衰退産業に1年で100人の雇用創出。工場直結ブランドが変える未来

SELFTURN×Work Design Award とは
本アワードでは、新しい働き方を実践しながら活躍するビジネスパーソン、あるいはそれを推奨している企業を、ソーシャルビジネス部門、ライフデザイン部門、リモートワーク部門、デュアルワーク部門、新事業部門の5つの視点から表彰します。東京ミッドタウン・デザインハブ第71回企画展「地域×デザイン展2018」内にて、受賞者によるトークセッション、および授賞式を開催します。

審査委員
株式会社ニューズピックス、NPO法人ETIC.、一般社団法人Work Design Lab、一般社団法人at Will Work、Fledge運営株式会社えふなな、株式会社日本人材機構

日本全国に散らばる技術と志を持った工場と直接提携し、工場独自の高品質なこだわり商品を適正価格で提供する、工場直結ファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」。ブランドを立ち上げたライフスタイルアクセントの山田敏夫代表が語る、地域と結びついたビジネスの可能性とは。

山田 敏夫(ライフスタイルアクセント 代表取締役)

アパレル業界の負のサイクルに"待った"

ファストファッションの台頭に伴うアパレル生産拠点の海外移転で、深刻な不振に陥っている日本のアパレル工場。国内におけるアパレル品国産比率は、1990年の50.1%から2014年には3%にまで減少している。中国やベトナムと同等の金額での製造を要求される国内工場は、過剰な原価抑制を強いられ、仕事を受ければ受けるほど疲弊する。さらに、中間業者が多く介在する現在のサプライチェーンの在り方では、メーカーが低価格な商品を望んだだけ、そのしわ寄せが工場にやってくる。

こうしたアパレル業界の負のサイクルに「待った」をかけたのが、ライフスタイルアクセントの運営する工場直結ファッションブランド「ファクトリエ」だ。高い技術と誇り、独自のこだわりを持った国内工場と直接提携し、中間業者を介さず工場と消費者をダイレクトに結びつけるビジネスモデルで、国内の工場がしっかりとした売上・利益を確保することを可能にしている。

山田敏夫社長は自ら国内600以上の工場へ直接足を運び、提携先を探してきた。現在、確かな技術を持つ、全国55の工場と提携を結んでいる。

疲弊した工場が新規採用を再開

ライフスタイルアクセントの本社は、山田氏の実家がある熊本市にある。実家は100年続く老舗婦人服店。「日本製の仕立てのいい服に囲まれて育ったことが、僕のアイデンティティの柱になっています」と山田氏は振り返る。

20歳の頃フランスへ留学してグッチのパリ店で働き、"本物はものづくりからしか生まれない"と知ったことが、ファクトリエの創造に繋がった。

「ヨーロッパのほとんどのファッションブランドは工房から生まれ、その地域や国々の文化をブランドに昇華させています。日本にも大島紬や牛首紬など、ものづくりに根ざしたブランドが存在しましたが、今では全盛期の数%に売上が落ち込んでいます。現在のアパレル業界では、上辺のブランディングやデザインだけに注力し、中身は海外で製造した商品が溢れています。だから僕は、ものづくりからブランドをつくりたいと考えたのです」

2012年のブランド創設から約5年。ファクトリエは着実に、全国のアパレル工場の経営を蘇らせている。それが如実に現れているのが雇用数だ。昨年1年間で、提携工場では合計約100人の新規雇用が創出された。これは、不振が続くアパレル業界では奇跡的な出来事だろう。

「ファクトリエの全商品には工場の名前がついており、販売価格も工場と協議して決定します。工場は自らのブランドを持ち、適正な利益を得て、若者を採用するという正のサイクルを取り戻すことができるのです。僕は全国各地の工場を見てきましたが、活力がある地域には必ず若者がいるし、小さくても経済圏が存在します。ファクトリエを通じて、工場の課題解決はもちろん、経済圏づくりにも貢献したいと考えています」

その方策のひとつとして、ファクトリエが毎年開催しているのが「工場サミット」だ。学生100人を集め、地域のアパレル工場の経営者や工場に就職した若者との交流機会を提供するもので、イベントをきっかけに工場就職を選んだ学生も多い。

「目標は50万人の雇用創出ですから、現状にはまだまだ満足していません。まずは地域で成長し、若者が働きたいと殺到するようなアパレル工場の成功例を1つ生み出したいですね」

問題解決には21世紀型の手法を

「地域にはまだ、多くのチャンスや可能性が眠っています。大事なのは、それをそのまま売るのではなく、そのエッセンスを見定めて現代のカタチに合わせていくことです」

山田氏がその好例として挙げるのが、和菓子屋のとらやが作った「トラヤカフェ」だ。和菓子のコアであるあんこを今の時代に合わせクリエイティブし、あえて看板商品の羊羹は一切売らないことで、新しい顧客層を開拓した。「そうした日本特有の文化やエッセンスは、ファストファッションやファーストフード、チェーン店が乱立する東京ではなく、地域にこそ眠っているのです」

地域と連携したビジネスを成功させるポイントは、問題の発見と、それを解決する自社の強みと地域の強みを知ること、そして、解決には「21世紀型の時代性を取り入れる」ことだと山田氏は指摘する。

ファクトリエの場合、問題は地域工場の経済性、強みは高い技術と品質。問題解決には、あらゆる21世紀型のコミュニケーションを活用している。例えば販売においては実店舗をほとんど持たず、オンライン販売が中心で、サイトには世界100カ国からアクセスがあるという。ブランドの一番の強みである品質の良さは、各地の工場からライブコマースを使ってリアルタイムに発信している。顧客コミュニティ運営にもFacebook、インスタグラムなどを活用している。

「キーワードは"応援経済"だと思います。地域や事業に共感してくれる人を集めてコミュニティ化することが大切で、クラウドファンディングやふるさと納税など応援のためのツールも沢山登場しています。資本経済は市場の奪い合いですが、応援経済は全く新しいマーケットを創造することを意味します。僕達がファクトリエでそれを成功させたいし、農業や食、伝統工芸などの分野でも可能なビジネスだと思います」

地域と結びついた新産業創出の可能性を示すファクトリエ。その活躍の場は世界全体に広がっている。


 

山田 敏夫(やまだ・としお)
ライフスタイルアクセント 代表取締役