2019年1月号

地域特集 鹿児島県

三反園訓・鹿児島県知事が語る 地の利を活かす2つの海外戦略

三反園 訓(鹿児島県知事)

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豊かな自然と温暖な気候を生かした農林水産業の輸出が好調な鹿児島県。観光面でも、「西郷どん」効果も後押しした国内観光だけでなく、世界自然遺産と世界文化遺産を始めとした強力なコンテンツを武器にインバウンドの誘客に注力するなど、地域活性化に向けた攻めの海外戦略を展開している。

三反園 訓(鹿児島県知事)

「攻めの農村水産業」に向けた
戦略的な取組

――農林水産物の輸出が好調と伺っています。どのような戦略をお持ちなのでしょうか?

鹿児島県には、恵まれた気候と広大な畑地などを活かして生産される素晴らしい農林水産物が数多くあります。県産農林水産物の輸出額は、2016年度が対前年度比20%増の約155億円、2017年度が対前年度比30%増の約201億円となっており、着実に増加してきています。

図 鹿児島県産農林水産物輸出額の推移

出典:鹿児島県

 

国内の食市場等が減少していく中、国際経済連携等によるグローバル市場の出現を新たなビジネスチャンスとして捉え、2018年3月には、当県初となる「鹿児島県農林水産物輸出促進ビジョン」を策定しました。

ビジョンは、おおむね10年後を見据え、多くの農林漁業者が輸出に取り組み、所得の向上と後継者の確保という好循環が生まれることを目指しており、2025年度の輸出額を2016年度の2倍となる約300億円まで拡大することを目標としています。ビジョンの実現に向けて、輸出重点品目、輸出重点国・地域を明確にした上で、「つくる」、「あつめる・はこぶ」、「うる」の3つの視点からロードマップを示し、戦略的な取組を展開していきます。

まず、一つめの柱である「つくる」では、輸出相手国・地域の動植物検疫等に対応した生産・加工技術の確立と普及や国際的な制度の認証取得の促進を図っています。その前提に海外マーケティングがあります。輸出相手国のマーケットと鹿児島県の農林水産物をマッチングさせることで、国内では考えられなかった幅広い購買層が期待できます。例えば、欧米において緑茶、特に抹茶の需要が拡大しています。そこで、全国第2位のかごしま茶の生産力、全国トップクラスの有機栽培への取組等を背景に、抹茶の原料である「てん茶」の生産を拡大しています。

また、養殖ブリ・カンパチはアメリカ本土への輸出を重点的に行っています。アメリカでは、魚が何を食べているかということが重要視されるため、養殖が好まれる傾向がありますが、そのニーズを掴んでトレーサビリティがしっかりと取れる養殖ブリ・カンパチを積極的に売り込んでいます。そして、世界的な流通に通用するASCなどの認証取得促進のために、セミナーや講習会を実施しています。2017年12月には、県内の水産業者2者が養殖ブリでASC養殖場国際認証を取得しました。

二つ目の柱は「あつめる・はこぶ」です。鹿児島県には5港の重要港湾と126港の地方港湾があり、日本一の港湾数を持つ地理的優位性を生かした低コストな船便を活用、さらに混載便にすることで輸送コストの低減を図っています。現在、林産物における重要品目の丸太は、高規格幹線道路の整備が進み、港湾機能が充実している志布志港から中国等に向けて輸出を拡大しています。

最後の柱である「うる」では、海外での商談会やフェア等に積極的に参加するとともに、「鹿児島の壺造り黒酢」、「桜島小みかん」、「辺塚だいだい」、「鹿児島黒牛」に続く地場産品の地理的表示(GI)保護制度への登録推進や鹿児島県産農林水産物の海外での認知度を向上させるための輸出用統一ロゴマークを作成するなどの取り組みを進めています。

現在、輸出品目の主力は牛肉です。「鹿児島黒牛」が2017年の第11回全国和牛能力共進会で「和牛日本一」に輝いたことが追い風となり、日本にとって牛肉の最大の輸出相手国である香港への輸出の8割が鹿児島県からの輸出になるなど、名実共に日本一のブランドとなっています。他の品目も同じ勢いでビジョン実現に向けて、官と民が連携してオール鹿児島で取り組んでいます。

――農林水産業の課題とそれに対する取り組みについて教えてください。

現在、鹿児島県の農業産出額は約4,700億円で、全国第3位です。少子高齢化が進む中、鹿児島県の基幹産業である農林水産業を持続的に発展させていくためには、労働力を安定的に確保する必要があります。そこで、2018年4月に鹿児島県農業労働力支援センターを設置しました。センターでは、求人・求職の情報収集、マッチングや農作業委託、省力化機械の紹介などを通じて、農業分野の労働力に関する課題を包括的にサポートしています。

さらに、鹿児島県では現在、AIやIoTを活用したスマート農業を推進し、稼げる農業を目指しています。例えばドローンを活用した生育診断や防除、無人の茶摘採機、哺育ロボットを活用した子牛の個体管理など、これまで人力によって時間がかかっていた農作業が機械によって自動化されてきています。今年度はスマート農業の普及に向けて機械メーカーと連携して、技術開発を進めるなど、大幅な省力化や、少人数でも効率的に農林水産物の生産ができるようにどんどん工夫しながら取り組んでいきたいと考えています。

鹿児島県は畜産が注目されがちですが、水産物だけ見ても海面養殖業の生産額は全国で2位を誇ります。県では「かごしまのさかな」ブランド認定制度を設け、県内の優良な養殖ブリ・カンパチをブランド認定しています。他にもさつまいも、そら豆の生産も日本一です。また、ブロッコリー、キャベツ、スイカ、スナップえんどう、オクラなども品質が高いことで全国的に知られ、都心部では高値で取り引きされています。安心安全な食への関心が国内はもとより、中国、東南アジアの高所得層を中心に高まっていることもあり、高付加価値のブランド作りが鍵になります。そして、生産者の所得があがり、人材育成、後継者育成につながる好循環に持っていくのが最終的な目標です。農業の働きやすい環境を整備することで、稼げる農業に転身させる。実際に、農業の形態は変わってきており、年間所得1,000万円プレーヤーが出始めているだけでなく、3,000万円プレーヤーもいます。鹿児島の産業を牽引することになります。年末にはいよいよTPP11が発効されますが、準備は着々と進んでいます。今後は農林水産業が大きな魅力になるような鹿児島県を目指しています。

観光のポテンシャルは日本一

――2018年は「明治維新150周年」や大河ドラマ「西郷どん」など、鹿児島県の観光が注目を集める年となりました。手応えはいかがでしょうか?

2017年、鹿児島県には過去最高の約800万人の方々に宿泊していただきました。2018年は「西郷どん」効果もあり、それを上回る勢いです。特にオープニングに登場する「雄川の滝」や西郷どんゆかりの地には多くの観光客の方にお越しいただいています。旧薩摩藩だった鹿児島県には、島津斉彬、西郷隆盛、大久保利通、そして薩摩藩英国留学生など、歴史に残る英傑の足跡をたどるだけでも観光スポットは枚挙に暇がありません。特に西郷隆盛は明治六年の政変後、温泉や狩りを楽しむために県下各地を訪れているため、西郷どんゆかりの地も多く存在し、地域の方々が盛り上げてくださっています。

鹿児島県は、世界遺産である「屋久島」や世界有数の活火山である「桜島」などの自然、そして世界文化遺産である「明治日本の産業革命遺産」などの歴史・文化を有しており、観光面でのポテンシャルは日本屈指

――2019年以降の観光産業を発展させるために、どのような点に注力されていきますか?

鹿児島県は観光面においても本当にポテンシャルの塊です。世界自然遺産(屋久島)と世界文化遺産(明治日本の産業革命遺産)をあわせ持つ県であることからもわかりますが、鹿児島県は世界に誇れる自然と歴史・文化があります。霧島など全国に知られる11の活火山がありますが、何といっても鹿児島市街地の目の前に広がる錦江湾に迫る桜島は圧巻です。60万人が暮らす都市の中に活火山がある光景は世界でここだけで、インバウンドの第一目的地にもなっています。

そして、観光面で重要なファクターである食文化、温泉が豊かです。温泉の源泉数は全国で2位、県庁所在地では鹿児島市が日本一です。種類も多岐にわたり霧島温泉郷の露天風呂、指宿の砂むし温泉、たまて箱温泉は絶景露天風呂として世界最大の旅行口コミサイトで4年連続日本一に選ばれています。海をこえれば世界自然遺産「屋久島」をはじめ、世界自然遺産への登録を目指している奄美大島、徳之島など大きな魅力を持った島嶼群があります。与論島の白い砂浜「百合ヶ浜」も実に神秘的です。

2017年は74万人の外国人観光客に宿泊をいただいています。ホテルなど各施設のインバウンド対応をサポートするために多言語コールセンターを設置しました。現在15言語に対応しています。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックに続き、第75回国民体育大会「燃ゆる感動かごしま国体・かごしま大会」が開かれるので準備中です。農家民泊などの体験型ツーリズムも各市町村と連携しながら県全体で力を入れており、農業と連動することで基幹産業である観光産業の発展に良い結果を生んでいます。

このように、鹿児島の観光は世界に誇れるロケーションがあるのですが、それを見せる環境ができているかというと、まだまだ余地があります。観光はインバウンドも含めて感動して帰っていただけるかどうか、つまり、リピーターができるかどうかで勝負が決まります。「来て、見て、感動して」帰ってもらう。訪れた人々に感動を与えるスポットを作り、攻めのまちづくりを進めています。

――鹿児島の底力を感じるような取り組みを打ち出されていますが、今後の展望を、思いとあわせてお聞かせください。

2018年は明治維新150周年の節目ですが、今日の日本が置かれている状況は、当時と共通するものがあると思います。幕末から明治にかけて、西欧列強が押し寄せる中、薩摩の先人たちは「志」と「勇気」と「自信」をもって前へ進みました。世界の情勢の先を読んで戦略的に行動するのは今も昔も変わりません。鹿児島は先人に習い、3つのDNAを引き継いで、農林水産業と観光業のふたつの基幹産業を柱に、世界に打ち出していこうと思います。

 

三反園 訓(みたぞの・さとし)
鹿児島県知事
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