2014年4月号

防災を変える技術とアイデア

防災技術を東北から世界へ

根元義章(情報通信研究機構・耐災害ICT研究センター センター長)

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3月3日、東北大学構内に情報通信研究機構(NICT)耐災害ICT研究センターが開所する。災害に強い情報通信技術の研究開発を使命とする、世界でも稀有な研究機関だ。東日本大震災の教訓を仙台から全国へ、そして世界へと発信していく。

被災地だからこその貴重なアイデア

NICTが開発中の無人飛行機を使ったワイヤレスネットワークシステム

耐災害ICT研究センターは、総務省所管の独立行政法人・情報通信研究機構(NICT)が東北大学との連携により2012年4月に設立した研究組織だ。今年3月には研究棟が開所し、いよいよ事業が本格化する。

情報通信研究機構・耐災害ICT研究センター
根元義章センター長

「震災では情報通信システムが大きな被害を受け、その脆さが明らかになりました。同時に、情報通信が電気や水道と同じく、人間に欠かせない社会インフラであることがはっきりしました。そこで総務省の施策に則り、災害に強い情報通信ネットワークを研究する専門機関を立ち上げたのです」と、センター長を務める根元義章氏(東北大学名誉教授)は設立の経緯を説明する。

なぜ仙台でセンターを開所するのか。「連携先の東北大学は、情報通信研究の拠点として世界的に有名です。さらにここには、被災地だからこその貴重な多くの経験やアイデアがあります。極限の本当に困った状況を、行政も企業も研究者も、そして住民も経験している。そこから生まれた新しい発想を具現化するには最適の場所です」。

次世代の防災ICT技術 3つの重要テーマ

同センターでは、(1)災害時の輻輳(ふくそう)を軽減するロバストネットワーク基盤、(2)災害に強いワイヤレスネットワーク、(3)災害時の素早い状況把握を可能にする情報配信基盤、と大きく3つの技術を研究テーマに置いている。どれも東日本大震災で明らかになった課題を解決するための技術だ。

震災では携帯電話などの回線が「渋滞」を起こし、繋がりにくくなる輻輳という問題が全国で発生。これはネットワーク設備が一部障害を受けるとともに、震災直後に通信の要求が急増したために起こる現象で、安否確認や被害状況把握に重大な影響を及ぼした。センターではこの輻輳に対応するための迂回通信の高速制御システムや徒歩でも運べる障害箇所の緊急代替システムなどを開発する。

また、災害に強く、通信が断絶されたエリアなどでも設置が容易なメッシュ状の基地局配置を持つワイヤレスネットワークを実証。さらに無人飛行機や衛星通信などを使ったワイヤレスシステムも研究していく。

「この分野は電波研究所を前身とするNICTが一番得意とする分野です。無人飛行機を初めて災害利用として使ってみたり、専門オペレーターが必要だった衛星通信システムの操作を自動化したりと、官民が連携し、今までにない発想で研究開発が進んでいます」。

もうひとつの研究テーマが、インターネットを活用した災害情報配信基盤の構築。震災時はSNSやtwitter上でさまざまな情報が発信され、有効活用された一方で、風評被害や不正確な情報が救援活動や復興を妨げる局面もあった。

情報を中立的に評価し、信頼性の高いものを伝えるためのインターネットシステムが必要だ。そこでNICTの開発した質問応答システム「一休」や東北大学の「言論マップ」技術などを統合し、データ集約から情報提供までを行う「災害用の賢い質問応答システム」を開発していくという。

災害対応情報分析システムの頭脳となるサーバルーム

東北大学内の耐災害ICT研究センター

地方自治体とも連携
耐災害技術のメッカを目指す

「基礎研究はもちろん重要ですが、私達の最大のミッションは成果をいち早く実用化して世の中に提供することだと考えています。そのために産学官でスピード感ある開発を行っていきます」と根元氏は言う。

また、「地方自治体に成果をどんどん提供したい」という。災害時に通信インフラが途絶した場合、都会から離れた地方に与える影響は大きい。「例えばある自治体で耐災害技術のモデル導入を実施し、現場の意見を吸い上げてより良いものに仕上げ、それを全国に展開するといった仕組みを作りたいですね」。

実際に宮城県女川町では、メッシュネットワークの実証がスタートする。ここでは、災害時の利用だけでなく、生活関連情報を住民のスマートフォンやパソコンに配信するシステムを作る予定だ。

「地方自治体は財政的に厳しい。100年に1度の大災害に備えて、高価なシステムは導入できません。しかし災害時だけでなく日常でも便利に使えるものならば、導入の可能性は高まるし、日常的に使うことで万一の場合の訓練にもなります」。地方自治体や地域住民の目線に立った姿勢が、防災技術の開発には求められている。

根元氏は世界にも目を向けている。「台風や洪水、干ばつなどによる大きな被害が世界中で多発しています。こうした分野にも被災地の知恵を活かしたいし、防災技術の輸出で日本経済にも貢献していけると思います」。

「自然災害は人間に与えられた大きな試練。その経験を活かし、乗り越えるという責任が私達にはある。耐災害技術のメッカとして、世界に誇れる国際研究機関を目指していきます」。産学官の知恵が結集する耐災害ICT研究センターに、大きな期待が寄せられている。

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