2014年7月号

地域未来構想 青森県

一度は滅びた伝統食品を再生

角田克彦(財団法人ブナの里白神公社 支配人)

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観光客数が減少の一途をたどっていた、世界遺産の白神山地。製造が途絶えていた伝統食品「目屋豆腐」を復活させることで、地域活性化への足がかりを掴んだ。古くて新しい「生業(なりわい)」を創出した好事例と言えそうだ。

世界遺産・白神山地は2002年ごろをピークに観光客の減少が著しい

世界遺産頼みに限界

西目屋村は人口1500人弱と青森県内最小の自治体で、高齢化率も36%と高い水準にある。村の基盤産業は農業、それに白神山地の玄関口であることを活かした観光業だ。

白神山地・暗門の滝

1993年12月に屋久島と並び日本で初めてユネスコ世界遺産に登録された中津軽郡西目屋村の白神山地は、2001、02年をピークに観光客が減少傾向にあった。最盛期に11万3000人だった観光地・暗門の滝の来場者数も、去年は4万人以下まで減少。遊歩道を一時間ほど散策して到着する暗門滝は、観光客数が天候によっても左右されてしまう。

世界遺産とはいえ、自ら魅力を磨き、発信しなければ観光客はいずれ減少してしまう。西目屋村では、新たな食の特産物を生み出すことによる活性化策を模索していた。

村伝統の豆腐に着目

地元の若手が中心になってスタートした目屋豆腐の再生プロジェクト

「最初は村の文化として育てていこうと、白神そばと名づけたそばづくりを始めました」そう語るのは、西目屋村にて宿泊や売店など各施設の運営を行っている財団法人ブナの里白神公社の角田克彦支配人だ。「宿泊施設や飲食店で売り出したりそば焼酎を作ったりしましたが、そば処は全国にありますので差別化が必要です。名品にまで育てるには難しいと感じるようになりました」

折しも西目屋村では津軽ダムの着工が本格化し、村内にある砂子瀬、川原平といった地区は水の中に消えてしまうことになった。ダム本体工事打設開始式が行われた2012年には、津軽ダム工事事務所職員、西目屋村役場の若手職員たちによる水源地域活性化ビジョン協議会が発足。ダムができた後の村の活性化の検討を趣旨とするこの協議会上で、たまたま「そういえば最近、豆腐をみないよね?」と目屋豆腐のことがキーワードに上がった。

目屋豆腐の特徴は、一般的な豆腐に比べ手で持っても崩れないしっかりとした固さにある。豆の味が強く残っており、香り豊か。湯豆腐など火を通す調理法ではふわっとほどけるような柔らかさになる。

白神公社の売店などで目屋豆腐は販売され、連日完売となった

目屋豆腐を作っていたのはダムで水没してしまった砂子瀬、川原平の住民だった。手作りした豆腐を近所に振る舞っていたほか、12年前には合併前のJA西目屋に豆腐を作れる人がいたため、JA直売所や白神公社の売店でも地元民向けに小規模での販売を行っていた。

「それがJA弘前との合併により、豆腐を作れる職員が弘前へ異動となってしまいました。以来、目屋豆腐の製造・販売はストップしてしまっていた。そこに水源地域活性化ビジョン協議会にて、新しいものより以前からある伝統的なものを掘り下げていこうといった意見が出まして、目屋豆腐を復活させるプロジェクトが始まったのです」

連日売り切れで観光客増
西目屋だけのブランドへ

ブナの里白神公社の運営する物産センター Beech にしめや

目屋豆腐の復活は、地域住民や自治体にも歓迎された。原料となる大豆の生産を100%村で行おうと、作付を農家へ打診したところ、大豆は醤油や味噌などに加工できるため使い勝手がよいと快諾され、村内の村市地区に営農団体を作ることになった。村は農業の担い手不足で耕作放棄地が増えていたが、ここを利用して大豆を生産。これにより、農家の収入安定化にも効果が見込める。給食のメニューに組み込むなど村の文化に触れることで子どもへの食育に繋げられると、自治体も協力体制を整えてくれ、豆腐製造のための設備は村が予算を捻出した。

「目屋豆腐復活プロジェクトは2012年の冬にスタートしました。製造販売は白神公社の施設である『味な工房』で行われることに決まり、製造のためのノウハウの集積、機材の準備、味の調整など様々な準備を行いました」

切り出して水に浮かべた豆腐。豆の香りと独特な歯ざわりが特徴

初めての収穫となる大豆が届いたのが今年の1月。これで目屋豆腐生産に向けての素材がすべて揃い、お披露目は地元の乳穂ヶ滝氷祭の日である2月16日に決められた。

「販売当日はテレビや新聞が取材してくれて、豆腐を作っている過程なども含めて大々的に報道をしてくれました。メディアの影響もあってまさに飛ぶような勢いで売れていき、3月までで5千丁を売り上げ、原料の大豆がなくなってしまいました」

目屋豆腐による村の活性化は数字にも表れている。冬の西目屋村は通行止めの箇所が多くできるため例年客足が落ちてしまうところだが、2月3月の売店利用数は昨年の4969人に比べ6265人と1000人強の増加となった。「食の特産物で村を活性化させたい」その願いがまさに現実となったのだ。

公社施設内に豆腐製造室を整備

好調なスタートを切った目屋豆腐だが、これを維持するためにより一層の仕掛けが求められる。今年は豆腐を水に浮かべて欲しい分だけパックに入れる対面販売を行ったが、来年はパッケージに入れることで、商品としてさらに洗練させていきたいと角田支配人は話す。「かといって通販などで全国販売しようとは考えていません。あくまでも西目屋村に来ないと買えないし食べられない、そういった戦略をとりたいと思っています」

観光資源や特産品に頭を悩ませている地域が全国には数多くあるはずだ。その場にないものをこれから作るより、自分たちの手に残されている魅力あるものを探し出す。目屋豆腐復活のストーリーは、活性化を考える地域に一つのヒントを与えてくれそうだ。

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

※バックナンバーには、そのほかの都道府県も掲載されております。是非ご一読ください。

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