伊勢神宮門前の老舗食堂 来客予測AI導入で利益率は10倍に

小田島 春樹(ゑびや 代表取締役)

私は2012年に、伊勢神宮のおひざ元で妻の実家が営む老舗料理店「ゑびや」に入社しました。当時の店舗はよくある古い食堂で、知名度もほとんどありませんでした。そんな「ゑびや」は今、テレビや雑誌の取材が月に約10件入るほど、多くのメディアに取り上げていただけています。

当社では、広告はほとんど打たない代わりにPRを重視してきました。PRのメリットとしては、①わざわざ伊勢に来てもらうきっかけをつくる、②サービスを知ってもらう、③優秀な人材を確保する、の3つがあると考えています。

私が入社した2012年は伊勢神宮の式年遷宮の前年でした。この一大イベントを追い風にしようと考えた私は、テレビ局とのリレーションをつくり、できる限り取材は断らないようにしました。店舗内を2つのエリアに分けてお客さまを入れながらロケができるようにしたり、メディア用の駐車スペースや機材の搬入口を設けたりしました。こうして少しずつ認知度を高めていったのが初期のころのPRです。

PRの力で全国区の企業に

その「改革」がメディアから注目していただけるきっかけとなったのですが、振り返ってみると抱えている課題や取り組みが世の中の時流に乗っていたんですね。キーワードで言うと、「地方創生」「生産性向上」「AI」です。

私は東京で働いていたのですが、ここに来て地方の観光地の厳しい現状に驚きました。伊勢市の場合、人口は約12万人と少ないうえに、少子高齢化が進んで労働者人口も減少し続けている。そんな状況を知り、「改革するしかない」と感じたのです。

そこで、業務効率を高めるためAIや機械学習を活用した店舗運営を試みることにしました。マイクロソフトと協業し、開発したのが来客予測の機械学習です。観光地の特性を活かして、様々な条件から翌日の来客数と注文数を予測するシステムで、 自社オリジナルのカスタマイズ版の精度は9割以上となっています。提供時間の短縮や無駄な仕入れの回避につながったほか、捻出した時間を商品開発や施策の検討、新業種の開発に充てたことで、売上が5倍、利益率は10倍になりました。

従業員も別の仕事に時間を割けるようになり、役割が増えたとはいえ定時に退社できる範囲なので、まさに「働き方改革」です。実際にその文脈で多くのメディアに取り上げていただきました。

少しずつ客足も企業視察も増え、PRの効果が出始めています。来店客数の予想と当日の来店客数に大幅な差があった場合、その差はPRの効果として認識しています。

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