小さな洋菓子屋が全国区に 高級贈答用ラスクを生んだ発想転換

山形市のシベールは、日本で初めて高級贈答用のラスクを世に送り出し、さらにインターネットのない時代に通信販売の手法を確立して、全国展開を遂げた。地域を代表するイノベーティブな企業として今も成長を続ける。

シベールはラスクを贈答用高級菓子として捉え、全く新しい販売手法にも挑戦。常に新市場を切り拓いてきた

全く新しい市場を創出

ラスクはもともと「二度焼きのパン」という焼き菓子を意味し、パン等の表面に、卵白と粉砂糖を混ぜたものを塗り、オーブンで焼いたものをいい、売れ残った固くなったパンを食べるために工夫してつくられたものである。

近年では、その味や素材も様々な進化を遂げ、ガーリック味や塩味のラスク、様々なフルーツ味のものが登場。また素材となるパンも、フランスパンの他、メロンパンやクロワッサン、全粒粉、ライ麦のパンと増えている。最近では、バウムクーヘンやカステラで作られたラスクなども、新たに登場している。

しかし、固くなったパンを食べるために、もともと考えられたものであるため、その需要は限られていた。そんなラスクを高級贈答品にまで高めたのが、1966年に山形県山形市で、洋菓子の店「シベール」を個人創業した熊谷眞一氏である。

熊谷氏は1941年、山形県大江町生まれ。高校卒業後、父親が営む和菓子店「松月堂」へ入社はせず、洋菓子職人の道に進んでいる。

1966年、25歳の時に創業した店舗は間口2.7m、奥行き4.5mの小さな店。熊谷氏は独身で、また社員もおらず、1人だけでの創業だった。

熊谷氏は、「当時、洋菓子専門店は県内では初めて。これが新鮮に受け止められ、運に恵まれたこともあって、創業時から比較的順調にこれたと思います」と振り返る。

創業から約10年間は洋菓子専門店として、仙台市への進出、山形市に大型店を開設するなどし、成長を続けたが、山形県を中心とした狭い範囲での多店舗展開では、店同士が競合となってしまった。また10年の間に、多くの洋菓子店が開業・進出してきたこともあり、売り上げが思うように伸びなくなった。

そんな時、常連のお客様から、「山形にはおいしいパンがないから、作ってくれませんか」という依頼を受け、1977年にパンの製造を始めた。パンはある程度売れてはいたものの、どうしても売れ残りのパンが出て、その処理に困っていた。

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