関心を持たれづらい領域にこそ可能性 広報は組織の羅針盤であれ

社会的価値よりも一時の感情が優先される情報社会に、広報はどう機能すべきか。広報・コミュニケーション戦略のプロフェッショナルを育成する、社会情報大学院大学 広報・情報研究科の橋本純次専任講師に、これからの広報の役割を聞いた。

情報社会とメディアリテラシー

――橋本先生は現在の情報社会をどのように評価していますか。

誰もが膨大な情報にアクセスできるようになり、メッセージの価値がその内容ではなく「拡散されるか否か」で測られるようになり、情報が生まれるプロセスへのまなざしが失われるにつれ、「情報の正しさ」よりも一時の「感情」が価値を持つ状況に陥っています。従来は「よいものや正しいものはいずれ評価される」という考え方もありましたが、こうした現状ではこれも成立しづらいといえます。我々が立脚する民主主義とは本来「正確な情報に基づく合理的な熟議による政治過程」を意味しますが、非合理的な感情に覆われる状況ではそれ自体の存立基盤が揺らいでしまいます。

――そうすると、いわゆる「メディアリテラシー」の役割がこれまで以上に高まるということでしょうか。

近年、政治学者やメディア研究者が指摘するのは、たとえば陰謀論を信じる人たちに「報道を批判的に読み解きましょう」とメディアリテラシーの価値観を説明したところで、むしろ偏った考え方が強化されてしまって逆効果ではないか、ということです。個人的には教育の場でメディアリテラシーを学んでいない高齢者がとくに危機的状況にあると考えていますが、いずれにせよ従来のように上から理論を振りかざして説得するのではなく、もっと目線をあわせて納得してもらうためのコミュニケーションが必要だと思っています。メディアリテラシーに限らず、「社会的重要性はあるがとっつきにくいテーマ」は、情報のあふれる現代社会においてますます伝えづらくなっています。

図 情報社会の変化と公共コミュニケーションの視点

 

公共コミュニケーションの発想

――情報社会では、新機軸のコミュニケーション戦略が求められるということでしょうか。

その通りです。私はそのようなコミ ュニケーションを「公共コミュニケーション」と呼んでいます。この言葉は一般的には、地方自治体やNPOなど、公共セクターが行う広報のことを指しますが、これまでに述べたことを踏まえると、同概念はより目的志向的に「人々から関心を持たれづらい領域において、場合によっては負の感情を抱かれていることを前提として取り組む具体的なコミュニケーション」と捉え直すことが必要です。そのための方法論の蓄積はまだまだ不十分ですが、少なくとも「これまで十分だと信じていたコミュニケーション」を見つめ直す契機とするためにも、こうした整理は有効だと思います。

――公共セクターだけでなく、一般企業にもそうしたコミュニケーションが求められる場面があるのでしょうか。

たとえば私はテレビ局の研究をしていますが、バラエティ番組やドラマについては興味を持ってもらいやすい一方で、ドキュメンタリーなどは関心が持たれづらいですよね。放送事業者の行うSDGsの取り組みなども同様です。このように、どのような組織にも公共コミュニケーション的要素が一定程度は含まれるといえます。気をつけないといけないのは、通常のコミュニケーションが比較的うまくいっている組織であったとしても、その方法論をそのまま「関心の持たれづらい領域」に持ち込むだけではなかなかうまくいかないということです

学び直しを支える「社会人経験」

――具体的なコミュニケーションの方法を検討できるようになるためには、どのような知見が必要なのでしょうか。

やはり社会動向やオーディエンスの状況を適切に捉えることが前提になりますので、社会調査の方法を学ぶことは必要不可欠です。少なくとも、様々な調査結果を適切に読み解けるだけの統計的リテラシーが身についているとよいでしょう。そのうえでメディア論やコミュニケーション論の基礎知識があると大幅なショートカットができます。ややハードルが高いように感じるかもしれませんが、社会人の場合は、自身の実務経験を前提としつつこうした内容を学ぶことが、効果的かつ実行可能なコミュニケーション戦略を構想するための最短ルートだと思います。

――「社会人の学び直し」が注目されていますが、大学院での学び直しに向いているのはどのような方でしょうか。

ひとつは、学んだ内容を実践するためのフィールドを持っている方です。大学院のなかでも本学のような専門職大学院は「実践と理論の融合」を旨としていますので、理論により実践を改善し、改善した実践の立場から理論をアップデートする、といった循環構造を構築できると学習効果が最大化されると思います。もうひとつは、学んだ内容を「まず実践してみる」というある種の素直さを持っている方です。これまでに培った実務経験やプライドを捨てる必要はまったくありませんが、自身の意見の正しさを「確認する」というマインドでは、せっかくの機会がもったいないと思います。

――広報・情報研究科では「広報のプロフェッショナル」を養成していますが、橋本先生のお考えになる「広報のプロ」とはどのような人でしょうか。

社会の現状を自分なりに整理し、それを前提としたコミュニケーション戦略を立案・実行できる人材。情報社会において組織の羅針盤としての役割を担うことができるのは、広報のプロを除いてほかにいないと考えています。

社会情報大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
メディア企業向けオンラインセミナー&説明会

なぜメディア企業に
『広報・コミュニケーションの専門家』が必要なのか

日 時:2022年1月23日(日)13:00~14:30
講 師:橋本 純次(広報・情報研究科 専任講師)
費 用:無料(事前予約制)
場 所:オンライン
※アーカイブ配信は行いません。

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橋本 純次(はしもと・じゅんじ)
社会情報大学院大学 専任講師

 

社会情報大学院大学 広報・情報研究科は2022年4月より、社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科に名称変更予定です。
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