高齢者が集う「現代の湯治場」 リピート率90%の温泉宿を実現
栃木県の那須芦野・伊王野地区は、至るところから清冽な地下水が湧出する水源地。この地で、「高齢者が安心できる温泉宿」をつくり上げた吉田代表は、さらに施設の充実を進め、若者や子育て夫婦も行きたくなる「ゲンキむら」づくりを目指す。
栃木の一大観光地となっている那須高原。同じ那須でも高原とは反対方向に車で30分ほど進んだところ、四方を里山に囲まれた中山間部に人気の温泉宿がある。1966年に創業した芦野温泉だ。
20万㎡の敷地に宿泊棟、温泉棟、スポーツ施設合宿棟が連なる。旅館業、サービス業の経験もなく、25歳で創業した代表取締役・吉田榮喜氏は、「私は単なる観光事業に興味はない」と言い切る。その言葉に、芦野温泉の人気の理由が隠されている。
自身の疎開が原体験に
ある時、吉田代表は、来場者の様子を眺めていて「後期高齢者(75歳以上の高齢者)が自然と集まる場所になっている」と気づいた。高度成長期、後期高齢者がマーケティングの対象とは見られていなかった時代だ。そこから、後期高齢者が何を求めているのか、どんな課題を抱えているのかを考えるようになった。
吉田代表が痛切に感じたのは、後期高齢者の寄る辺のなさだった。戦争を体験し、戦後の混乱期に必死に働いて日本の再建に貢献したにもかかわらず、社会から大切に扱われているようには思えなかった。しかも高齢者自身、戦後の混乱を経て価値観の揺らぎを経験し、自信を喪失していた。
吉田代表は、そうした高齢者が安心できる居場所が必要と思い至ったのである。
「私は1939年生まれ。6歳の時、郷里の和歌山市がB29の空襲に遭い、高野山の山奥に4年間、疎開しました。食べる物もない時代でしたが、そこには米や農産物があり、豊かな生活がありました。その体験がベースになっています。今の世の中は、父性原理で勝敗が決まる厳しい世界。しかし社会の片隅には、母性原理で無条件に受け入れてくれるような逃げ場所も必要なのではないでしょうか」
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