2014年7月号

地域発医療イノベーション

ケア・リゾートという選択

前川勝美(アンビックス取締役副社長)、武田亜也(小樽朝里クラッセホテル支配人)

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宿泊しながら気軽に“健康診断”。新規ヘルスケア事業を導入し、「ケア・リゾート」というオンリーワンの価値を見出した小樽朝里クラッセホテル。健康を切り口に取り組む、ホテル“トータルブランディング”の手法とは?

心地良く揺らぐ灯りで満たされたロビー。「心の健康」というより広い年代層に響くフレーズで、若い世代も取り込む

温泉に入ると疲れが取れる。その幸せを宿泊者の「気分」で終わらせないところに、このホテルの価値がある。

小樽朝里クラッセホテルは「エイジングケア・リゾート」を掲げ、利用者の健康回復、健康づくりに総合的にアプローチしてきた。「2003年から始まった小樽市の観光クラスターが事業のきっかけでした」と、経営母体であるアンビックスの前川勝美取締役副社長は語る。全国初の観光を切り口としたクラスターにおいて、小樽朝里クラッセホテルは「観光クラスター研究会」にメンバーとして参加した。

朝里川温泉は一般道で40分と札幌からほど近く、四季を通じてレジャーも楽しめる小樽の奥座敷である。研究会は、当時主流だった大型バスで名所を巡る周遊型旅行のコースに組み込まれることよりも「保養地」としてのブランディングに比重を置くことを選択し、この小規模な温泉郷を「ゆらぎの里1/f」と位置付けた。

自然現象にしばしば見られる「1/fゆらぎ」と朝里川の豊かな自然がつくりだす心地いい空間を重ね合わせ、心身を癒す湯の里として差別化を図り、滞在型旅行の需要の掘り起こしを狙ったのだ。このコンセプトが発展するかたちで、小樽朝里クラッセホテルも「健康」をキーワードにした事業に取り組み始めた。

ファンとリピーターを生む
効果を実感できる仕組み

観光クラスターでの活動を素地とし、小樽朝里クラッセホテルは「総合的療養型リゾート」として「運動・栄養・休養」の3つの軸でサービスを充実させてきた。多様な運動強度のプログラムを構築し、マクロビオティックに基づく料理や薬膳料理を提供。このほか、オリジナルメニューやサプリメントの開発・販売も行っている。休養は入浴方法や快眠を誘うリーフレットを提供し、好評である。客室のしつらえにもこだわり、質の高い休息が取れるよう配慮している。

専門性の高い分野である「健康」を売りにするにあたり、小樽朝里クラッセホテルではアンチエイジング分野の第一線で活躍する医師や専門家と連携し、医学的な視点からアドバイスをもらっている。スタッフたちもプログラムを体験した上で商品を組み立ててきた。

2010年から行政の支援を受け常設した「健身コンシェルジュ」も特筆すべき存在だ。健身コンシェルジュのデスクでは、希望者へ「AGE(最終糖化生成物)リーダー」での体内糖化(身体の焦げ)測定と「TAS9(血管年齢・自律神経バランス)ソフト」による自己測定結果の解説がされる。このなかで、元気回復に必要なテーラーメイドのプログラムや、サプリメントの組み合わせ、食事への提言を受け、現在の心身の状態へヒントを得た方はすでに6,000人を超えた。リピート客や家族、友人を連れてくる人も多い。

「病院に行くまでもないけれど気になることがある。でも、自分の体への的確なアプローチはわからない。そこをフォローしてあげると、お客様がホテルで過ごす時間はより健康的で有意義になる。ホテルへの評価も高まります」と前川副社長。実際にここ1〜2年、連泊が増え、宿泊客の10〜15%が2泊3日を選択するようになった。北海道内では目を見張る数字だ。宿泊を療養と捉える湯治の原点に立ち返るとともに、現代的な方法で健康への気付きを提供したことが、固定ファンの獲得に功を奏している。

“健康”は時代に即したテーマ
課題解決の力で商機を掴む

「体内糖化測定機器」では宿泊・日帰り問わず1,080円と格安で自分の心身の状態を把握できる

朝里川温泉には地域の人が通うデイリーな湯治場と、個人観光客が通うリゾートという2つの顔がある。地域に対しては昨今、これまで蓄積してきたノウハウを知識というかたちで提供している。昨年度、小樽市介護保険課からの事業委託により実施した高齢者への「介護予防教室」がそのひとつだ。2年前から独自に開催してきた「温泉健康倶楽部」という健康教室のアレンジで好評を得ている。「『温泉健康倶楽部』は、いずれは11のグループ温泉施設へも拡大していきたいです。誰しも寝たきりで長生きはしたくない。健康長寿が重要です。高齢者の医療費問題は個人の家計にも自治体経営にも直結します。北海道の社会的課題にコミットし、自治体との協同で地域への貢献を図りながら事業を充実できれば」と前川副社長は展望を語る。

前川勝美・アンビックス取締役副社長(右)武田亜也・小樽朝里クラッセホテル支配人(左)

リゾートとしては、これまで蓄積してきたノウハウをセット化。体験型旅行商品の企業への販売を見込んでいる。「私たちは心の健康に着目し、2014年4月から『キャンドルリゾート』というコンセプトを掲げ、ホテル内にキャンドルと1/fゆらぎを再現したLEDライトを設置しました。夕方からは館内に毎日200個のキャンドルを灯しています。こうした取り組みで、法制化で企業経営に欠かせなくなるストレス管理のニーズをすくい上げ、企業の保養先としての利用の獲得につなげていくことを考えています」と武田支配人は言う。

豊かな自然に囲まれた温泉地は北海道に数多く存在するが、どのような切り口で語り、説得力を持たせるかで存在感は大きく変わる。健康は国を超えた普遍的なテーマであり、外国人観光客も引きつけられるという強みがある。「アジアの方々は健康への関心が非常に高い。サプリメントは免税申請中で、今後さらなる販売拡大が見込まれます」と前川副社長。新千歳空港からの外国人入国者は2013年、開港以来最高の50万人超を記録した。羽田空港のハブ化も追い風に「ケア・リゾート」というオンリーワンの価値で、ここからのさらなる飛躍を狙っている。

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