学び直しの場で身についた コミュニケーションを俯瞰で捉える視点

活躍する広報パーソンは、どのようにして、その専門性に磨きをかけているのか。広報人材を育成する、社会構想大学院大学・コミュニケーションデザイン研究科(旧広報・情報研究科)の修了生と橋本専任講師が大学院での学びを振り返った。

(左から)社会構想大学院大学 橋本純次専任講師、修了生・金子恵美氏

「学び直し」を選んだ理由

橋本 まずは社会構想大学院大学に入学した動機を聞かせてください。金子さんは新聞社にお勤めで、2019年から2年間本学で学ばれましたが、当時感じていた実務上の課題や、困っていたことはありましたか?

金子 入学した当時は広報部門に10年弱ほど在席していて、徐々に責任ある仕事を任されるようになってきた頃で、新聞社のようなマスメディア企業も徐々にブランド戦略を意識しなければならなくなった時期でもありました。体系的に広報を学びたい、他の業種・業態の企業の広報活動がどのように行われているのかを知りたい。そんなことを思っていた時に、たまたま大学院のことを上司から紹介され、入学を決意しました。経営学や社会学の基礎的な知識から広報の具体的な能力まで学べるカリキュラムを見て、ビジネス系セミナーでは得られない学びが得られると考えたためです。

図1 コミュニケーションデザイン研究科での「学び直し」で身につくこと

 

学びと業務の両立

橋本 実務が多忙な中で2年間の大学院生活を送られたわけですが、多くの方が両立できるか心配されます。コツのようなものはありますか?

金子 私の場合は業務を自分ひとりで抱えないように、なるべく周りの方に関わってもらうというのは気をつけていました。広報はステークホルダーとの関係性など属人的になってしまいがちなところもあるので、そこは意識的にほかの方を巻き込み、協力してもらいました。結果的に働き方も改善されたと思います。

橋本 周囲の方は金子さんが学び直すことにどのような期待をされていましたか?

金子 上司は「しっかり学んで業務に還元してほしい」と考えていたと思います。一方で後輩の若手社員は学び直しへの意欲が高く、大学院がどんなところかしばしば尋ねられました。授業で学んだことや紹介された本などを共有することで、自分の復習にもなりましたし、部署内のコミュニケーションもより活性化したと思います。

実務に活きる授業と研究

橋本 印象に残っている授業や実務で特に役立った授業はありますか?

金子 メディアの受け手を調査するための視点や技術を学ぶ「オーディエンス・リサーチ」は今でも役に立っています。あとは「社会意識論」で学んだ「社会構成主義」の考え方は、それが業務に直結するわけではないにせよ、コミュニケーションを担う部門として身につけておくべき知見だと思います。「マスメディア論」は広い視点からメディアのあり方を考えるきっかけになりましたし、「ソーシャル・コミュニケーション」で非営利組織の視点からコミュニケーションのあり方を学んだことも勉強になりました。

ほかにも、今ではどの組織でも「分かっていて当然」のように扱われていますが、SDGsに関する知識も早い時期に体系的に身につけることができました。いますぐ役立つことだけでなく、2 年後・3 年後に世の中に広がるであろうことを先んじて学ぶことができたのは良かったです。

今でもたまに大学院時代の課題を見直すことがあります。その時に自分なりに凝縮した言葉でまとめてあるので、仕事で煮詰まった時など、当時の気づきを思い出します。また、時間が経ってから見直すとまた違った視点で新たな気づきが生まれます。

橋本 コミュニケーションデザイン研究科では2 年間で修士論文にあたる「研究成果報告書」を執筆します。金子さんの研究テーマは「新聞社に信頼をもたらすコーポレート・コミュニケーションのあり方」でした。

金子 もともとメディアの現状についての課題意識や、メディアの広報部門は何ができるのか、何をすべきなのか、といった漠然とした悩みがあり、そこを入り口として研究テーマを考えるようにしていました。ディスカッションなどの中で「信頼」を軸に進めていく方向性は定まったのですが、「信頼」という概念をどのように捉えて、どのような方法でアプローチしていくか、ということが研究を進めるうえで非常に難しかったです。結果的にアンソニー・ギデンズの理論から具体的な戦略を提言したのですが、そこに至るまではずいぶん悩みましたね。

橋本 研究した内容はどのように現在の実務に活かされていますか?

金子 会社のブランディングをする中で社員に話を聞いてみると、やはり「信頼」という言葉が上がってくるのですが、その捉え方は千差万別です。そんな中で自分の言葉で具体的な施策を説明できるようになったのは研究した成果だと思っています。

広報を俯瞰で捉えるために

橋本 ほかの学生との「つながり」はどのように構築していましたか?

金子 授業でのグループワークのほか、夏休みにチームで論文を読み込んで発表するなど、自主勉強会でも交流を深めていました。同期とは修了後にも仕事上の質問や近況報告などで、連絡を取り合っています。

橋本 コミュニケーションデザイン研究科に向いている方はどのような方だと思いますか?

金子 やはり好奇心や向上心のある方だと思います。どうしても2年間は業務と両立するために物理的な時間を奪われます。それでも自分が変わりたいと思っているのであれば、「一人で悩んで仕事をする」という生活を漫然と送るよりはとにかく学びの場に飛び込んでみたほうがいいと思います。私自身はまさに転がりながら学びました。業界で活躍されている先生から学ぶこともできますし、日々のディスカッションは人の考え方の多様性を改めて感じるきっかけにもなります。広報担当者として働いていると、会社の外にこうした人間関係を持つことの良さをすごく感じます。結果としてコミュニケーションを俯瞰して捉える視点が身についたように思います。

金子恵美(かねこ・えみ)
修了生

橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会情報大学院大学 専任講師

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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