2014年4月号

防災を変える技術とアイデア

災害対策ロボットの最前線

千葉工業大学

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東日本大震災では歴史上初めて、原子炉建屋の調査、上空写真撮影、被害調査などで、数多くのロボットが活用された。福島第一原発内を調査したロボットを開発した千葉工業大学は、さらなる技術の進化を目指して研究を続ける。

千葉工業大学は原発対応で活躍したロボット「Quince」の知見を活かして、新たに「櫻シリーズ」を開発。より小型で機動性が高く、強力な動力を持つロボットが開発された

福島第一原発事故後、約3年間にわたり、作業員の立ち入りが困難な原子炉建屋内で、日本で生まれたレスキューロボットが活動を続けている。千葉工業大学の未来ロボット技術研究センター(fuRo)が開発した「Quince(クインス)」だ。

Quince1号機は2011年6月、東京電力からの要請により、無償貸与という形で現場に投入された。以後、6回にわたり建屋内のダストサンプリング、放射線量測定、写真撮影などで成果を上げた。続いて、2012年2月には2号機と3号機が投入され、使用済み燃料プールから燃料を取り出す作業の準備に向け、7回にわたって出動し、現場状況の撮影や放射線量の測定を行った。現在は、次のミッションに向け待機中である。

ロボットの操縦は、ゲームパッドのようなデバイスで行う

震災後、原子炉の調査で活躍

未来ロボット技術研究センター内には、現実の環境を再現してロボットの動作を検証するための設備が揃えられている

自律移動型ロボットQuinceは、もともと文部科学省委託の「戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト」(2006~2010年度)で、NEDOの下、東北大学らとの合同チームで開発したレスキューロボットだ。地震時の地下やビル内での調査を想定し、狭い階段や瓦礫の中でも高い走行性能を発揮できることが特徴だ。

東日本大震災後、Quinceについて、東京電力からfuRoに問い合わせがあったのは、3月下旬だった。4月下旬には、Quinceを原子炉建屋内の作業に投入することが決まり、改良が始まった。当初は、5月のゴールデンウィーク明けにも、高温多湿、高濃度放射能の建屋内の作業に対応した改良を終える予定だった。しかし、写真撮影、放射線量測定に加え、地下汚染水への水位センサー投入や汚染水採取など新たなミッションに対応するため、6月の中旬まで改良作業が続いた。

ソフトウェア開発など移動プラットフォームのすべての開発を担当した千葉工業大学fuRoの上級研究員の吉田智章氏は、「東京電力もこちらも、わからないことが多く、手探り状態でした。要求される性能をロボット技術とすり合わせるようにして改良を進めました」と振り返る。

6月20日に送り出したQuince1は本体の上に500mのケーブル、有線通信装置、水位センサー、カメラ、線量計を搭載し、重量は40kg(通常は30kg)。Quinceは原子炉建屋の傾きが40度ある階段を昇降し、秒速20cmで走行できる。

吉田氏は、この3年にわたるミッションの遂行で「自律走行型レスキューロボットQuinceの基本的な性能、能力は十分に証明された」と見ている。

汚染状況のマッピング・システム。ロボットが収集した
データを3次元的に可視化する

オールジャパンで実用化へ

fuRoでは、その後もQuinceの後継機を着々と開発し続けている。NEDOの「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」(2012~2013年)から生まれたのが、狭隘空間先行調査型移動ロボット「Sakura」と重量計測器搭載型移動ロボット「Tsubaki」である。

「Sakura」は原子炉建屋地下階段の70cmしかない狭い踊り場でも旋回できるよう全長50cmとQuinceよりも小型で、低重心に設計されている。「Tsubaki」は重さ80kgのガンマカメラを搭載して、階段の昇降を行えるよう、強力なモーターと長いサブクローラを採用した。

こうしたガンマカメラやサーモグラフィの計測データを現場の3次元データ上に表示できる「汚染状況災害対策用作業マップ技術」も、汚染状況を容易に把握できるマッピング技術として注目される。また、千葉工業大学では作業員の被爆を抑えるため、これらのロボットの「遠隔充電システム」と「遠隔除染システム」も開発した。

NEDOの同プロジェクトは研究開発の目的ではなく、日立製作所、三菱重工業、東芝などオールジャパン体制で作業ロボット、計測器、通信機などの実用化を目指した取り組みだ。

各社がバラバラにロボットを開発するのではなく、ユーザーインターフェースを統一することで、操縦者が同様の画面、コントローラで各社の機器を操作できる。

ロボット技術 産業化の行方

「ロボット技術をめぐっては従来、フィールドでロボットを動かしても、論文を書くようには評価され難い。しかし、福島原発への投入などで実績を重ねることで、評価を受けやすくなりました」(吉田氏)

吉田氏の下でロボット開発に携わるfuRO研究員の西村健志氏は、こう語る。

「NEDOの2つプロジェクトへの参加を通じて、消防庁の訓練に使っていただいたり、自律移動体型ロボットの上で動かすアプリ開発側からフィードバックがあったりと、多面的に技術を検証することが可能になりました」

企業からの注目も高まっている。2013年8月には三菱重工業との間で「櫻弐号」の開発・生産に関する技術・協力協定を締結。今後、同社から生産・販売する予定だ。

原子炉調査や災害対策を想定して開発されたロボットを、事故現場や工事現場など他の場面で使うことは十分に考えられる。また、海外のマーケットを視野に入れることもできる。実際、Quinceの開発時にも、海外からの問い合わせはあったという。

吉田氏は、「原発だけではなく、トンネル崩落事故など様々なケースに活用できると思います。ベストなのは災害時だけではなく、普段使えることです。そのためには現在のように人が付きっきりで操作するのではなく、1人か少人数でたくさんのロボットをオペレーションできるよう技術が発展する必要があります。そうなると、メンテナンスや点検にも使え、産業として成り立つようになるでしょう」とロボット技術の将来を描いている。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)研究員・西村健志氏(左)と、fuRo上席研究員・吉田智章氏

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