再生医療イノベーションフォーラム会長が語る 再生医療の社会実装へ必要な解決策

再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)の畠賢一郎会長は、再生医療の社会実装には従来の医薬品とは異なるエコシステムの構築が不可欠だと語る。今後も再生医療等製品の承認が増えると予想される中、信頼性・医療財源・海外展開・人材育成の4つの課題解決により、日本の再生医療産業の未来を描く。

畠 賢一郎(再生医療イノベーションフォーラム[FIRM]
代表理事会長、ジャパン・ティッシュエンジニアリング
[J-TEC]相談役)

イノベーションの本質は社会実装
再生医療にそのしくみをつくる

「革新的な技術の発明、それをいかに社会実装していくか、そこにイノベーションの本質があるのです」。

再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)の代表理事会長に就任した畠賢一郎氏は、再生医療が直面する根本的な課題をこう説明する。同氏は2019年から4年間、FIRMの会長を務め、2025年6月に再度会長に就任した。名古屋大学医学部などで口腔外科医として臨床や医学研究に携わった後、産業界に転身。現在は相談役を務めているジャパン・ティッシュエンジニアリングでは、日本で初めての再生医療等製品であるヒト(自己)表皮由来細胞シートの承認と発売を実現した。その後も同社では再生医療等製品を開発・製品化し続けており、その経験から畠氏は従来の医薬品や医療機器とは異なる再生医療特有の課題を熟知している。

「従来型の医薬品の世界では、研究開発から臨床試験、社会実装まで、製造やマーケティングも含めてほぼ完璧なシステムが出来上がっています。しかし再生医療等製品は違う。iPS細胞のような新しい技術が発明されても、それを社会実装するための仕組みはまだ確立していないのが現状です」。

日本では、2025年9月現在で21の再生医療等製品が承認されている。それぞれの製品は、研究から製造、臨床現場への投入と段階が進むにつれ新たな課題に直面し、その解決策を模索しながら開発が進んできた。畠氏は「様々な課題が見つかっては解決され、先に進んできました。現在の業界で大きな課題として認識されているのは、再生医療等製品が最も治療効果を発揮できるような投与の方法や手技をいかに医療現場で実現するか、です」。

その背景にあるのは、再生医療の独特の性質だ。「再生医療は、その製品の価値を十分に発揮するためには、それを使用する医療側の対応もきわめて重要です」と同氏はいう。細胞の移植治療の対象となる疾患、例えば視細胞の変性を原因とする視力の低下や脊椎損傷では、医師の手技が重要であったり、効果を出すまでにリハビリなどの介入が必要になったりするケースもある。製品のクオリティが高くても、患者への投与とその後の治療がスムーズにいかなければ、狙った通りの治療効果は出ないかもしれない。無論、これら製品はどのような使われ方をしても効果をもたらすことが目標ではあるものの、新しい技術が社会実装される過程において、こうした医療者の経験が重要になる。これに対し、がんに対するCAR-T細胞療法のように、作用機序が明確で医薬品と同様の評価が可能な製品も存在する。再生医療等製品の多様性を適切にカテゴライズし、それぞれに適した評価方法や提供体制を構築することが課題だという。

信頼性確保と医療財源
避けて通れない難題への挑戦

畠氏は、FIRMとして解決すべき4つの課題をあげている(囲み参照)。中でも特に重要なのが、再生医療の信頼性確保と医療財源の問題だ。

再生医療4つの課題

・再生医療の信頼性の確保
-細胞や遺伝子といった新しい製品の安定供給と、その治療経験の蓄積

・再生医療実施に必要な財源確保
-製品開発・製造にかかる費用の確保と、普及後における新たな医療財源の創出

・グローバル展開
-わが国で開発した再生医療の海外への展開とメディカルインバウンドの可能性

・人材育成
-専門性人材・多様性人材、定型的業務・非定型的業務などの必要に応じた人材の育成

 

「再生医療は、これまで治療が難しかった疾患に対する医療の選択肢として大きな期待が持たれています。これら期待に応えるためには、まずは信頼性の高い医療を提供する義務があるといえるでしょう。だからこそFIRMとして、企業側ができる努力、すなわち製造方法の確立や社会実装に耐えうる品質の安定など、より信頼できる環境整備が急務なのです」。

医療財源については、再生医療にまつわるコストが必然的に高くなることは大きな課題である。わが国の保険財源はひっ迫している。そのような中でこうした高額医療を提供することは容易でない。「いかに提供コストの低減に努めるか、そのコストに見合う効果を提供できるか、企業側も常に考えるべき内容です。一方で、こうした医療を通じて新たな財源をつくる視点も大切なのではないでしょうか」。新たな医療財源確保の手段としての再生医療についても、今後の展開を注視したい。

また、重点項目の中で畠氏が最も情熱を込めて語ったのが人材育成だ。研究者として大学に勤務していた時代から関心があったが、企業での活動を経てさらにその重要性を実感したという。

「臨床現場と企業、基礎研究と製造現場、これらを繋ぐ橋渡し人材が絶対的に必要です。例えば、研究者が作り上げた細胞培養法を、いかに製造現場で再現可能にするか。1編の論文を書くなら属人的な手法でもよいのかもしれませんが、社会実装するためには全く違うアプローチが必要なのです」。

さらにその先、再生医療が社会実装されるようになれば、「体外でヒトの臓器や組織を扱い、ケアする専門職」が生まれる可能性もあると畠氏は考えている。

「例えば、将来的に患者の肝臓を取り出してオーバーホールし、元気にして戻すような医療が実現したとき、それを担うのは医師なのか、看護師なのか、それとも新たな専門職なのか。既に医薬品には薬剤師という専門職がいる、ということを考えると、病院にヒト細胞・組織取扱部門があってもいいのではないでしょうか」。

その一方、再生医療に関わる専門人材を育成する上では、インセンティブを確保することも重要だと指摘する。「高額な年俸を稼ぎつつ活躍する野球選手がいるから野球少年が増えるように、再生医療でも成功事例が増えれば、目指す人材も増えてくる。その好循環を作り出すことが重要です」。

海外展開については、再生医療等製品は従来の医薬品のようなグローバル展開とは異なるアプローチが必要だと話す。「細胞製剤のような保存安定性が低い製品は現地生産が適している場合もある。同時に、インバウンドで患者を受け入れる医療ツーリズムの可能性も検討が必要です」。

最後に、畠氏は再生医療の理想像として「究極の個別化医療」を掲げた。患者一人ひとりに最適な治療を提供するテーラーメイド医療の実現だ。さらに、この分野での日本の強みとして、緻密な細胞培養技術と高品質なものづくり文化を挙げる。

「患者にあわせ、異なる細胞を治療に使えるようにする緻密で失敗しない培養技術。これは日本の得意分野です。医療現場と企業が同じ立場で議論し、良質な再生医療等製品が生まれる環境を提供することで、グローバルな競争力を持てるようになると考えています。日本の文化を活かしたエコシステムを作っていきたい」。

再生医療という新たな分野を真の社会イノベーションへと昇華させるべく、FIRMの活動は新たな段階を迎えている。

 

畠 賢一郎(はた・けんいちろう)
再生医療イノベーションフォーラム(FIRM)代表理事会長
ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)相談役