2018年1月号

人間会議

創発から社会課題を解決 事業構想で促す地域政策

中庭 光彦(多摩大学 経営情報学部 事業構想学科 教授)

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独自の論理をもたなかった
地域政策

地方創生の名の下、人口減少社会への移行政策が続いている。実効的な知恵を試している所もあれば、相変わらず転出・転入といった社会人口の取り合いに終始している自治体もある。何より重要な、合計特殊出生率を底上げしていくような社会環境整備をなおざりにしている自治体も少なくない。半世紀余り続いてきた考え方の慣性は強い。

 

 

これまで日本の国土開発は集積のメリットをつくりだすことに注力してきた。工業用地には工業集積、都市部では駅周囲に業務・商業集積をつくり、周囲には住宅地が配置される。このような中心地整備は利便性を増し、企業立地を増し、住宅整備を促し転入者も増える......と、雪だるま式に中心地を整備しようとしてきたのである。

これを大都市に集中整備しようとした経済産業省、地方分散しようとした総務省や国土交通省の間で、振り子のように国土政策は動き、そのたびに「都市再生」やら「地方の時代」と政策フレーズが踊ったが、中心地整備による集積効果に重点を置く点では変わらなかった。

地域政策は、このような都市―地方構造を背景に、主に地方に軸足を置いて課題解決支援を行ってきた。しかし、肝心の地方自治体が、地元に中心地を創る以上の方法をもっておらず、地域政策独自の論理をもたなかった。これが未だに官が地方創生を有利なチャンスと見なせない、地域政策の弱みとなっている。

1960年代後半から、上からの開発に対するオルタナティブとして鶴見和子や玉野井芳郎らにより内発的近代化論が唱えられた。地域資源を活かしその土地独自の多様な近代化を唱え、通産官僚から大分県知事に転じた平松守彦の一村一品運動、水俣問題への対応から生まれた地元学と共に、中心地よりも周縁部に価値があると唱えた端緒ではあった。

だが、1998年に施行された非営利活動促進法以降生まれた多様なNPOも、同時期にまちづくり三法を通じて自律的な地域運営を目指した商工業者も、見つめた先は「地元定住者が利用する大都市」であって、中心地と郊外を再現する知を求めていた。中心市街地活性化の成功例と言われている高松丸亀町商店街はブランドショップを中心としたモールだったが、周縁の価値を生む方法論にまで、手が回らなかった。

課題先進地は
イノベーション機会

地方創生が叫ばれる頃から、この様相が変わってきた。それは地域政策独自の論理の登場である。

東京には相変わらず人口が集積し、鉄道による沿線開発モデルが生き続け、歩いて暮らせる基盤が整い、対面コミュニケーションが容易で、知識経済・創造都市の中心である。人口の社会増は続いているが、合計特殊出生率は最低レベルである。

ところが地方は「東京ではない場所」ではなく、独自の可能性が見える場になっている。クルマ移動とICTが融合したプラットフォームが整った周縁部では、これまでの考え方に囚われない「出る杭」となる人々がおもしろい挑戦をしているのである。移動もしやすく、一定の生活基盤は整い、自然も旨い食材も豊富。そこで「既存の方法ではうまくいかないから、好きな方法を試してみよう=おもしろい新事業」をスモール・スタートアップするためのコストが極端に低くなっている。

主人公はヨソ者、滞在者、交流者で、ほぼ例外なく課題先進地である。いま地域研究者の多くが「課題先進地こそおもしろい」と考えているのだが、都市部よりもイノベーティブな活動を行いやすいのである。都市部の課題に対しおもしろい活動をしている人々も、組織人らしからぬ「出る杭」の人々である。まさに周縁独自のメリットと言える。

隔たりを資源化し、出る杭をネットワークしている事業者志向のグループを、私は伝統的コミュニティや市民参加型のコミュニティと区別して、コミュニティ3・0と呼んでいる。こうした人々が地域の制度をバージョンアップしている例が、目立つようになっている。

おもしろい人は、課題解決のプロセスが、新たなしくみ・制度の生成の連鎖を生み出す「創発」につながることをわかっている。事業構想とは、課題解決のために資源と用途をつなぐプロセスを設計し事業に導き持続させることである。おもしろい人は、事業構想そのものに魅力を見出している人のことなのである。

クルマやICTだけではなく、第四次産業革命と呼ばれる急速な技術革新を背景に、おもしろい人にとって課題先進地はイノベーション機会の塊である。したがって、行政の役割は、おもしろい事業者が動きやすくなるような制度支援を行うこととなる。

地域の価値を生み出すのは、事業者であって行政ではない。

ミノリジェラート外観。

創発を促すおもしろい学び

創発を促す地域事業者の学びについて事例から考えて見よう。

香川県小豆島。ここには若者に人気の「ミノリジェラート」がある。

入ると、焼きナス、かぼちゃ、生落花生など、ジェラートの種類が広い。店主にうかがうと、周辺の農家の方々が、朝、JAではねられてしまう規格外の野菜を持って「これで何かできないか」とやってくるそうだ。規格外といっても形が揃っていないだけ。この野菜の新鮮さを価値に、すぐにジェラートに仕立てるのだ。

ちなみに店主は2年前に島にやってきた。それまで東京でバーテンダーやソムリエの仕事をしてきた。バーテンダーとは、果物等の素材を一番美味しく客に提供する処理技術を知るプロフェッショナルだという。お酒をジェラートに応用しただけなので、自分にとっては同じ事だという。技術が他の工程に応用され新商品が生まれる創発である。

中心地志向であれば、ご主人はバーテンダーのピラミッドを上に登る垂直的な専門知を追い求めていたかもしれない。しかし、実際にはこの技術を他の分野に水平展開する応用知を磨いている。この結果、ミノリジェラートは多数の観光客と生産農家を媒介するプラットフォームとして機能している。さらに、このジェラート製造業は、小豆島の観光産業プラットフォームの中で、観光業・生産農家の補完事業者となって、島のビジネス・エコシステムとしても大きな役割を果たしている。

農業の六次産業化も観光も地域政策の大きなテーマだが、足りないのが、このような「応用知」をもった人材である。

これまでの地域政策、例えば一村一品運動のような考え方の前提には、差別化競争戦略があった。専門化して地元の資源を磨けば客は分かってくれるはずだと。しかし、ピラミッドの頂上に行けるのはごくわずか。息切れした生産品は市場で買い叩かれ、廉売品が多数残る。これは社会全体としては大きなロスだ。むしろ、地域資源を応用・加工して新たな魅力を生み、どれだけ水平展開できるかが求められている。

人口減少時代の縮小多様化する市場で事業構想に求められるのは応用知だ。地方自治体としては、ヨソ者のもつ知を発見し、水平展開できる学びの場を創ることが重要になる。

多種のジェラート。

事業構想を進化させる地域課題

応用知を学ぶ上で、事業構想というコンセプトは欠かせない。事業構想とは、課題、資源と用途を発見し、解決プロセスをデザインし事業を実施持続することである。これは従来の創業支援や大学のアクティブラーニングとほぼ変わらない。現にこれまで自治体では創業支援にこの過程を当てはめてきたが、効果を出してきたとは言い難い。

なぜなら、都市はどこも共通しているが、その土地特有の課題は千差万別で、それを発見し地域資源の応用が見えるのは、圧倒的にヨソ者だからだ。ここに地元定住者による創業支援の難しさがある。イノベーションと創発を生むのは、ヨソ者と地元の人々が交わった事業構想なのだ。

このことがわかってきたのか、この1~2年で、交流者を地域政策として呼び込む例が増えている。秋田県五城目町で地域活性化支援センター「BABAME BASE」を運営しているハバタクは、交流する人々の知が資源という認識のもと、町を転出した人、町に魅力を感じてやってくる人をファンとして「ネットワーク村民」としてつなぎ、「イナカ創業」の振興を標榜している。

五城目町地域活性化センター。

さらに、高知の土佐山アカデミーは都市とイナカという境界を無くすという考え方で「EDGE CAMP」という起業家養成プログラムや「高知地域おこし未来会議」など数々の課題解決プログラムを開いている。

飛騨の高山市には大学が無いが、一般財団法人飛騨高山大学連携センターを産官一体となってつくった。シンクタンク事業や大学支援事業を元手に、高山市に課題を見出すおもしろい人々をネットワークしようとしている。応用知の支援という点では共通しており、課題先進地の地方で生まれているのも、周縁のメリットが実感されつつある証左であろう。

地域政策に求められている学びが交流志向の応用知になりつつある現在、事業構想は周縁で創発を進める課題解決手法として進化を遂げている。

土佐山アカデミー前で、事務局長の吉富慎作さんと。

中庭 光彦(なかにわ・みつひこ)
多摩大学 経営情報学部 事業構想学科 教授

 

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