「よそ者」率いるローカルベンチャー 愛媛で新産業を生む

「地域創生で目に見える結果を出すには長い時間がかかる」という常識を覆したのが、リバースプロジェクトトレーディング代表取締役の河合崇氏だ。圧倒的なスピード感を持って、愛媛県内外の多様な関係者を巻き込み新商品を開発、地域商社の運営をも見据える河合氏に話を聞いた。

河合 崇(リバースプロジェクトトレーディング 代表取締役)

愛媛シルクプロジェクトでは、新しいシルク産業の創出を目指している

愛媛県の名産品は柑橘類やその加工品、鯛、じゃこ天などをはじめ、真珠、砥部焼、今治タオル、和ロウソクに加え、絹織物(シルク)が代表的だ。しかし、昨今では国内養蚕農家の激減もあって、国産のシルク産業は存続の危機を迎えている。

その背景には、安価な海外製シルク製品の輸入や化学繊維の普及、生活様式の移り変わりなどがあり、養蚕農家の高齢化と桑畑の減少も見過ごすことはできない。そんな中にあって、「世界最高品質シルク」として海外でも高く評価される愛媛県西予市の生糸の価値を再発見し、新産業の創出に繋げているのがリバースプロジェクトトレーディングだ。

「地方の伝統産業は非常にポテンシャルが高い」というのが、河合氏が起業するきっかけだが、配偶者の実家は愛媛県。「妻の郷里を訪れるたびに、このような風光明媚な場所で地に足をつけた暮らしがしたい、ここで仕事ができればいいなと漠然と夢を抱いていた」とも話す。

「熊本県の山鹿市で取り組まれてきた『SILK on VALLEY YAMAGA』(新シルク蚕業構想)の取り組みをサポートする中、特にIoTを駆使した世界最大規模のスマート養蚕工場を稼働させたニュースは衝撃的で、それから愛媛県でも同じようように新たなシルク産業を生み出せいないか、徹底的に調べました」

河合氏は、前職は住友商事で腕を磨いたバリバリの商社マン。住友商事時代、「繊維原料部というシルクやコットン、ポリエステルを扱う部署の担当でした。だから深掘りしていくほど、愛媛のシルクはすごい。これはやれる」と闘志と確信みたいなものが漲っていったそうだ。そうして、新しいシルク産業の創出を目指し、業種や地域の垣根を越えた取り組みを実施するために立ち上がったのが「愛媛シルクプロジェクト」だ。

愛媛県の西予市産の繭からつくられる「伊予生糸」は一般の生糸と比べて、「白い椿のような気品ある光沢があり、ふんわり柔らかな風合い」が特徴となっている。これは、伊予生糸が原料となる蚕を育てる桑の栽培に適した気候と、肱川の美しい清流、傾斜面を利用した盆地の風土、伝来の技法を守り継いできた産物ゆえの賜だ。通常は繭を乾燥させて糸を繰るのに対して、西予市では生のまま冷蔵保存した繭をゆっくりと操る「生繰り法」。また明治初期から伊予生糸では、時間をかけて丁寧に糸を繭から引き出すため、蚕がS字状に吐いて作った糸の繊維のうねりがそのまま残ることによって、格別なシルクの味と風合いが生まれるのだ。伊予生糸は愛媛県の誇りであり、伊勢神宮や皇室の御料糸として納められ、英国エリザベス女王戴冠式のドレスに使われたり(1953年)、あるいは能装束の復元に使用されたりしてきた類い希なる地産の宝となっている。

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