事業構想学を構想する・特別篇 地方創生と事業構想

地方創生に向け、望ましい未来の姿を描き、社会の一翼を担うという強い意志をもって、その事業化に取り組むべきだ。地域にそくした事業構想が、地域をかえる起爆剤となり、地域の活力をうみだしていく。

過疎で苦しんでいた徳島県中山間部の神山町。全国屈指のICTインフラを武器に、企業のサテライトオフィス誘致に次々と成功し、若者世代の移住も増えた

国の活力の源泉は何か

「地域再生」から「地域活性」、そして現内閣では「地方創生」と、政権がかわるたび呼称を変えてきたわが国の重要課題であるが、その意味するところはすこしも変わっていない。すなわち、少子高齢化や大都市圏への人口、情報、マネーの集中(もっとも顕著で深刻なのが東京圏への一極集中)などによる地方の衰退である。

今年5月に発表され、世間の耳目をあつめた日本創成会議の推計によれば、2040年には全国およそ1,800の市区町村の約半分は存続が難しくなるという。

グローバルな都市間競争の時代に、一極集中はむしろ好ましいという意見もあるが、われわれはそうは思わない。歴史学や文化人類学が教えるように、周辺からの「異質なもの」の流入がなければ中心は均一化し、やがてその活力を失う。周辺は多様であればあるほどよい。ソーシャル・イノベーションは常に周辺から起こるからである。それぞれの地域の風土が育んできた固有の文化や産業が発展することが、この国の個性を形づくり、活力の源泉となる。

地域の創生になぜ事業構想が必要なのか

では、こうした「地域活性」ないしは「地方創生」を実現するために必要なものはなにか、国や自治体の政策的な視点ではなく、生活者の目線で考えてみよう。まず、その地で暮らし、生活するためには最低限、安全と生業が必要である。安全・安心もさることながら、仕事あるいは雇用がなければ生活そのものがなりたたない。今日、都会にいる地方出身の若者の多くが、たとえ帰郷願望があっても実現できない理由の第一にこの点をあげる。仕事ないし雇用の創造は地方創生にとって欠かせぬ要素なのである。

ただし、人はパンのみによって生きるにあらず。経済的な充足は地方創生の必要条件ではあるが十分条件ではない。そこには精神的な充足がなければならない。この点を明確に定義するのは難しいが、あえていえば、社会への貢献意識と自己実現の達成感であろうか。それらは文化活動など経済活動以外のものによっても得られるものである。高知県や沖縄県は県民一人当たり所得が相対的に低いことで知られるが、だからといって決して活力がないとはいえないであろう(むしろ個性的で活力ある地域とも思える)。

このように地域活性は、経済的な側面と非経済的な側面を併せ持つことをまず押さえておかなければならない。

次によく話題となるのは、内発的な活性化か外発的な活性化かという議論である。しかし実はこの二者択一は的外れである。地域活性化のお手伝いをしていてなにより感じるのは、住民の方々が本気で取り組まないと決して現状は変わらないということである。いくら外部のわれわれがどうのこうの言っても、地域の人々みずから、変えよう、変わってやろうというパッションが生まれなければ地域活性はありえない。行動し実行するのは彼らだからである。外発的というのは刺激ないしきっかけを与えるということにすぎない。地方創生は、外部者がカンフル剤をうって創生するのではなく、あくまで自ら創生するものでなくてはならない。

さらに、こうした地方創生のためにどうしても必要なもの、それが事業構想であるとわれわれは考えている。事業構想とは、望ましい未来の姿(ビジョン)をイメージし、そこへ至る道筋(グランドデザイン)を描き、社会の一翼を担うという強い意志をもってその事業化に取り組む行為をさす。地域にそくした事業構想が地域をかえる起爆剤となる。そのために多くの事業構想を生み出し、事業構想家を育てなければならない。

冒頭のインタビューで本学理事長は、仕事創造と観光創造をその事業構想の両輪としてあげている。両輪と申し上げたのは、その好循環をいかにうみだすかがポイントになるからである。仕事創造により、地域の若者や女性が活躍し、活性化される。観光創造によって、地域に人の流れがうまれ、そこに生産と活動がうまれる。両輪が回り続けることで、地域に「住む人」「来る人」が増えて、地域の活力と持続性をうみだすのである。

地方創生に必須の未来思考

これまでの連載で、事業構想における未来思考の重要性を述べてきたが、地方創生においてもまったく同様である。地域における未来を想像し、その実現に向けて長期的な構想を練り上げて、それに向けて実現をしていくことが必要である。それは地方創生が、「地域の人口減少・少子高齢化」という課題と直面している以上、なおさら不可欠な視点である。地域の持続可能性を担保するために、10年後、20年後の「地域のすがた」をイメージし、そこから現在への線引きをおこなうバックキャスティングが不可欠である。

このバックキャスティングの発想を明確に意識、実践しているのが、地域活性の希望の星として最近メディアでよく取り上げられている徳島県神山町である。神山町の取り組みの詳細については、本誌10月号、大南信也(NPO法人グリーンバレー理事長)「移住希望者を逆指名T企業が殺到する『創造的過疎地』」を参照してほしい。

大南理事長は、神山町の望ましい姿として「創造的過疎」を提案した。そのために必要な要素として、適度な世代間バランスを考え、いきいきと創造的な地域を保つための、子供や若者の居場所づくりを重要視した。当時、小学校が1クラス約30人程度であったが、このままでは2035年に12.5人まで減少するという推計であった。

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