観光農業の先駆者に聞く 着地型観光成功の条件

日本で最も早く観光農業(グリーン・ツーリズム)に取り組んだイノベーターが山形県寒河江市にいる。元農協職員で観光カリスマの工藤順一氏だ。常に時代の先を読んできた工藤氏が語る、着地型観光成功への条件とは。

「雪中イチゴ狩り」など年間を通して途切れのない企画を立て、集客に成功

山形県のほぼ中央に位置する、人口約4万2000人の街、寒河江市。サクランボの産地として全国的に有名で、現在は年間120万人の観光客が訪れるが、30年前はたった5万人しか観光客の来ない所だった。それを激変させたのが、地域ぐるみの観光農業への取り組み。そのキーパーソンが、工藤順一氏だ。

農協職員のアイデアが地域全体を動かす

もともと農協の営農指導員だった工藤氏が観光に関わり始めたのは1980年のこと。オイルショックと輸入自由化で缶詰加工用のサクランボが衰退し、栽培農家の経営が苦しかった当時、都会の人にサクランボの木を購入してもらうオーナー制度を考案し、全国に売り出した。これにより農家の経営が改善したうえに、収穫期には全国からオーナーが寒河江に集まり、自分の木のサクランボ摘みを楽しむという、観光面での効果も発揮した。

農業は観光になり得る――。ちょうどヨーロッパでは観光農業(グリーン・ツーリズム)に火がつき始め、工藤氏は「いずれ日本でもブームが来る」と考えた。

「しかし、いくらアイデアがあっても支えてくれる人がいなければ成功しません。大切なのは人脈であり、地脈です。そこで、行政や異業種のネットワークを作ろうと考えたのです」

1984年、農協、寒河江市、農家に加えて、温泉旅館、鉄道・バス会社、飲食店などのあらゆる観光関連事業者が参加する「寒河江市周年観光農業推進協議会」の設立にこぎつける。グリーン・ツーリズムを農水省が提唱したのは1992年だが、寒河江はそれよりずっと早く、取り組みを始めたのだ。

工藤順一 観光カリスマ工藤事務所代表

雑草さえも観光資源

「当時はサクランボの収穫期である6月しか観光客が来ませんでした。『営業日数が30日では、普通の会社なら潰れている』と旅行会社からは言われましたね」。そこでまず、年間を通して途切れることのない農業資源を洗い出した。サクランボだけでなくイチゴ、モモ、ブドウ、リンゴ、ブルーベリー、田植えや稲刈りなどを『発見』し、それぞれを観光化する企画を考えていった。

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