ANA、食のかけはしカンパニー他 沖縄でアジアを繋ぐ新ビジネス

アジア諸国の経済成長や交流人口の拡大を背景に、沖縄県は、アジアと日本を結ぶ新産業育成の戦略拠点へと変貌を遂げている。この地で革新的なビジネスに挑戦する企業の事例から、沖縄の可能性を考える。

清成忠男 事業構想大学院大学学長

11月13日、事業構想大学院大学と財団法人沖縄協会は、「事業構想特別シンポジウムin沖縄」を沖縄県那覇市で開催した。

沖縄では現在、県外との収支を示す「県際収支」が急速に改善し、経済的自立への道を進んでいる。アジアの中心に位置する地政学的特徴を活かして、観光産業はもちろんのこと、物流、食品、先端技術などの新産業が著しく成長している。

今回のシンポジウムでは、こうした沖縄県の次世代産業の可能性について、学識有識者や県政財界関係者、企業経営者らが討論を行った。

第1部 基調報告

第1部基調報告には、事業構想大学院大学・清成忠男学長(沖縄協会会長)、譜久山當則・沖縄振興開発金融公庫理事長、東良和・沖縄ツーリスト代表取締役会長が登壇。転換期を迎える沖縄県産業で今後期待される成長産業や、県経済の屋台骨を支えてきた観光産業の将来像について、講演が行われた。

移出・輸出拡大に向けて期待される産業集積

「沖縄県は、IoT(モノのインターネット)の進展によって、遠隔地という不利性を克服できる時代に入りました。今後、人財の蓄積による事業構想力の進化が実現されれば、アジアと日本を結ぶ新産業拠点となりうるでしょう」と清成忠男・事業構想大学院大学学長(沖縄協会会長)は指摘する。

具体的には(1)航空関連産業=MRO(航空機整備)クラスターや国際ロジスティクス・ハブ(2)統合型知識産業=観光、ヘルスケア・サービス、離島をつなぐ高度・多品種少量ものづくり、食品クラスター(3)大学院大学を核とする分析的知識産業=生命科学――といった産業が有望である。

「これらの産業の成長は同時に、沖縄県からの移出・輸出を拡大し、県際収支の黒字化を促し、経済的自立にも繋がるはずです」と言い、沖縄県の大転換期が訪れつつあると指摘する。

アジアの中心地に集まるモノ・人・情報を活用せよ

譜久山當則・沖縄振興開発金融公庫理事長は「アジア圏への沖縄の地の利をフル活用した空路・海路の物流による『モノ』、LCCやクルーズ船寄港による『人』、情報通信インフラの拡充とIT産業集積による『情報』。これら3つが集まることによって、沖縄県はアジアの経済成長を取り込める画期的な時期に来ています。こうしたモノ・人・情報基盤を活用した事業構想を持ち、実行するプレーヤーが強く求められています」と指摘する。

沖縄が他府県と大きく異なるのは、政府による成長戦略や地方創生、さらに沖縄県のアジア経済戦略構想によって、新産業の育成基盤が短期間で構築されつつあることだ。「人材や資金の不足といった課題に対しても、沖縄振興開発金融公庫は中長期的な視点に立った多様な融資メニューとコンサルティングにより、民間企業の成長を全力でバックアップしていきます」と譜久山氏。新事業に挑戦する企業に、沖縄の優れた事業環境をアピールした。

「事業構想特別シンポジウムin沖縄」には100人を超える企業・行政・大学関係者らが参加

沖縄観光に求められる“LNG戦略”

沖縄県の観光産業は、2014年度に初めて観光客数が700万人を突破するなど、極めて好調だ。しかし「従来の沖縄県内における観光業の実態は、多くの場合下請けでした。今後は、地域の経済発展に真に貢献する地域主導型観光への転換が必要であり、そのためには外需(外貨)の取り込みを推進する“LNG戦略”が求められます」と東良和・沖縄ツーリスト代表取締役会長は指摘する。同社はアメリカ施政権下の1958年に那覇市で創業し、以来、沖縄県を代表する旅行会社として知られている。

東氏の構想する“LNG戦略”とは、Local(郷土・沖縄)、National(日本本土)、Global(世界各地)の頭文字をとったもの。3エリアからの観光客のニーズは沖縄旅行、国内旅行、海外旅行とさまざまだが、その中から外需・外貨の獲得につながる分野にターゲットを絞り、誘客することが大切だという。東京などの大手旅行会社の送客に依存するのではなく、地域主導で「来てもらいたい人」を誘客すること、その実現のために徹底したマーケティングを行い、域内事業者と連携した魅力的な企画・サービスを創造することが、地域主導型観光の要諦である。

実際に沖縄ツーリストでは、2006年に台湾、14年にシンガポール、15年に韓国で事務所を開設してインバウンド観光客の誘致体制を整備。同時に、沖縄で展開しているレンタカー事業を北海道にも広げることで、外国人の個人旅行客の取り込みに成功している。

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