企業の目指す道と行動を映す メッセージの果たす役割

企業メッセージは、企業のイメージをどのように消費者へ伝えるのだろうか。また、そこに込められた理念は個々企業の取り組みにどれほど反映されているのか。企業のイメージだけが言葉によって独り歩きし、本来伝えるべき内容とかけ離れている、という危惧はないだろうか。企業メッセージ調査は、企業ごとの綿密なレポートとコンサルティングを通じ長らく言葉と取り組みの調和を提言してきた。今や、メッセージを伝えるメディアも変遷し、かつてはテレビCMが主体であったが、徐々に企業ウェブサイト、およびスマートフォンへも、展開すべき時を迎えている。14回を数える定点調査から、その実態を明らかにする。

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企業メッセージを読み解く

日経BPコンサルティングの『企業メッセージ調査』は、ブランドプロジェクトの一環として2002年から開始。直近の2015年には273社・402のメッセージについて25000人以上の消費者が評価した。自社や競合他社の企業メッセージ(スローガン)の強みと弱みを把握できるよう、各メッセージのデータを幅広く取得、認知度、理解度、接触度、好感度などの他、16項目からなるイメージ項目を尋ね、因子分析により「実績」「将来性」「表現力」「躍動感」の4つの印象度スコアを算出。各メッセージのイメージの特徴を定量的に捉えている。

本調査ではメッセージから企業名を正しく回答できた割合である「企業名想起率」をランキングしている。上位はテレビCMに登場する大手企業が占める傾向は否めない。しかし、評価指標でランキングの顔ぶれは大きく異なる。例えば「ビジョンがある」という評価項目の場合、語呂の楽しい言葉とは違う、「消費者の未来を考えてサービスを提供しているか」が込められているか否かが評価のポイントになり、保険会社や不動産などの社会インフラ・安心を提供する企業が上位に来る傾向がある。

メッセージ調査を公刊すると、ランキング上位の企業に加え、これから周年などの節目にメッセージを見直そうとしている企業などからの問い合わせが多い。企業には、「メッセージが狙い通り伝わっているか」の吟味・検討であったり、認知度向上のために「どの認知経路が効果的か」など媒体(ノベルティグッズへの印字)や場面(商談)の活用案を提言する。いわば企業メッセージの洗練作業は従業員の団結を高め、組織内の求心力を高め、インナーブランディングにも有効である。

表1 企業名想起率上位ランキング

グローバル志向から読み取れるもの

近年、英語のメッセージへと切り替えを図る企業が増えている。これは、デザイン性よりはグローバル指向の表れと受け止められる。例えば、味の素は「おいしさ、そして、いのちへ。Eat well, live well.」を2014年から「Eat well, live well.」とし、日本語併記を外した。また、三越伊勢丹ホールディングスでは、「向き合って、その先へ」を2015年から「This is Japan.」へ変更した。

もっとも日本の一般消費者からは、英語は「格好つけて見える」「意味が分からない」という反応も多数寄せられる。他方、意味がストレートに伝わりにくい外国語でも、繰り返し聞くことで、認知や好感度が上がる場合がある。「本当に伝えたいことは何なのか」の見定めが必要だ。

表2 メディア別接触率(上位企業メッセージ)

移り行く企業メッセージ

テレビCM全盛の時代には、音(音韻)と映像を組み合わせた広告展開の一環として、企業メッセージは有効であった。但し、テレビ離れに伴い企業名想起率も年ごとに漸減している。このままでは、消費者がテレビを頻繁に視聴した当時で記憶や印象が停まってしまうことも避けられない。

一方で、まだウェブサイトを活用できている企業は少ない。その中でも先駆的と言えるのは、サントリーホールディングスの例である。同社の企業メッセージ「水と生きる」は、語呂という観点では必ずしも良くなく、また「水」も「生きる」も単語そのものとしての独自性は高いとは言えない。しかしながら、このメッセージは、非常に高い認知・好感度を得ている。その背景には、一般的に更新頻度が高いとは言えないCSRコンテンツを「読ませるコンテンツ」にするため、特設サイトを立ち上げたり、SNSなどを積極的に活用し話題づくりをするなど、継続的なアピール活動がある。

言葉だけを見れば理念とは「美辞麗句」も多く、それを建前と思われない工夫、および書かれたメッセージと一体で行動を発信していく努力が欠かせない。企業理念を構成するこの「行動規範」は、どの企業にも当てはまる場合がある。

企業メッセージは認知がゴールではなく、そのメッセージに込めた意味を理解してもらうことで価値が生まれる。「○○会社らしいメッセージだね」と思ってもらうためには何をしたらよいのか。発信方法や見せ方だけにとらわれず、自社の姿勢とメッセージに乖離がないか、客観的に見つめる視点が必要であろう。

人が代わっても、言葉とそこに込められた理念は受け継がれていく。企業メッセージの持つ力はこれからも生き続けていくに違いない。

瀬戸 香菜子(せと・かなこ)
日経BPコンサルティング ブランドコミュニケーション部 コンサルタント

 

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