2016年1月号

人間会議

「脱炭素化」の実現目指し総合的な取り組みを

浜中 裕徳(公益財団法人 地球環境戦略研究機関 理事長)

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国連気候変動枠組条約第21回締約国会議では世界の国々が、同条約の下で、発展途上国を含んで、すべての締約に適用する新たな法的枠組みに合意しようとしている。「気候変動に関する政府間パネル」は、気温上昇を2℃未満とする目標の実現のためには今世紀後半には世界の温室効果ガス排出量を、ゼロまたはマイナスにする「脱炭素化」が必要だとしている。人々の暮らしや経済に大きな変化をもたらす「脱酸素化」への試みは、人々が気候変動を「自分の問題」として理解することが重要になる。

先進国による最初の一歩から
途上国も参加する枠組みへ

1992年5月の国連総会において国連気候変動枠組条約が採択されてから、23年が経過した。同年6月にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた「国連環境開発会議」(地球サミット)では、世界の国々がこれに署名し、条約は1994年3月に発効した。

翌年以降は毎年、条約の締約国会議(COP)が開催され、1997年に京都で開かれた第3回締約国会議(COP3)では、先進国に対して法的拘束力のある数値目標を定める京都議定書が採択された。数値目標の達成期限である「第1約束期間」は、2008~2012年となった。

「いろいろ議論を行った結果、最初の一歩は先進国が世界の取り組みを先導すると決められたのです」。環境省において長年、気候変動枠組条約の国際交渉などに携わってきた地球環境戦略研究機関の浜中裕徳理事長は、当時の状況を説明する。「先進国が取り組みを先導することは条約の原則に定められていました。議定書の交渉は、先進国の約束を強化することを目的として行われましたが、温暖化を防止するためにはそれだけでは不十分で、将来的には途上国にも削減行動に参加してもらう必要があるという認識でした」

その後のCOPでは、先進国と途上国の間で対立が続き、途上国の排出削減強化に関する話し合いは難航した。他方で、2001年にモロッコのマラケシュで開かれた第7回締約国会議(COP7)では、京都議定書の運用ルールが合意され、議定書は2005年2月に発効した。同年末のカナダのモントリオールにおける第11回締約国会議(COP11)の際には、同時に京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)が開かれ、マラケシュ合意が正式に採択され、議定書は全面的に実施に移された。

「途上国グループはそれまで、気候変動問題の責任は先進国にあるとし、途上国が排出削減強化の義務を負うことを拒否していました。しかし、その固い態度もこの時期から、ようやく変化しはじめました。そして2011年の南アフリカ・ダーバンにおける締約国会議(COP17)では、今日に至る流れが大体でき上がり、条約の下、途上国も含むすべての締約国に適用する法的枠組みを作ろうということになりました」

2007年にバリで開催された締約国会(COP13)では、2020年に向けて、先進国、途上国を問わず、すべての締約国が気候変動対策の行動を強化することが合意された。そして、各国が目標を立てて適切な緩和行動をとることになり、その後2010年にカンクンで開催された締約国会議(COP16)では2年ごとに報告書を出すことも決められた。

「京都議定書は先進国だけが削減義務を負い、米国も離脱してしまったため、意味がなかったという見方もあります。しかし、そのような見方は短絡的だと思います。米国は離脱しましたが、他の先進国は議定書の下で、削減行動を強化しました。そうしたこともあり途上国グループの固い姿勢が徐々に変化し、今日に至る流れができたのです」

公益財団法人地球環境戦略研究機関 理事長 浜中 裕徳

「技術専門家会合」で
経験や技術の共有はかる

気候変動問題をめぐる状況は1990年代以降、大きく変化した。まず、世界の温室効果ガス排出量における先進国と途上国の割合が、異なるものになった。国際エネルギー機関(IEA)の統計によれば、2012年の世界におけるエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量で上位を占める国々は、第1位が中国(26%)、第2位が米国(16%)で、その後にEU28ヵ国(11%)、インド(6.2%)、ロシア(5.2%)、日本(3.9%)が続く(図1)。

図1 世界のエネルギー起源CO2 排出量(2012年)

出典:IEA「CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION」2014 EDITIONを元に環境省作成

1990年ごろには、先進国の排出量が全体の6割程度を占めていたが、現在では4割程度に低下した。中でも京都議定書を締結した先進国が占める割合は、全体の4分の1以下となっている。過去の排出量の累積を見れば、依然として先進国の割合が大きいが、今後、世界の排出量を大幅に削減するには、排出量の多い中国やインドなど途上国における対策も不可欠だ。

「昨年公表された『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)』の第5次評価報告書を見ると、1990年に公表された第1次評価報告書と比べ、科学が私たちに伝えることがはっきりしてきたと感じます。この最新の報告書では、COPで合意された気温上昇を2℃未満とする目標の実現のためには、今世紀後半には世界全体の排出量をゼロかマイナスにする『脱炭素化』が必要としています」

また近年は、世界各地でかつてない大型のハリケーンや台風が発生し、干ばつや洪水による大規模な被害も発生している。このため専門家だけでなく、多くの人々が「気候がおかしい」と感じるようになっている。個々の異常気象現象の原因を断定することは難しいが、気候変動問題の深刻さは、従来よりも広く認識されるようになった。

他方で、先進国を中心に、温室効果ガスの様々な削減行動がとられていることから、その経験の蓄積や技術の進歩も生じている。このような中、条約の締約国会議では近年、蓄積された経験や知識を共有する場となる「技術専門家会合」も開かれるようになった。

「技術専門家会合は、先進国と途上国が対立するのではなく、様々な問題について実質的に話し合える貴重な場となっています。特に先進国で蓄積されてきた経験や技術に関する知識は、これから本格的に対策をとろうとしている途上国にも貴重な共有資産となるはずです」

図2 世界のエネルギー起源CO2排出量(2012年)に占める京都議定書第一約束期間義務付け対象の割合

出典:IEA「CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION」2014 EDITIONを元に環境省作成

気候変動の「損失と被害」に
途上国から補償求める声

パリにおける気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21、2015年11月30日~12月11日)で世界の国々は、条約の下で途上国を含めたすべての締約国に適用する2020年以降の新たな枠組みに合意しようとしている。

「条約締約国すべての参加を確保することは重要です。他方で、これに合意するためには、衡平(equity)、そして温暖化防止の実効性、あるいは環境十全性(environmentalintegrity)といった点への考慮も必要です。これらを全体として、どのように理解し、バランスの取れた合意を成し遂げるかが課題です」

議長国フランスは以下の4つの点をパリ合意の重要な柱として挙げてきた。第1に、意欲的で衡平、かつ法的拘束力を有する合意を作り上げること。第2に、各国が自国の目標を設定すること。第3に、温暖化の脅威に対しては、特に最貧国が脆弱であることから、それらの国々への支援をしっかり行うこと。そして第4に、自治体やビジネス、市民社会など、国家以外のアクターにも参加してもらい、問題を具体的に解決する行動をとっていくとした。さらに、気候変動の深刻なリスクを回避するために必要な「脱炭素化」を進めることが大きな目的だとしてきた。

一方、条約に明記され、先進国により重い責任があるとした「共通だが差異ある責任」という原則の解釈や適用をめぐっては、依然として先進国と途上国の間に隔たりがある。また、先進国は2020年までに途上国支援で年間1千億ドルを拠出すると約束してきたが、その実現や2020年以降の支援をどう具体化するかも課題となっている。

さらに、近年は「損失と被害」というテーマも難しい問題となっている。途上国からは、気候変動の影響と考えられるサイクロンなどによる損失と被害に対し補償するための新しいメカニズムを作るべきという意見がある。しかし、米国をはじめとする先進国は、法的責任にもかかわるこの議論に、慎重な姿勢をとっている。

「すべての条約締約国の取り組み参加に関しては目途が立ちつつあり、約150の国々が既に目標を出しています。他方で、先進国の対応に不満を持っている途上国も多く、最終合意に向けては、先進国のより誠意ある対応が必要となるでしょう」

社会・経済的課題と結びつけ
解決目指す新たな動きも

気候変動のリスクを回避するには、人々の生活やビジネスを大きく変えていく必要がある。それを実現するためには、そのリスクに対する人々の理解を得ることが不可欠だ。「それぞれの個人や企業、地域によって、気候変動のリスクは異なります。ですから、それぞれにどのようなインパクトがあるかを示す情報を提供し、人々に『自分の問題』だと思っていただく必要があります。他方で、リスクの大きさを理解しても、個人や企業、自治体などは皆、他の優先課題も抱えています。それらの課題と結びつけ、ウィンウィンとなる状態を作り出すための努力も必要です」

日本では、少子高齢化や人口減少、財政再建など様々な課題との関連性を考慮しつつ、対策を進める必要がある。例えば、地域資源を活用したエネルギーの地産地消などは、気候変動対策と地域活性化を結びつける1つの試みになる。

世界には経済、社会、環境の様々な課題があり、それらへの総合的な取り組みが求められている。新たに始まった世界的な取り組みの1つに、「経済と気候に関する世界委員会」によるプロジェクト「新気候経済(NewClimateEconomy)」がある。

カルデロン元メキシコ大統領を議長とし、イギリスの経済学者、ニコラス・スターン卿が共同議長を務めるこの委員会では、気候変動対策を実施しつつ経済成長を実現することがテーマである。そして、エネルギー、都市、土地利用という3つの分野における革新を通じ、このことが可能であることを示そうとしている。

今年11月にはイングランド銀行(英中銀)総裁が議長を務める金融安定理事会、気候変動のリスクが金融システムの安定を脅かす可能性について警告し、主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議に企業の保有資産や事業に関する炭素情報開示のための新たなルールを策定するよう提案した。

これらの動きをはじめ、気候変動枠組条約採択から20年以上が経過した現在、締約国会議以外にも、世界的な議論の場が拡大している。「脱炭素化」に向けては、気候変動に対する世界の人々の理解と行動が必要となる。COP21では、そのための力強いメッセージが発せられることが期待される。

浜中 裕徳(はまなか・ひろのり)
公益財団法人地球環境戦略研究機関 理事長

 

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