は人口の集中が今なお著しいですので、当社の事業にもまだ伸びる余地はあると考え、連携を進めています。

――2019年以降の事業展開方針をお聞かせください。

全店舗がオープンするのは2019年1月8日となりますが、既に企業様の周年行事など、年内の12月から予約は戴いております。その合間を縫って内覧会も何回かに分けて予定しています。同じ業界の方同士で集まっていただいてパーティ形式を想定しています。

また、古来のしきたりに倣いまして「こけら落とし」も開催できればと思っています。今回は人間国宝で能楽師の梅若実氏、狂言師の野村萬斎氏に演じていただく神事能も執り行う予定です。

折しも、2019年5月には現天皇が退位され、新天皇が即位されて元号も改まるという、おめでたい節目でもあります。2019年にはラグビーW杯、2020年には2度目の東京夏季五輪の開催が控えます。新たな時代の節目に、再び皆さまをお迎えできるよう、社員一丸となって精励したいと思います。

新本舘の開場を控え、伝統の味を活かしつつ、新たな挑戦に臨む意欲を語っていただいた。

 

渡辺 訓章(わたなべ・のりあき)
東京會舘 代表取締役社長

 

『人間会議2018年冬号』

『人間会議』は「哲学を生活に活かし、人間力を磨く」を理念とし、社会の課題に対して幅広く問題意識を持つ人々と共に未来を考える雑誌です。
特集1 事業承継で地元企業が甦る
特集2 地域の経営資源を探してみたら

(発売日:12月5日)

» この号を買う(Amazon)